デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ブルーノートのグラント・グリーン

2016-04-24 09:35:01 | Weblog
 そこにジャズの神様がいたとしか思えない出会いがある。例えばキャノンボール・アダレイとウェス・モンゴメリー。キャノンボールがツアー中、インディアナポリスでギグがはねたあと地元のジャズクラブを訪れたとき聴いたのがウェスだ。そのテクニックに驚いて早速、親分のオリン・キープニュースに「ビッグニュースでっせ」と電話をする。地方で羽目を外して女遊びにでも興じていたならウェスのデビューはなかったかも知れない。

 同じくギタリスト、グラント・グリーンをセントルイスで聴いたのはルー・ドナルドソンで、「グリーンを元気よく走り回っている若獅子です」とライオンに紹介する。粒立ちのシングルトーンに魅せれたライオンは、ブルーノートのオールスターを次から次へと組み合わせてレコーディングをはじめた。リーダー作だけでも20枚近くあるし、恩人のルーはもとよりハンク・モブレイ、リー・モーガン、ハービー・ハンコック、親戚でも何でもないがドド・グリーンのヴォーカルにも参加している。ブルーノートというレーベル自体駄作はないが、グリーンの参加アルバムも然りだ。

 数あるグリーンの作品中一番売れたのは、一般受けするジャケットと当時の大ヒット曲をタイトルにした「I Want to Hold Your Hand」と思われる。売るためのタイトル曲はともかく、「Speak Low」や「Stella By Starlight」というスタンダード中心の選曲と、曲によりモブレイも入っているがオルガンのコルトレーンとも称されたラリー・ヤングとエルヴィン・ジョーンズの参加はソウル系が苦手なジャズファンも納得の1枚といえるだろう。ベストトラックは「This Could Be The Start Of Something Big」で、軽快ながらブルージーなギター、オルガン、ドラムという編成の妙を味わえる。

 方やオクターブ奏法、方や甘美なシングルトーンでジャズギター界を牽引した二人だが、後期は同じような道を辿った。「California Dreaming」に「A Day In The Life」、「Main Attraction」に「Easy」とイージーリスニング・ジャズに路線変更したことで、リヴァーサイドやブルーノートのファンからそっぽを向かれる。一方、理屈抜きで楽しい作品からジャズに入った人もいるだろう。ともに間口を広げた偉大なギタリストである。
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一件落着、ローラ・オルブライトを聴こう

2016-04-17 09:12:04 | Weblog
 アメリカで1958年から放映されたテレビ・ドラマ「ピーター・ガン」は元祖私立探偵物として知られる。その当時、ドラマのBGMといえばオーケストラが主流だったが、ジャズのコンボ演奏を使ったことで注目された。その後「サンセット77」をはじめハードボイルド物はジャズがバックというのがスタイルになっている。テーマ曲はヘンリー・マンシーニが有名になる前の作品だが、傑作として名高い。

 一件落着すると主人公はジャズクラブで寛ぐのだが、ここで歌っているシンガーが主人公の恋人という設定だ。これは現在の日本の刑事物にも踏襲されていて、藤田まことや水谷豊が小料理屋でママ相手に世間話をする原形といっていい。そのシンガー役がローラ・オルブライトで、女優としてはその後「危険がいっぱい」でアラン・ドロンと共演しているし、「0011ナポレオン・ソロ」にも出演している。歌手としてはこのドラマで知り合ったマンシーニの協力のもと制作した「Dreamsville」が人気盤だが、女優として売れる前の57年に録音した「Lora Wants You」も忘れがたい。

 「トムとジェリー」でお馴染のディーン・エリオット編曲指揮のオーケストラをバックにジャケットからも漂う妖艶なハスキーボイスで迫ってくる。甘い代表「Candy」や「All Of You」、「He's My Guy」、そして特にいいのが「I've Got A Crush On You」 だ。ガーシュウイン兄弟の曲で、速いテンポで歌うことを想定して書かれたようだが、リー・ワイリーがバラードで歌ったことからその唱法が定番になった。ローラもゆったりとしたテンポで丁寧に歌い上げる。「あなたに首ったけ」という邦題が付いているが、「Crush」という本来持つ熱狂的な意味合いも伝わってくる歌唱といえよう。

 「ピーター・ガン」が日本で放送されたのはテレビ普及率が60パーセントの1961年だ。今の世代には想像も付かない白黒テレビである。昭和でいうと36年で、「上を向いて歩こう」や「君恋し」、「銀座の恋の物語」がヒットしている。アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズが初来日したのもこの年だ。決して物が豊かな時代ではなかったが、パブリカが巻き上げる土煙が懐かしい古き良き昭和であった。
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スラングから Bye Bye Blackbird を読み解く

2016-04-10 09:17:32 | Weblog
 今年2月だったか、「今、アメリカは黒人が大統領になっている。これは奴隷ですよ」と言った国会議員がいた。アメリカの歴史を学び始めた小学生でも大統領と恥部である奴隷制度を結びつけないだろう。稚拙で不見識な発言は小学生以下のレベルだ。おまけに反省の色もない。90年代初頭にブームになった反省猿ではないが、札幌の丸山、いや円山動物園の猿でも反省できる。

 「Bye Bye Blackbird」という曲がある。1926年に映画やミュージカルとは関係なく作られたもので、当初はヒットしなかったが細く長く愛されている曲の一つだ。54年にマリリン・モンローが映画「帰らざる河」で歌っていたし、2009年の映画「パブリック・エネミーズ」ではダイアナ・クラールのバージョンが効果的に使われていた。さて、この「blackbird」とは何か?不運、不吉、また売春婦等、様々な解釈がされている歌詞の内容は機を改めるとして単語だけをとると一般的にはツグミ科のクロウタドリという鳥のことだが、スラングでは「黒人」や「奴隷制」をさすという。

 先週話題にした「I Fall In Love Too Easily」同様、この曲もアドリブの素材に対する嗅覚が研ぎ澄まされているマイルスが取り上げたことでモダンジャズ・チューンとして定着している。今回はワンホーンで悠々と吹くベン・ウェブスターを選んでみた。レイ・ブラウンとエド・シグペンのキッチリとしたビートのイントロからやんわりと吹きだすベンといきなり飛ばすオスカー・ピーターソンとの対比が面白い。エンディングで一気に盛り上がったあとピーターソンがラストに一音入れるあたりはお見事。ジャケット写真は合成だが、ゲッツとエヴァンスのそれのように仲が悪いわけではないので誤解なきよう。

 暴言といえば滋賀県で甲子園に出場する球児に向かって「1回戦負けしろ」と言った県議がいた。「しがない奴」とはこれだ。かと思えば国会審議中に携帯電話をいじった挙句あくびをした議員もいる。名前は「みどり」だが枯れていた。また年に地球5周分相当のガソリン代を収支報告書に記載したのもいる。こちらは「志桜里」だが、会見でしおらしさはなかった。早いとこ、議会からバイバイしてほしい。
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北海道新幹線と Blue Train

2016-04-03 09:05:39 | Weblog
 先月26日に開業した新幹線で北海道が沸いている。E5系とほぼ同仕様のH5系と呼ばれる流線型の車両は見るからに速そうだし、何よりも美しい。鉄道マニアではないのでE5系と聞いてもピーンとこないが、レコードマニアのブルーノート1500番台と同じように鉄道ファンにとっては憧れの車両のようだ。高速化に向けた課題もあるとはいえ新幹線で本州と北海道が結ばれることは喜ばしい。

 電車、列車、鉄道のジャケットが何枚かある。レトロな汽車に追いかけられるジャック・ウィルソンの「Ramblin'」に、鞄一つぶら下げて貨物列車にただ乗りするジミー・スミスの「Midnight Special」、訳ありの女性が列車で一人旅するレイ・ブライアントの「Lonesome Traveler」、昼間ジャズ喫茶でリクエストしても受け付けてくれないオスカー・ピーターソンの「Night Train」。そして、「Night Train」が新青森発なら、新函館北斗発はグイードとも表記されるギド・マヌサルディ(Guido Manusardi)の「Blue Train」だ。進行方向とタイトルが少し違うだけなので、青函トンネルを抜けたあとでは見分けが付かない。

 イタリア出身で欧州各地を転々と回りながらその地を訪れるアメリカのミュージシャンと共演することで腕を磨いたピアニストだ。このアルバムは当時住んでいたスウェーデンで67年に録音した初リーダー作で、ベースは地元のスチュア・ノルディン、ドラムはアルバート・ヒースが参加している。このヒースのサポートが素晴らしく、マヌサルディのジャズ・フィーリングを余すことなく引き出している。「Poinciana」、「Autumn Leaves」そして「I Fall In Love Too Easily」、お馴染みのスタンダードはよくありがちな欧州の理論ピアノではなくスウィング優先のアメリカン・スタイルだ。

 H5系の色は上部が常盤グリーン、下部は飛雲ホワイトでその境目となる中央に彩香パープルの帯が入っている。雄大な北海道の大地を走るのに最高のデザインと色だ。北海道日本ハムファイターズは、この配色でユニフォームを作っている。開業日の試合で着用したのでご覧になった方もおられよう。札幌までの延伸は2030年の予定だが、球団、道内企業、道民が一体となれば早くなるかもしれない。
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