デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

シルヴィア・マクネアーとアンドレ・プレヴィンの後姿

2013-09-29 09:00:11 | Weblog
 アンドレ・プレヴィンと写っている女性は誰なのだろう?目元が何処となく似ているのでお嬢さんか。それともミア・ファローやベティ・ベネット、ヴァイオリニストのアンネ=ゾフィー・ムターとも結婚歴があるプレヴィンの新しい恋人か。等といらぬ詮索というよりも、数々の浮名を流したプレイボーイへの嫉妬と羨望に近い眼差しでジャケットをしげしげと見た。赤い傘が大きなアクセントになった構図的に優れたデザインである。

 シルヴィア・マクネアーというアメリカのソプラノ歌手だ。クラシックには疎いので名前は知らなかったが、その分野ばかりでなくポピュラー・ミュージックの世界でも有名だという。プレヴィンもクラシックの分野で活躍しているので、この企画が持ち上がったものと思われるが、これが優れた内容で単なる顔合わせに終わっていない。クラシックの歌手というと高音が強調され、ポピュラー・ソングには向かない傾向にあるが、マクネアーは必要以上に高音を引っ張らず、抑えることでジャジー感さえ出している。そしてプレヴィンといえば、美女のバックでピアノを弾くのが嬉しくてたまらないといわんばかりだ。

 サブタイトルにあるようにハロルド・アーレンのソング・ブックで、「虹の彼方に」をはじめ「ペーパー・ムーン」、「ストーミー・ウェザー」という有名なものから普段あまり歌われることがない曲まで20曲を集めている。特に素晴らしいのはタイトル曲の「降っても晴れても」で、作詞はジョニー・マーサーだ。対句を繰り返して愛の深さを訴える歌詞で、いつもはアーレンにメロディを書いてもらって、宿題のようにそれを持ち帰って翌日に歌詞を完成させたマーサーだが、この曲はアーレンの書斎でピアノのメロディに耳を傾けながらその場で作ったという。当初はヒットしなかった曲も今では大スタンダードになっているが、そんな曲ほどいとも簡単にできたりする。

 ジャケットに惹かれて手にしたアルバムだが、収録曲を確認するために裏ジャケットを見て驚いた。こちらもマクネアーとプレヴィンのツーショットで、カバー裏らしく後姿を写しているのだが、これがいい。二人の歳は親子ほどの27歳離れているが、娘が年老いた父を支えるような愛情が背中から伝わっているようでほのぼのとする。昨今、顔をしかめたくなるエロ・ジャケットが跋扈するなか、粋を切り取った写真に頬が緩むだろう。  

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ナット・アダレイの素敵な相棒

2013-09-22 08:46:49 | Weblog
 先日、映画「素敵な相棒」を見た。ドラマの「F.B.EYE!!相棒犬リーと女性捜査官スーの感動!事件簿」や、「男の相棒は猫に限る」というウィリー・モリスの著書があるように、相棒というと犬や猫のペットに結びつくが、この映画の相棒はロボットだ。サブ・タイトルは「フランクじいさんとロボットヘルパー」で、物忘れが激しくなった元宝石泥棒の父親を案ずる息子が、介護型ロボットをプレゼントするというストーリーである。

 現実のロボットの進化は知らないが、映画のロボットは自立歩行や会話は勿論のこと、雇い主の健康管理や、意欲を出させて生きがいまでをも見つけさせるようにプログラムされているから驚きだ。ロボットのおかげで元気を取り戻したフランクじいさんは、こともあろうに昔鳴らしたピッキングの技術を善悪がプログラミングされていないロボットに教える。超高性能だけあり習得も早く、これで泥棒の相棒ができたというけだ。そして・・・これ以上はネタバレになるので書けないが、面白い作品だった。そのロボットをジャケットに使ったアルバムにナット・アダレイの「マンハッタンの夜」がある。

 92年の録音で、兄キャノンボールを彷彿とさせるビンセント・ハーリングを迎えてのセッションだ。80年代に組んだソニー・フォーチューンは、音楽性でナットとは若干異なるところがあってコンボとしての統一感に欠けていたが、ハーリングとは非常に相性がよく、アルバムトップの「ネイチャー・ボーイ」におけるソロリレーはいつ交代したのだろうと思わせるほどフレーズがつながっている。通常バラードで演奏される曲をテンポを速めにとることでコルネットとアルト・サックスのユニゾンに彩を付けているのは見事だ。2000年に68歳で亡くなるナットにとってハーリングは最後で最良の素敵な相棒だったのだろう。

 老いは誰にでも訪れ、もしかすると記憶もまだらになる。そんなとき映画に出てくるようなロボットが相手をしてくれるかもしれない。主人公は泥棒の方法を教えたが、素敵な相棒にするために貴方なら何を教えるだろうか。小生なら持っている限りのレコードを聴かせ、ジャズの辞書ともいえるイエプセンのディスコグラフィーを覚えさせる。一度聴いたら記憶し、一回読んだら忘れない超高性能な相棒とブラインド・クイズをやったら間違いなく負けるだろうなぁ。
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超スローでビッグ・スウィングするリル・ダーリン

2013-09-15 09:29:00 | Weblog
 「イン・ザ・ムード」に「ムーンライト・セレナーデ」、「ドント・ビー・ザット・ウェイ」に「シング・シング・シング」、「A列車で行こう」に「キャラヴァン」、それぞれグレン・ミラー、ベニー・グッドマン、エリントン楽団の代表曲で、学生や社会人ビッグバンドの必修曲でもある。長年ジャズを聴いている人にとっては聴き飽きた曲でも、普段ジャズを聴かない方にとっては新鮮であり、どこかで聴いたメロディという親しみ易さもある。発表の場が限られるアマチュア・バンドならではの選曲だ。

 そしてベイシー楽団といえばアマチュア・ビッグバンドのバイブルとなっている「ベイシー・ストレート・アヘッド」、そして「リル・ダーリン」がある。ニール・ヘフティの作編曲によるもので、超スローバラードながら抜群にスウィングするという摩訶不思議な曲だ。ヘフティはミディアムテンポを想定していたそうだが、ベイシーはそれよりもかなり遅いテンポで演奏している。「間」とか「タメ」というヘフティの楽譜には書かれていない「音」をベイシーは聴き取り、それをビッグバンドというスウィングの宝箱で表現したものだ。ヘフティが10代のころ同居していたシェリー・マンは、当時でもその作曲技術に感嘆したといわれるが、ベイシーとのコンビで大きく開花した傑作といっていい。

 ベイシー楽団が演奏することを前提に書かれた曲だが、間口が広いヘフティの曲だけありピアノトリオでもいける。楽しい曲は楽しいピアニストが楽しく演奏するのが一番で、この条件にピタリとはまるのはモンティ・アレキサンダーだ。ジャマイカ出身で、10代にしてピーターソンに後継者と指名され、シナトラも高く評価したピアニストである。挙げたアルバムは、「Saturday Night」のサブタイトルからもわかるように85年にオーランドのクラブ「バレンタインズ」でライブ・レコーディングされたものだ。モンティには76年のモントルー・ジャズフェスの人気ライブ盤があるが、ライブで本領を発揮するノリのいいピアノは楽しいの一言である。

 昨年の暮れに札幌狸小路商店街の老舗楽器店が閉店セールをしていて、通りかかったとき、CDも置いてあることを思い出し寄ってみた。いつもこんなに賑わっていれば店を閉めることもないのに、という店主の溜め息が聞こえてきそうな混雑のなか、楽譜売り場に「Li'l Darlin'」の譜面を大事そうに抱えた女子高生がいる。「Little Darlin'」ならぬ「Little Girl」だったが輝く目は大きな夢を見ているようだった。
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キャピトル・レコードの内袋から見つけたジョナ・ジョーンズ

2013-09-08 09:27:23 | Weblog
 レコード、それも音楽の内容に全く関係のない内袋の話になるが、日本盤のそれはポリエチレンの袋になっていて湿気の問題を除けばレコードを保護するうえでは最も適した素材といえる。これが輸入盤、正確に言うとアメリカ盤のそれは紙製になっていて、湿気は防げるものの長期的に出し入れすると盤面に細かい擦れがつく可能性が高い。レコードを貴重品とみる日本とドラッグストアでも手軽に買えるアメリカの違いだろうか。

 そのアメリカ盤の内袋にも秘かな楽しみがある。ほとんどは印刷がされていない白い紙なのだが、コロンビアやビクター、ABCパラマウントといった大手のレーベルは、新譜や売り込みに力を入れているアルバムを内袋に印刷してありカタログを眺める気分だ。なかには綺麗なカラー印刷もあり、買ったアルバムが失敗でもこんなレコードがあるんだとか、次はこれを買おう等と内袋を見るだけで幸せになれる。写真のアルバムはジョナ・ジョーンズの「Swingin' On Broadway」で、これはキャピトル・レコードのカラー内袋に紹介されていて、見つけたら手に入れようと探していたものだ。

 残念ながら中古レコード店のエサ函では巡り会えなかったので、不本意ながらCDで入手した。ジョナには「Swingin' At The Cinema」という作品もあり、こちらも同じようなファッションの金髪美女二人が違う構図で写っていたので対をなす作品なのだろう。この57年録音のブロードウェイはタイトル通りの内容で、ミュージカルの名曲を集めたものだ。どの曲もピアノトリオをバックに粋で洒脱なトランペットを楽しめる。アルバムトップはロシアの作曲家ボロディンの弦楽四重奏曲を改作した「キスメット」からの「ビーズと腕輪」で、リズミカルで歯切れの良い演奏が楽しい。ジャケ買いの1枚とはいえ最高のアルバムである。

 キャピトルのカラー内袋に包まれていたレコードは高校生のころ買ったビートルズかザ・ビーチ・ボーイズだったと思うが、後に入手したシナトラやキング・コールの50年代のレコードはモノクロで印刷された内袋を使っていた。片側はレコードの紹介だったが、反対側は円柱形の形状からキャピトル・タワーと呼ばれている同社の本社ビルである。レコード盤を重ねたビルのデザインはレコード文化の象徴だったのかもしれない。
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シンギング・ハマーズに魅せられて

2013-09-01 08:33:16 | Weblog
 ♪He's a fool and don't I know it But a fool can have his charms・・・彼は愚か者で、私にもそれはよく判っているわ、でもバカな彼にも魅力はあるのよ、という歌詞はロレンツ・ハートとリチャード・ロジャースの名コンビによる「Bewitched」のヴァースだ。それも飛び切り美しいメロディを持っていて、主人公のどうしようもない男を自分に重ねると、より迫ってくるものがある。但し魅力があるかどうかは別の話だが・・・

 魅力的なナンバーを生んだミュージカル「パル・ジョーイ」のために書かれた曲で、珠玉のメロディと切ない歌詞に魅せられるのか多くのシンガーが取り上げているが、スライディング・ハマーズの姉のミミ・ハマーがトロンボーンではなく歌っているのには驚いた。姉妹でトロンボーンを演奏するという意表を突いたデビュー盤は、美人姉妹という売り出し句で話題になったが、これが予想以上にテクニックも抜群で音楽性も優れたものだった。トロンボーン・デュオというとJ&Kという完璧な手本があるが、このスタイルに学び練習を重ね、姉妹で切磋琢磨した様子がうかがえる。謳い文句の美人は個人の判断に委ねるとしても、立ち姿は実に絵になる。

 「Sings」のアルバムタイトルからわかるように全曲ミミが歌い、妹のカリン・ハマーだけがトロンボーンを吹くという仕掛けだ。「Bewitched」は勿論ヴァースからで、マティアス・アルゴットソンのピアノだけをバックに歌っており、これは歌唱力がなければ出来ない歌い出しだ。そしてこれまたヴァース以上に美しいコーラスに入るとマーティン・ショーステッドのベースが重なる。クライマックスは2コーラス目の♪Lost my heart, but what of it?・・・で、カリンのトロンボーンが歌詞の間を埋めるようにスッと入ってくる。こういう絶妙の間というのはテクニックや練習量で身につけたものではなく、同じ血が流れているからこその阿吽の呼吸なのだろう。

 今では典型的なスタンダードになった「Bewitched」だが、村尾陸男著「ジャズ詩大全」によると、ブロードウェイで発表されたときの歌詞は現在歌われている歌詞とは違ったという。当時のピューリタン倫理に背くどぎつい内容だったそうだ。詞を書いたハートはゲイでアル中だったことから歌われなかった歌詞は想像が付くが、州によっては同姓婚が認められている現在のアメリカなら清教徒からお咎めがないかもしれない。
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