デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

暮れにクレイジー・シー・コールズ・ミーを聴く

2014-12-28 09:13:29 | Weblog
 誰もが知っているメジャーなスタンダードから名曲ガイドに載っていないマイナーな曲まで取り上げてきたアドリブ帖も本稿が今年最後のアップになりました。継続は力なりを信条に毎週日曜日欠かさず更新できたのはいつもご覧いただいている皆様のおかげです。ツイッターやフェイスブック等のコミュニティサイトが主流の昨今ですが、昔ながらのブログの読者に支えられいるのは励みになります。

ブログの華はコメントです。有名な曲はほとんど出尽くしましたので、あまり知られていない曲を話題にするせいかコメント数は減りましたが、それでも手持ちのアルバムを聴き比べてベスト企画に参加していただけるのは嬉しいことです。話題にした曲をカヴァーしているプレイヤーやシンガーを聴くことは、その曲が収録されているアルバム全体を愉しむことにつながります。そしてそのプレイヤーやシンガーが気に入ると他の作品にも手が伸びるでしょう。然うしてジャズの奥行に触れていただけるなら、ブログ冥利に尽きます。

 ジェラルド・ウィルソンから「Portraits」シリーズが続いてきましたので、最終にロジャー・ケラウェイの「A Jazz Portrait」は如何でしょう。編曲家として著名なケラウェイのデビュー盤で、その才能を余すところなくとらえております。なかでもボブ・ラッセルが作曲した「Crazy She Calls Me」は個性際立つ演奏です。ビリー・ホリデイがカール・シグマンの詞を、「Crazy He Calls Me」と女性に置き換えてヒットした曲で、通常バラードで演奏されますが、ケラウェイはやや速めにテンポをとっております。暮れの慌ただしはきっとこんなスピードなのかもしれません。

 来年も大スタンダードからあまり話題にならない曲まで幅広く紹介していきます。同じ曲でも演奏スタイルや歌い方によっては全く違う曲に聴こえるものもあります。それがジャズですし、そんなジャズの魅力を伝えていきたいものです。来年も毎週欠かさず更新を続ける予定ですので引き続きご愛読頂ければ幸いです。毎週ご覧いただいたいた皆様、そしてコメントをお寄せいただいた皆様、今年一年本当にありがとうございました。
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シナトラの名唱の陰にエヴァ・ガードナーあり

2014-12-21 08:57:12 | Weblog
 アーノルド・ショー著「シナトラ 20世紀のエンターテイナー」(早川書房)に、シナトラの音楽会社のボス、ベン・バートンの回想が記されている。「フランクはのっていた。すごく興奮していて、一回の吹き込みしかできなかった。だが、その吹き込みはすばらしかった。とり直す必要はなかった」と。また、批評家ジョージ・サイモンは、その曲を、「シナトラが録音したもののうち最も感動的」と評した、とも書かれている。

 その曲とは1951年に録音された「I'm Fool To Want You」だ。ジョエル・S・ヘロンが作曲し、ジャック・ウルフが作詞した曲を、バートンがシナトラのために見付けてきたものだった。その歌詞にシナトラが、歌いやすいように手を加えているのでシナトラも作者のひとりとしてクレジットされている。当時、シナトラは妻のナンシーと離婚して、ハリウッド一の美人女優であるエヴァ・ガードナーと結婚しようとしていた。当然、世間の風当たりは強い。そんな時期に録音すると大物シンガーでも揺れ動く心模様が反映されるようだ。スキャンダルの渦中にいる自分の愚かさを遠くから見ているような詞は、その暗く悲しいメロディーと相俟って胸を打つ。

 多くのシンガーがこの切ない恋心を歌っているが、一風変わった表現をしているのはシーラ・ジョーダンだ。デューク・ジョーダンの元夫人で、日本に紹介されたころは、「シェイラ」とカタカナ表記されていた。「Portrait of Sheila」は、そのシェイラのデビュー作で、ブルーノート・レーベルには珍しいヴォーカル・アルバムだ。ギターのバリー・ガルブレイス、ベースのスティーブ・スワロウ、ドラムのデンジル・ベストをバックに歌っているのだが、声を楽器のように扱う独特な歌唱なので、ホーンが入っているような錯覚を覚える。ヴォーカルというよりジャズ作品といった方が正しいだろうか。

 シナトラはこの曲を57年に再録音しているが、エド・オブライエンは著書「Sinatra 101: 101 best recordings」で、「57年にゴードン・ジェンキンスの緻密なアレンジで見事に歌っているが、51年盤の生々しく苦悶する情感が欠けている」と評している。51年盤の録音は3月27日、離婚は5月29日、エヴァとの結婚は11月7日。エヴァの存在がこの名唱を生んだのだろう。
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キャノンボールの粋な噂

2014-12-14 10:28:13 | Weblog
 ジジ・グライスが作曲した「Minority」を話題にした先週、同曲が収録されているキャノンボール・アダレイの「Portrait of Cannonball」をじっくり聴いた。1958年7月の録音で、リヴァーサイド移籍第一作にあたる。ブルー・ミッチェルにビル・エヴァンス、サム・ジョーンズ、フィリー・ジョー・ジョーンズというメンバーは当時のリヴァーサイド・オールスターズという面々だ。

 このメンバー構成とタイトルからプロデューサーのオリン・キープニューズの力の入れようがわかる。このときキャノンボールは30歳で、ジャケット写真からも余裕がうかがえるし貫録も充分だ。それもそのはず、シーンの中心ともいうべきマイルス・バンドのメンバーであり、2か月前にはあの名盤「Something Else」を録っているのだから、ただでさえ大きな体が一回り大きく見える。アルバムとしてはエヴァンスの参加と、「Nardis」の収録でしか語れない作品だが、「Minority」は勿論のこと、「People Will Say We're in Love」がなかなかにいい。

 リチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタイン二世のコンビがミュージカル「オクラホマ」の挿入歌として書いたもので、「粋な噂をたてられて」という粋な邦題が付いている。圧倒的にヴォーカル・ヴァージョンが多いが、メロディーが大きく膨らむこともありインストも少ないながら秀逸なものが並ぶ。奇しくも前年の1957年に全編アルトを吹いたソニー・スティットの「With The New Yorkers」と、リー・コニッツの「Tranquility」でこの曲を取り上げている。もしかするキャノンボールはアルトで映える曲だということを見抜いていたのかもしれない。

 キャノンボールがリヴァーサイドに移籍するきっかけはクラーク・テリーの推薦によるもので、このアルバムに名を連ねているエヴァンスはマンデル・ロウの口利き、フィリー・ジョーを連れてきたのはケニー・ドリューだ。そしてキャノンボールが発掘したのはウエス・モンゴメリーである。支流がリヴァーサイドという本流に流れ込み、大きな河になる様子が見えるようだ。
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ジジ・グライスは作曲法を誰に学んだのか

2014-12-07 09:37:26 | Weblog
 先週話題にしたアート・ファーマーがライオネル・ハンプトン楽団の欧州ツアー中、意気投合した同僚にジジ・グライスがいる。1953年の秋、マンハッタンに戻ったふたりは互いの近くに住居を構えるほど仲が良く、翌年には「When Farmer Met Gryce」という傑作を生みだしている。ファーマーのリリカルなトランペットと、グライスの尖鋭なアルトが織りなすサウンドは知的で詩情豊かなアルバムとして評価も高い。

 この作品で注目すべきは、全てグライスのオリジナル曲で構成されていることだ。アルト奏者としては実力がありながらも正しい評価をされなかったが、作編曲家としての才能は多くのジャズマンが認めている。そもそもグライスが注目されたのは、スタン・ゲッツが「Yvette」、「Wildwood」、「Mosquito Knees」というグライスの曲をルースト・セッションで取り上げたからだ。他にもJ.J.ジョンソンの「Capri」をはじめ、ハワード・マギーの「Shabozz」、マックス・ローチの「Glow Worm」、クリフォード・ブラウンの「Brown Skins」、「Hymn of the Orient」等、多くの楽曲を提供している。

 グライスの曲では「Nica's Tempo」や「Social Call」が有名だが、一番カヴァーが多いのは「Minority」で、初演はハンプトン楽団の欧州ツアー中、クリフォード・ブラウンが親分の目を盗んでパリで録音したものだ。勿論このセッションにはグライスが参加している。最近はあまり取り上げられない曲を「Portrait In Music」のトップに持ってきたのはウラジミール・シャフラノフだ。名前からわかるようにロシア出身のピアニストで、透明感のある音は清々しい。昨今、美しいだけでスウィングを忘れたピアニストが多い中、基本に忠実なピアノには身体が引き込まれる。

 この稿で紹介した曲を改めて聴き直してみるとジャズというよりクラシックに近い雰囲気を感じた。それでいてスウィングのツボを押さえている。こんなにも格調の高い手法をどこで学んだかというと、ボストン音楽院でクラシック音楽の作曲法をアラン・ホヴァネスに、そして著名なピアノ教師マーガレット・チャロフにも師事している。マーガレットはサージ・チャロフの実母だ。天才肌の師に学ぶと才能は一気に開花するのだろう。
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