デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

暮れにクレオ・レーンを聴く

2016-12-25 09:23:09 | Weblog
 思いつくままにジャズ雑感を綴ってきたブログも今年の最終稿を迎えました。11年目も毎週欠かさず更新できたのは、いつもご覧いただている皆様のおかげです。コメント欄は毎週ベスト3企画を立てておりますが、500稿以上も書いておりますとスタンダードはほとんど出尽くしました。回を重ねるごとにマイナーな選曲になってきましたが、音源が少ないなか聴き比べてコメント欄を賑わしていただけるのは大変嬉しいことです。

 今年は個人的には良い一年でした。黒岩静枝さんを中心に「DAY BY DAY」の仲間たちと札幌ドームで夏に宴会も兼ねて日本ハム・ファイターズを応援するのですが、今年の参加者は過去最高の12人で大いに盛り上がり、試合も延長の末サヨナラ勝ちでした。幹事冥利に尽きます。その甲斐もあり日本一になりました。また、11月には毎年札幌にお越しくださる長野のazumino さん、12月には北海道を初めて訪れた鹿児島のMINGUS54 さんとお会いすることができました。短い時間でしたが、小生の根城でライブを楽しみながら、心行くまでジャズを語り合いました。ブログを通して知り合ったジャズ仲間との交流は至福のひと時です。

 最終はエリントン・ナンバーを歌ったクレオ・レーンを選びました。クラシックからポピュラー、ジャズまで八面六臂の活躍で知られるイギリスのシンガーです。バックはマーサ率いるデューク・エリントン楽団で、編曲は夫君のジョン・ダンクワースです。アルバムタイトルの「Solitude」をはじめ「Sophisticated Lady」、「Come Sunday」等、凛としたクレオらしい選曲です。孤高、洗練、敬虔という言葉がそれぞれの曲に当てはまりますが、この格調の高さがエリントンの音楽です。これに強力なスウィングがプラスされて最高のジャズになるのです。ジャズ芸術とはこれを言うのでしょう。

 クレオの「月に憑かれたピエロ」やレイ・チャールズと共演した「ポーギーとベス」からこの「Solitude」、クラシックやポピュラー音楽を愛する方がクレオを聴くことによってエリントンの音楽に触れ、そこからジャズへと更に世界が広がるかも知れません。来年も幅広くジャズの魅力を伝えていきますので、引き続きご愛読頂ければ幸いです。毎週ご覧いただいた皆様、そしてコメントをお寄せくださった皆様、今年一年本当にありがとうございました。

九拝
コメント (15)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

貴方はこのピアノがわかるか、ブラインドの戦い

2016-12-18 09:21:56 | Weblog
 ジャズ喫茶全盛の70年代前後に各店で月に一度くらいのペースでブラインドが開かれていた。正確には「blind fold test」で、レコードをかけてサックスなりピアノなりのプレイヤーを当てるクイズだ。当時SJ誌にジャズ喫茶告知板というコーナーがあり、そこに情報が載ったのだが、耳が良い強者がその日だけ集まってきて景品を独り占めするので常連向けに小さな紙を店内に掲示するようになった。

 店によって違うが三問ほどで、解答用紙にわかった時点で書き込みカウンターに出す方式が多い。先着順なのでソロが出てこないうちに推測して出す人もいる。聴き込んでいるレコードならそれで当てることもできるが、出題者も然るもので滅多にかからないレコードで似たようなスタイルのプレイヤーを選んでくるのでそんなに簡単ではない。景品はレコード会社のスポンサーが付くときは新譜の見本盤や店のコーヒー・チケットである。参加料は飲み物代だけなので気軽に楽しめる遊びとはいえ当てれば尊敬の眼差しで拍手が送られるが、外せば鼻で笑われるので一音も聴き逃すまいと真剣だ。

 とうに店の名前は忘れてしまったが問題はピアノを当てるもので、クレジット通り正確に書けという注文が付けられた。曲は「ジェリコの戦い」でヴァイヴがメインのようだ。ソロも出てこないうちテーマを聴くなり自信ありげにさっさと書いて出す人がいたのには驚いた。ヴァイヴのソロに次いでピアノが出てくる。バップスタイルで少々荒っぽい。同じフレーズの繰り返しが入る。悩むうち演奏は終わり、数名が解答を出す。そのなかに「Alice McLeod」と正解を出した人がいた。ソロも聴かないうちに出した方の答えは「Alice Coltrane」である。常連客らしき出題者が、正確に書けと言った意味がよくわかった。

 当時は聴き込みが足りなくてブラインドで外しまくったが、それでも下手な鉄砲で二、三度コーヒー券を貰ったことがある。ブラインドは例えばこのレコードの場合、ピアノはわからなくてもヴァイヴ奏者から手繰る方法がある。正解を出すためには一番は耳だが、誰が誰と共演しているという知識も助けになる。コルトレーンならマル、ガーランド、フラナガン・・・アリスといった具合だ。あれから40年、SJ誌で知識量も増え、多少耳も鍛えられたが、今は目が薄くなり耳が遠くなった。
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブルーに生まれついたチェット・ベイカーがバードランドで見たもの

2016-12-11 09:21:02 | Weblog
 「俺とマイルス、どっちが好き?」とファンに聞く。「ブルーに生まれついて」のワンシーンで、俺とはチェット・ベイカーだ。話題の映画は多くのレヴューがネットを賑わしているので、内容はそちらをご覧いただきたい。また、ベイカーとその音楽、ジャズと麻薬は研究し尽くされているので、こちらも文献を参照してほしい。こう言ってしまうと書くことがなくなりそうだが、いい作品はどのアングルから見ても楽しめる。

 これから鑑賞する方のためにネタバレしない程度に書こう。まず映画なので史実と違うところがある。映画「セッション」のようにこの点を指摘する輩がいたら無視してほしい。映画なので美化されたり誇張するのは当然だ。次にバードランドに始まりバードランドで終わる。ブレイキーのライブ盤等でお馴染のジャズクラブだが、このステージに立つ意味は実に大きい。そしてパシフィック・ジャズの社長リチャード・ボックが出てくる。ここではディックの愛称で呼ばれているボックの器の大きさも見逃せない。小さなレコード会社をウエストコーストの名門レーベルに育てただけのことはある。

 タイトルの「Born to Be Blue」は、1947年にメル・トーメが友人のドラマー、ロバート・ウェルズと共作したもので、日本ではトーメ本人のものよりヘレン・メリルで有名な歌だ。歌詞の内容はネットで紹介されているので省くが、ベイカーが歌ったのはライムライト盤に収録されている。度重なるドラッグ問題でヨーロッパに逃げたものの、そこでも一悶着あり、結局60年代初めに本国に戻る。この「Baby Breeze」は少しばかり落ち着いた65年に録音されたものだ。「A Taste of Honey」の作者として名高いボビー・スコットのキンキンしたピアノと憂鬱そうなベイカーの声が重なり、映画同様ブルーな空気が漂う。

 この映画はR-15指定されている。性描写より麻薬を打つシーンが検閲にかかったと思われるが、会話も過激だ。ベイカーは自分を監視する保護観察官に「あんたのような人がビリー・ホリデイを殺した」と言う。差別問題をえぐっている。マイルスの「女と金のために演奏しているヤツは信用しない」は問題ないとして、「バカな白人女にジャズがわかるか」は時代が時代ならR-18指定、いやカットされたかも知れない。
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

10億円当たったら街のうわさになるだろうか

2016-12-04 09:03:04 | Weblog
 ファイターズ日本一セールもピークを過ぎたころ、地下街の一角に長蛇の列が出来ていた。何だろう?化粧品のサンプルでも配っているのだろうか?男性もいるから違う。ベタ踏み坂だか乃木坂だかの握手会か?年寄りもいるのでこれも違う。中国人の爆買いか?割り込みをする人がいないのでマナーの良い日本人だ。先を進むと宝くじ売り場があった。そういえば高額当選が出た所だ。前後賞合わせて10億円の幟が立っている。

 金さえあれば女だってどうにでもできるはどこかで聞いた暴言だが、誰でも欲しいのが金でニカ夫人の「ジャズ・ミュージシャン 3つの願い」でも圧倒的に「Money」が多い。フィリー・ジョー・ジョーンズとチャーリー・パーシップは「Money,money,money!」と答えたが、コールマン・ホーキンスは三つ目に「To be extremely rich」と寄せている。大金持ち願望とはいえ健康、成功の次なので控え目だ。答えたのは60年代初頭だから69年に肺炎で亡くなる数年前になる。健康に不安を抱えていたのだろうか。音楽的にはテナーサックスの父と呼ばれていたので成功したと思うが、願望の一つに挙げるところをみると物足りなかったのかもしれない。

 ホーキンスの名演というと真っ先に出てくるのは1939年の「Body And Soul」だろう。ダンス音楽としてのジャズを聴かせる音楽に変革した作品で、サックス奏者ばかりか楽器を問わず多くのジャズプレイヤーにメロディ解釈の手本とされている。そして、45年にキャピトルに吹き込んだ「It's The Talk Of The Town」はバラード解釈の最良の教科書としてサックス奏者はまずこれを聴き、学ぶところから出発する。さぁ、演ろうかとサー・チャールズ・トンプソンのイントロに促されて吹きだす一音にまずやられる。デンジル・ベストもさり気なく鼓舞しているのもこれが名演と呼ばれる所以だ。ベストのベストといったところか。

 買わなければ当たらないのが宝くじなので年に数度は買うことにしている。確率からいうと何時何処で買っても同じと思うのだが、どうせ買うなら大安吉日に高額当選が出た場所へと足が向く。そんな日の夢の売り場は件の横目に見た行列だ。札幌市の人口は約200万人でジャンボ宝くじの当選確率は1000万分の1、ということは・・・もし当たったら・・・並びながら胸算用をしていると外国の格言を思い出した。The lottery is a tax on people who flunked math・・・宝くじは数学を落第した人への税金だ。
コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする