デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

この1曲を聴くために「The Hard Swing」を買った

2017-09-24 08:30:55 | Weblog
 「Jazz Erotica」に「Moods In Jazz」ときたら次はあれだろう、と予想された方を裏切れないので、「The Hard Swing」を出した。これらの3枚はジャケットで売ろうというレコード会社の魂胆が見え見えではあるが、どこぞのレーベルの薄ぺっらな音の金太郎飴と違って中味もしっかりしている。ただ残念なことにこの類のジャケットは正統派ジャズファンからは好奇の目で見られるため蒐集の対象にならないし、聴かれることも少ない。

 特にこのアルバムは1958年発売当時全て未発表音源とはいえオムニバスなので尚更である。このレコードをお持ちの方に購入動機をアンケート調査したとしよう。50パーセントはジャケ買いだ。次いで「Chet Baker and Crew」からの2曲が収録されていると答えた方が20パーセント。ボビー・ティモンズが参加したセッションだ。次いで10パーセントはジャズ・メッセンジャーズの「Ritual」で、ジャッキー・マクリーンのファンにとっては堪らないテイクである。あとの20パーセントはエルモ・ホープとジャック・シェルドン、ペッパー・アダムスのアルバム化されなかった音源が目当てだろうか。

 タイトル通りハードにスウィングするトラックばかりを集めたもので、アレンジ重視のウエストコーストでは珍しい。この中では比較的地味なジャック・シェルドンを聴いてみよう。お馴染の「It's Only a Paper Moon」だ。シェルドンといえば1960年代に俳優として活躍した人だが、トランぺッターとしてもなかなかのもので一時はチェット・ベイカーのライバル的存在だった。アート・ペッパーのジャズ・ウエスト盤「The Return」でペッパーを鼓舞した溌溂としたプレイを思い出される方もあろう。ここではケニー・ドリュー、リロイ・ヴィネガー、ローレンス・マラブルのリズム隊を背にクリフォード・ブラウンと共演歴があるジョー・マイニと火の出るようなアドリブを展開している。

 パシフィック・ジャズ、及びワールド・パシフィックには「Jazz West Coast Series」と題されたオムニバス・アルバムが10枚以上ある。そのほとんどに未発表曲が入っているので侮れない。今はCDでセッションの全貌を聴くことができるが、レコードは収録時間の制限から素晴らしい演奏でも已む無く没になったテイクが数知れずある。1曲を聴くためにオムニバス盤を買うのは最高の贅沢だった。
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貴方が中古レコード店の店主なら「Moods In Jazz」はどのジャンルに置く?

2017-09-17 09:22:55 | Weblog
 先週の続きになるが、中古レコード店の新着コーナーに置かれるのは入荷状況によって差はあるもののせいぜい1週間ぐらいだ。その後はジャンル別の箱に移される。どの箱に置くのかは店主の主観による。大抵のお客さんは好みのジャンルしか見ないので、探しているレコードが違う箱に入っていると頻繁に通っていても探すことができない。逆に全く知らないアルバムに出会うチャンスもある。

 ブルーノートやマイルスなら迷うことはないが、例えばこの「Moods In Jazz」はどうする?タイトルに「Jazz」が付いているのでジャズの箱だろう。否、ジャケットから言えばムードミュージックだ。いやいや、中味度外視のジャケ買いのコーナーだ、と迷う。あくまでも店主がこのレコードを初めて扱ったというケースだ。ディスクの状態は目視で点検したが、店も暇なので試しに聴いてみよう。トップはアップテンポの「Taking A Chance On Love」で、つい音量を上げたくなるほど軽快にスウィングする。心地良いピアノがその流れで2曲続き、エリントンの「Prelude To A Kiss」だ。バラードはきめ細かい。

 ついでにB面も聴いてみる。トップは「You Leave Me Breathless」だ。「ベルリン特急」や「麗しのサブリナ」、「俺たちは天使じゃない」等、多くの映画音楽を手掛けたフレデリック・ホランダーの名品である。曲名を見るだけでミルト・ジャクソンの一気に空間が広がるヴァイヴのイントロからフランク・ウェスのあのむせび泣くテナー、いやフルートが聴こえてきた方もおられるだろう。奇しくもB面頭だ。肝心のバド・ラヴィンといえば甘いバラードということもありカクテルピアノの趣きではあるが、アニタ・オデイやピンキー・ウィンターズの歌伴で鳴らしただけあり良く歌う。さて貴方ならどのジャンルに入れる?

 ある店で美空ひばりの「ひばりジャズを歌う」が歌謡曲のコーナーに入っていた。見開きジャケットのコロムビア・オリジナル盤だ。また、チェット・ベイカーとバド・シャンクのWorld Pacific青ラベル「The James Dean Story」や、「死刑台のエレベーター」のフランス盤が映画音楽の箱に無造作に置かれていたり、クイーンのUKオリジナル盤、「Jazz」がアイク・ケベックとポール・クイニシェットの間に挟まっていたこともある。但し価格はどの箱に入っていようとそれなりである。店主も抜け目がない。
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チープなヌードジャケット「Jazz Erotica」を味わう

2017-09-10 09:41:44 | Weblog
 中古レコード店に入ってまずチェックするのは新入荷コーナーだ。ジャンル別ではなくまとめて置いてあるのでジャズとは限らないが、クラシックやポップス、歌謡曲にもたまに掘り出し物がある。サクサクと箱を漁るうち「タブー」で有名なアーサー・ライマンのLP盤が数枚あった。レス・バクスターとマーティン・デニーも前後するように並んでいたので、エキゾチカのコレクターが手放したのだろう。

 ライマンのは「HiFi Records」で、センターラベルのデザインを見て思い出した。ハロルド・ランドの「The Fox」や、フランク・バトラー、ジミー・ボンドと組んだ「Elmo Hope Trio」、ポール・ホーンの「Something Blue」がある「HiFi Jazz」と同じレコード会社である。箱にはなかったが、「HiFi Records」の方でよく知られているのは「Jazz Erotica」だ。チープなヌードジャケットなので正統派ジャズファンは一歩引く一方、この類のジャケット・コレクターには重宝されるというモンド的なレコードである。本来「HiFi Jazz」で出すべきものを「HiFi Records」でリリースしたのは、その狙いがあったのかも知れない。

 セッション・リーダーはリッチー・カミューカで、コンテ・カンドリ、フランク・ロソリーノ、ヴィンス・ガラルディ、スタン・リーヴィといった名手に加えて編曲はビル・ホルマンだ。ホルマンといえばテナー奏者よりもチャーリー・バーネットやスタン・ケントン楽団でアレンジャーとして手腕を発揮した人だが、ここでも工夫を凝らしたサウンドが楽しめる。どの曲も4分前後だが起承転結は勿論のこと短編映画を観ているような色彩感があるのだ。秋風が吹き始めるこの時期に聴くならジュール・スタインの「The Things We Did Last Summer」がいい。サミー・カーンの何気ない詞の情景がアンサンブルの合い間に浮かぶ。

 このタイトルとジャケットではさすがに売れなかったようで、後にジャズファンに的を絞って「West Coast Jazz In Hifi」に変え、海辺に楽器を刺したジャケットで再発したもののこちらも振るわなかったようだ。内容がいいだけにジャケットで聴く機会が失われるのは残念だ。発売当時はジャズファンから顰蹙を買ったヌードも今となってはそこはかとない哀愁を感じる。昨今跋扈する品のないエロジャケットのせいだろうか。
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コケティッシュな妖精か?カマトトか?ブロッサム・ディアリー

2017-09-03 10:00:00 | Weblog
  「キュートで可愛い声」とか、「コケティッシュなヴォーカル」とか、性中枢をくすぐる声に喩えて「ビ・バップのベティ・ブープ」とか、最上級の「ウィスパー・ヴォイスの妖精」と評される一方、「わざとああいう声を出すカマトト」とか、「アニメの女の子みたいで気持ち悪い」とか、一言「ゲテモノ」、挙句の果ては「毎晩聴いている奴はロリコンじゃないの、ベッドでも・・・」オッと、これ以上は放送禁止用語なのでやめておこう。

 これほど大きく好みが分かれるのも珍しい。ブロッサム・ディアリーである。苦手な方に少しでも興味を持っていただけるよう経歴をピックアップしよう。ウディ・ハーマン楽団のコーラス・グループやクラブで歌ったあと、50年代初めにパリに渡り、そこで知り合ったアニー・ロスやミシェル・ルグランの実姉であるクリスチャン・ルグランと「ブルー・スターズ」を結成する。「バードランドの子守唄」のヒットで知られるグループだ。パリのクラブで歌ったり、ピアノを弾いているうちノーマン・グランツから声がかかりアメリカに戻る。私生活では「Kelly Blue」のブルージーなフルート・ソロで有名なボビー・ジャスパーと結婚するも数年後に離婚している。

 僅か数行でも自由奔放でジャズシンガーらしいではないか。数あるアルバムから彼女の魅力が詰まっているヴァーヴ第1作「Blossom Dearie」を選んだ。名前ズバリのタイトルで本格的に売り出そうというグランツの戦略が見えるし、音楽学校の先生のようなジャケットは声とのギャップの面白さを狙った節もあるが、彼女らしさをアピールするにもってこいだ。得意の弾き語りで、ハーブ・エリスにレイ・ブラウン、ジョー・ジョーンズというヴァーヴ・リズムセクションがサポートしている。フランス語で歌うアンニュイな「It Might as Well Be Spring」や、短いスキャットのイントロから入る「I Hear Music」がジャズ・フィーリング豊かでその世界に引き込まれること間違いない。

 さて、これで苦手な方も聴いてくれるだろうか。もう一つ付け加えておこう。ヴァーヴ第3作に「Once Upon a Summertime」がある。頬杖をついた可愛らしいジャケットだ。タイトル曲はマイルスがギル・エヴァンスと組んだ「Quiet Nights」でお馴染だが、ブロッサムを聴いたマイルスが刺激を受けて取り上げたという。マイルスをも虜にした小悪魔ときけば聴かずにいられないだろう。今宵は苦手な貴方のリスニングルームから「I Hear Blossom Dearie」かも知れない。
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