デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

パリの鷹

2007-03-25 07:20:11 | Weblog
 NHKの大河ドラマや「暴れん坊将軍」で、江戸幕府八代将軍徳川吉宗は馴染み深い。江戸三大改革のひとつである享保の改革を行ったことで知られ、米価の調節に努めたことから米将軍とも呼ばれている。身長が六尺、メートル法で言うと約180センチを超える長身であったとされる吉宗は、綱吉時代に禁止されていた鷹狩を復活させ自らも鶴狩の著作を残している。

 狩猟は男の本能であり、支配者にとっては権威の象徴的な意味を持つ。鷹狩の歴史は古く、古墳時代の埴輪には手に鷹を乗せたものも存在するという。鷹を手に乗せている美しいご婦人のジャケットはコールマン・ホーキンスの「The Hawk in Paris」というタイトルでストリングスをバックにしている。録音は地味な作品が多いRCAの別レーベルVIKで、ニューヨークであることからパリをイメージしたものであろう。「パリの空の下」「バラ色の人生」等、代表的なシャンソンを集めている。

 ゴージャスなウィズ・ストリングスはコマーシャルの誹りは免れないが、ジャズメンなら一度はやりたいフォーマットであろう。元来ストリングスは、スイート効果を狙うため主役のプレイヤーも甘くなる傾向にある。ルイ・アームストロングのトランペットをテナーに移したような豪快なスタイルのホーキンスもまた甘くなるのであろうか。否、ここでも豪快に吹きまくる。恐らく先録りしたストリングスに被せたものと思われ、無伴奏ソロ「ボディ・アンド・ソウル」のようなホーキンスの独り世界なのだ。ストリングスのスイート・ミュージックを求める向きにはお薦めできないが、ホーク・ファンには嬉しい作品である。

 男なら写真のような美しい女性に惹かれるものだが、吉宗は容貌が悪い女性を好んだという。また、湯殿番に男色対象の若者を当てていた記録もあり、子息を残すため周囲が躍起になっていた様子はNHKの大河ドラマ「八代将軍吉宗」でも描かれていた。吉宗というとこのような事を思い出すが、さて七代将軍、九代将軍の名はと聞かれても出てこない。どうやら受験が終わると同時に忘れてしまったらしい。
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容貌怪異なり

2007-03-18 07:56:48 | Weblog
 郷土史を調べる必要があり図書館を覘いてみた。函入の分厚い市史、町史が並ぶ中、ハードカバーが1冊紛れ込んでいて、間違って置いたのだろうかと手にとってみると、「容貌怪異なり」とある。小生のことかと思い、ガラスに映った自分の顔を見てしまった。(笑)サブタイトルは「北前船から鉄に乗り替えた夷族」とあり、鉄の街、北海道室蘭の発展に尽力した湊友松の生涯を描いたもので、郷土史の棚にあっても不思議はない。

 「黒眼鏡の怪人」の異名があるローランド・カークの写真をはじめて見たときの印象は、「容貌怪異なり」だった。3本のリード楽器を同時に吹く姿は異様にみえ、レコードを聴いてみると更にフルート、ハーモニカ、形さえ想像できないマンゼロ、ストリッチという楽器も使っているようだ。時にフルートを鼻で吹いたり、サイレンまで鳴っている。多重録音は珍しくないが、複数管楽器同時演奏はあまり聞いたことがない。カークはコルトレーンのステージに飛び入りし、まったく息継ぎ無しで長いソロを吹くサーキュラー・ブリージングで、コルトレーン以上の喝采を浴びたそうだ。やはり怪人かもしれない。

 41年という短い生涯ながらアルバムは数多く、写真はベツレヘム・レーベルから再発された「サード・ディメンション」という56年の初リーダー作にあたる。この時若干20歳というのも驚くが、タイトルの第三次元というのも謎めいている。オリジナルはベツレヘムの親会社キングで、発売時のタイトルは「Triple Threat」だった。3倍の脅威、3分野に優れた人とでも訳すのだろうか、何れにしてもカークの音楽性を仄めかしているようだ。R&B色も強くジャズでは括れないブラックミュージックとも言うべきその音楽性なのだが、本質はジャズのルーツに深く根付いている。

 ロックバンド、ジェスロ・タルがデビューアルバムで取り上げている「カッコー・セレナーデ」はカークの作で、イアン・アンダーソンがカークそっくりに吹いていた。カークはその風貌からは想像もつかない美しい曲を書き上げる。長い顎鬚と熊のような容貌で恐れられた湊友松は心の美しい純粋な人であったという。そして図書館のガラスに映った小生も然りである。(笑)
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キャロルの品格

2007-03-11 08:12:15 | Weblog
 テレビドラマ「ハケンの品格」が人気だという。クレーン操縦士、ロシア語会話、助産師、剣道四段等いくつもの国家資格を持つ篠原涼子さん扮する大前春子なる高時給の派遣社員が主人公だ。北海道で活躍していた大泉洋さんの好演もありなかなかに面白い。冷静に会社を見ている派遣社員の意見は、確信を突いているだけにたじたじする正社員の姿は滑稽でもある。

 ロバート B .パーカーの探偵スペンサーが登場する小説でキャロル・スローンの名が出てくる。キャロルは派遣か正社員かは存じぬが一流企業の社長秘書だったころ、タイプを1分間に80語、速記を1分間に120語の記録を作り業界の話題になったそうだ。どちらも経験がないのでよく分からないが、相当のスピードらしい。キャロルと個人的な付き合いのあるパーカーは、キャロルはサラ・ヴォーンに次ぐ大歌手と断言している。そのとおりで歌手として一流ならOLとしても一流というわけだ。

 写真のアルバムはキャロルの64年のライブ盤で、ベン・ウエブスターとの共演が珍しい。キャロルが個人的に録っていたテープのせいか音は悪いが、いつもながらのキャロルのしっとりした情感あふれる歌声が聴こえる。驚いたのはベンで、どうしたのだろう全く精彩がない。オブリガートはキャロルのフレーズを邪魔しているし、キャロル抜きのワンホーンで吹く「ダニー・ボーイ」はヌード・ジャケットで売っているムードミュージックと変らない。どうにも品を欠いた格だけではいい仕事ができないようだ。レコード化されたのは77年のことだから、発売を見送っていたのは音が悪いせいだけではないのかもしれない。ベンは73年に亡くなっている。

 ドラマで大前春子は相手構わず言いたいことを言う。派遣社員だけに会社へのしがらみはない。キャロルはダウン・ビート誌にジャズ評論も書く才媛でもある。レコード会社との関係から駄作でさえ褒める評論家と違い、歯に衣を着せぬ批評は痛快だった。それがキャロルの品格である。
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聖ジェームス病院

2007-03-04 08:13:02 | Weblog
 衝動買い、ヤケ買い、大人買い等、本来の目的以外の買い物は心理学の観点からみると一種の病気らしい。症状の自覚はないがアルバムのジャケットに惹かれたり、本のタイトルに魅せられて中身度返しで買うことはよくある。三島由紀夫賞受賞の作家、久間十義さんの「聖ジェームス病院」もその一冊だった。内容は想像がつくとはいえ、タイトルを目にした瞬間からジャック・ティーガーデンのトロンボーンが聴こえてくるものだから買わずにはいられない。

 「セント・ジェームズ病院」はイギリスのフォークソングがオリジナルで、サッチモのタウンホール盤は決定的な名演として知られている。小生はモダンジャズから聴き出しているので、この名演を知るのは後のことで最初にこの曲を知ったのはレッド・ガーランドであった。ガーランドはマイルス・コンボのザ・リズム・セクションや自己のアルバム等数多くの名フレーズ、名アルバムがあり、その中でも「グルービー」はピアノトリオの名盤として君臨している。確かにガーランドのベストアルバムは「グルービー」に違いないが、1曲となれば「セント・ジェームズ病院」を挙げる。

 この曲が収録されいる「ホエン・ゼア・アー・グレイ・スカイズ」は、プレイスティッジ期最後のアルバムで、ジャズシーンの第一線を離れ故郷ダラスに帰る直前62年の録音であった。マイルス、コルトレーンを始め多くのビッグネームとのセッションが去来したのだろうか、肩の力を抜いたシングル・トーンとブロックコードの調和が実に素晴らしい。ブロックコードを考案したのはライオネル・ハンプトンのバンドにいたミルト・バックナーとされているが、「リラクシン」でマイルスがガーランドに「ブロックコードで!」と指示している。ニーチェは「私の文体は舞踏なのです」と言っていたが、ガーランドのそのブロックコードはまるで舞踏のように躍動感がある。

 「聖ジェームス病院」の帯に「誰もが避けられない場所」とあった。症状にも因るが少なからず病院にはお世話になる。その病院の実態を描いた小説で、内容は在り来たりだが、「チェット・ベイカーの裏返ったような奇妙な肉声」というジャズファンならニヤリとする表現もあり楽しめる。難を言えば終わり方が何ともあっけない。東野圭吾さんの小説のように最後の1ページ、一行で落涙してしまう展開をみたかった。そう、ガーランドのラストフレーズ、一音のように・・・
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