デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

暮れにクレッセントをしみじみと

2010-12-26 08:30:10 | Weblog
 毎週、ジャズの花が咲く拙ブログも本年の最終稿を迎えました。今年初めから半年休止後、夏から再開しましたが、以前にも増して多くのアクセスとコメントをお寄せいただきました。生まれては消えてゆく星のようにブログもまた次から次へと新設され閉鎖されますが、こうして5年間続けてこられたのはジャズを愛する皆様のおかげです。ネタがないときは休もうかと思ったこともありますが、毎日寄せられるコメントに叱咤激励されました。

 休止したのは引越しによるものですが、その間にいつもコメントをお寄せいただく皆様にお会いしたくなり東京に行きました。お忙しいなかお会いする時間を空けていただいた皆様に改めて御礼申し上げます。そして学生時代に遊んだ中野を30年ぶりに訪れました。何度乗り降りしたであろう駅のホーム、並ぶ店の名は変わっていても賑わいは変わらぬ中野ブロードウェイ、そしてサラを回した北口のジャズ喫茶「ジャズ・オーディオ」へと自然に足が向かいます。勿論、店はありませんが、その店があったビルは以前と同じ顔で小生を待っておりました。30年という時間を一気に埋めた瞬間です。

 それからガード下を潜り、南口に出ました。「クレッセント」というジャズ喫茶もとうに閉店しましたが、同じ中野で競合した店にも当時随分偵察に行ったものです。ポリシーは違いますのでライバル店ではありませんでしたが、お客さんの数や入れる新譜は気になったものです。「君は他人のような気がしないよ」と言って可愛がっていただいた小生と同じ苗字のオーナーを懐かしく思い出します。30年前と歩く人や店名が変わっても変わらないのは青春が凝縮された中野の空気なのかもしれません。ふと空を見上げると三日月が優しそうに微笑んでおり、コルトレーンのバラードが過ぎりました。

 ジャズに明け暮れた青春に戻った今年が終わり、来年は新たな気持ちでジャズを聴けるでしょう。若い頃夢中で聴いたレコードは30年経っても色褪せるどころか益々輝きを増します。それがジャズの魅力でありジャズの魔力でもあります。来年もまたジャズを皆様とともに愉しみましょう。コメントをお寄せ頂いた皆様、そして毎週ご覧頂いた皆様、本当にありがとうございました。

九拝
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ビル・クロウが背負ったベースと苦労

2010-12-19 08:23:46 | Weblog
 「バードランドが僕の出身校だ。(中略)自ら範を垂れて教育してくれる輝かしき教授陣は、世界最高のジャズ・ミュージシャンたちであり、その学長とでもいうべきはチャーリー・パーカーだった。」の書き出しはベーシストのビル・クロウ著「さよならバードランド」(村上春樹訳、新潮社刊)である。バードランドとはパーカーのニックネームから付けられたジャズクラブで、副題のように「あるジャズ・ミュージシャンの回想」が綴られている。

 ジェリー・マリガン「ナイト・ライツ」、スタン・ゲッツ・プレイズ、アル・ヘイグのEsoteric盤、ジャズ史を彩る名盤に参加しながらも意外にその名前は知られていない。それは派手なソロを取らないことと、決して輪を乱さない堅実なバッキングによる。ベーシストにはふたつのタイプがあり、オスカー・ペティフォードやレイ・ブラウンのように華麗なプレイで前面に出るタイプと、クロウのように常にバックでリズムを支えることに専念するタイプだ。黒子的存在の後者は損なタイプに思えるが、歌舞伎でも静止画的画面構成を支える黒子がいてこそ役者が映えるように、ジャズもまた同じでステージに欠かせない重要な存在である。

 この著書がきっかけとなって95年に録音されたのがこのアルバムで、何とこれが初リーダー・アルバムというから驚く。クロウは当初ドラマーとしてマイク・レイニーに雇われ、次いでグレン・ムーア楽団ではトロンボーンを吹いていたという。そしてベーシストとして名前が知られるようになったのはテディ・チャールズのバンドに加わったころで、ベーシストとしてのキャリア40年目にしての初リーダー作になる。オリジナルを数曲とスタンダードのバランスの取れた構成で、なかでも「ジャスト・フレンズ」は、このセッションに駆けつけたテナー奏者のカーメン・レギオやギタリストのジョー・コーンとの旧交を温めるに相応しい曲だ。

 おそらくクロウにとって初めての長いベースソロは、その文章の語り口と同じように温かく優しい。行間からにじみ出る共演したミュージシャンへの愛情を、そのままベースの一音一音に重ねているようだ。そして人柄なのだろう、どこまでも控え目で、常に周りのプレイヤーを立てることを忘れない。ときに我がままで勝手なスタープレイヤーとバードランドが衝突したときに仲裁に入ったクロウの苦労もこのアルバムで報われたかもしれない。

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バーバラ・ロングは女医になったのだろうか

2010-12-12 08:19:30 | Weblog
 昼間、所要があり車を走らせていると病院が目に留まった。小生が居住する同じ区内なので病院は珍しくないが、診療科目と病院名の医院長と思われる名前を聞いたような気がする。夜になってヴォーカルのアルバムを聴きだしたころ、10年ほど前に「Night And Day」というジャズヴォーカルのCDを自主製作した女医さんを思い出した。当時、美人女医が・・・と紹介されていたのを覚えている。美人の冠には弱い。

 チャンスに恵まれず好きな音楽の道を断念し、他の職業に就く人は多く、バーバラ・ロングもそんなひとりだ。ハイスクール時代から音楽的才能を開花させ地元で注目されたものの、シカゴ医科大学に進み、無事卒業後、医師に・・・ところが、そのタイミングに地元シカゴのジョニー・グリフィンから声がかかる。願ってもないチャンスに恵まれたバーバラはメスをマイクに持ち替え、スコット・ラファロが参加していることからよく話題になるハーブ・ゲラーのアトコ盤「Gypsy」でデビューを飾った。この歌を聴いて惚れこんだのがトランジション・レーベルの創設者、トム・ウィルソンで、当時A&Rマンとして働いていたサヴォイに録音したのがバーバラ単独のアルバム「SOUL」だ。

 タイトルからはR&B色のソウルフルな感じを受けるが、ハスキーな声でくせのない歌い方だ。ナット・フィップス、ジョージ・タッカー、アル・ハリウッドの手堅いリズム陣にビリー・ハウエルのトランペット、そして歌伴は珍しいブッカー・アービンをバックに、自作曲やジャズアレンジが面白いチャイコフスキーの「白鳥の湖」を伸び伸び歌っている。スタンダードの選曲も趣味が良く、「グリーン・ドルフィン・ストリート」、「ユー・ドント・ノー・ホワット・ラヴ・イズ」、そしてエリントン・ナンバー、「ジャスト・スクィーズ・ミー」はタイトルの如く抱きしめたくなるような可憐さと仄かな色香さえ匂わす。このアルバム1枚限りでジャズ界を去ったバーバラは医師の道を歩んだのだろうか。

 件の美人女医さんのアルバムは趣味の域を超えないものの、ジャズヴォーカルへの愛着がひしひしと伝わってくる。丁寧な歌い方は親身な診察にもつながっているのだろう。一度はお会いしたいものだが、幸い皮膚科に掛かる症状はない。ジャズを聴かないと体じゅうに斑点が出ます、とでも訊いてみようか。それは後天性ジャズ依存症候群と診断されるかもしれない。そして付ける薬はナイト。
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元祖タイム・アフター・タイム

2010-12-05 08:16:29 | Weblog
 スタンダード・ナンバーと呼ばれる曲がどのくらい存在するのか知らないが、多くのアーティストにカバーされる楽曲という定義に基づくと数千曲に及び、数が多いと当然、同名異曲も存在する。なかでも「タイム・アフター・タイム」は、47年にジュール・スタインが書いた曲がジャズメンの間でも定番だが、若いプレイヤーは84年に全米ヒットチャート第1位を記録したシンディ・ローパーの曲を挙げるそうだ。マイルスがカバーしたことでこちらが定番になりつつある。

 元祖というべきスタインの同曲はシナトラの名唱で知られるが、センチメンタルでテンポを選ばないメロディラインにより多くのインストが残されている。どんなテンポでも様になるとはいえ、ラブソングはしっとりとしたバラードで聴きたい。カーティス・カウンスの「ランドスライド」は、フロントにジャック・シェルドンとハロルド・ランドを立て、カール・パーキンスにフランク・ バトラー、そしてカウンスのウエストコースト・ジャズの屋台骨を支えたリズム陣で編成されたカウンス・グループの初リーダー作にあたる。管が微妙に絡み合うゆっくりとしたテーマはエロティックで、スタインが音楽を担当した映画「紳士は金髪がお好き」のようにときめく。

 ウエストでリロイ・ヴィネガーとならぶ代表的なベーシストであるカウンスは、37歳という若さで亡くなっているので活動期間は短いものの多くのセッションに起用されている。堅実なリズムキープはスタジオの仕事で重宝され、重い音はセッションのうえでフロント陣を鼓舞する起爆剤になっていたのだろう。ウエストといえばどうしてもクールな印象をうけ、それが黒人プレイヤーであってもコンテンポラリーというレーベルの作用によるものだろうが乾いた演奏が多いが、このグループはイーストに匹敵するホットなハードバップを聞かせる。それはカウンスの太いベースラインと何よりもジャケット写真からも伝わってくる温もりにあるのかもしれない。

 再三再四という意味の「time after time」は、その熟語だけで曲作りに嗜みのある人なら鍵盤の数音を叩くと珠玉のメロディが浮かんできそうだし、恋に落ちた女性なら思いのままを綴ると一編の詩が書ける。この先も多くの曲が生まれ、将来スタンダード・ナンバーとして歌い継がれる曲が発表されるだろう。数十年後、「タイム・アフター・タイム」という第三の同名異曲が流れていても不思議はない。
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