デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジャズレコードにミニスカートが登場したのはいつか

2017-06-25 09:28:55 | Weblog

 SJ誌という教科書を片手にジャズを聴くのが日課だった高校生のころ、毎週欠かさず見ていたテレビ番組がある。「シャボン玉ホリデー」と、今月13日に亡くなれた野際陽子さんが出演していた「キイハンター」だ。ドラマとして面白かったのは勿論だが、かっこ良い野際さんを見るのが楽しみだった。平凡パンチから切り抜いたピンナップと、SJ誌から切り取ったマイルスの写真が違和感なく壁に並んでいた。

 野際さんといえば日本で最初にミニスカートを穿いた女性として知られる。1967年に留学先のパリから帰国したとき、推定膝上10センチのミニを着用していた。タラップを降りる脚の眩しいこと。では、ジャズレコードで最初にミニが登場したのは?真っ先に浮かんだのはチェット・ベイカーの「Comin' On」だが、録音は65年8月とはいえリリースは67年だ。ということは録音年は65年12月でも66年に発売されたジョン・パットンの「Let 'Em Roll」が一番か。マリー・クワントとアンドレ·クレージュがミニスカートを発表したのが65年だからグラフィックデザイナーのリード・マイルスは流行に敏感だったのだろう。 

 ブルーノートでも日本で売れないプレイヤーはいる。ジョン・パットンもその一人だ。オルガンジャズはパットしない。特にこのレコードは、本国でビルボードトップ100入りしたということもあり硬派のファンに受け入れられない。先週話題にした「This Is Pat Moran」同様、ジャケ買い60パーセント、ボビー・ハッチャーソン目当て30パーセントとなる。かく言う小生もバーゲンの投げ売りでジャケ買いしたものだ。オリジナルのソウル・ジャズ・ロックは今聴くとさすがに古くさいが、「The Shadow Of Your Smile」はストレートな演奏だけに新鮮さがある。温もりのあるオルガンに絡むクールなヴァイヴとやや熱を帯びたグラント・グリーンのギターは妙に心地良い。

 1968年4月から1973年4月まで毎週土曜日21時から放送されていた「キイハンター」は、最盛期には視聴率30%を越えていたそうだ。丹波哲郎をはじめ千葉真一、川口浩、谷隼人、大川栄子という当時の人気俳優が並んでいた。野際さん扮する姐御と呼ばれる津川啓子に投げ飛ばされ、あの美脚の足元に転がってみたいと願ったのは小生だけではあるまい。ミス・キーハンター。享年81歳。合掌。
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ブルーベックが15分で書いた In Your Own Sweet Way

2017-06-18 09:35:43 | Weblog
 曲にまつわるエピソードを拾い読みすると、1曲書くのに数週間かかることもあれば短時間で仕上がることもあるという。先週話題にした「I'm Beginning To See The Light」はステージの合間だし、「I Can't Give You Anything But Love」は、宝石店ティファニーのショウ・ウィンドウを覗いていたカップルの会話を聞いたジミー・マクヒューが、近くにあった楽器店に飛び込み、そこのピアノを借りて一気に書いたとか。

 「In Your Own Sweet Way」も直ぐに出来た曲だ。コンサートの後、ポール・デスモンドが、「スタンダードばかりだから何かオリジナル曲が必要だ、誰かに作ってもらおう」とブルーベックに提案する。「冗談じゃないぜ、僕が作曲家だってことを忘れたのかい、30分もあればオリジナルを2曲作れるよ」と言って書いたのが「ワルツ」とこの曲だという。メンバーのデスモンドですら作曲家であることを忘れていたようだが、ブルーベックはダリウス・ミヨーから4年間作曲法を学んでいる。偉大な作曲家の弟子だからといって素晴らしい曲を書けるとは限らないが、ブルーベックの曲は奥が深い。

 珠玉のバラードは多くのカバーがあるが、今回はたまたま壁に飾ってあるパット・モランを選んだ。このレコードを所有されている方に買った動機を聞いたとしよう。60パーセントはジャケ買いで、30パーセントはスコット・ラファロが目的だ。「クール・ストラッティン」と並ぶ美脚ジャケットであり、エヴァンスのトリオで有名になる前のラファロが参加しているので、リーダーのパット・モランを知らなくても売れるレコードではあるが、なかなかに趣味のいい女流ピアニストだ。ベブ・ケリーの落ち着いた歌伴で知られるが、自己のトリオとなると別人だ。アタックも強いしフレーズも太い。

 この曲はマイルスが取り上げたことで一気に録音が増えた。マイルスの演奏があまりにも美しいので作者はマイルスだと思っている人は多い。ブルーベックと言えば「Take Five」が名刺代わりの曲だが、作曲したのはデスモンドである。ブルーベックもデスモンドも本国に比べると日本では評価が低いし人気もさっぱりだが、名曲の作者であることを知ると見方が変わるかもしれない。
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I'm Beginning To See The Light を選曲したわけ

2017-06-11 09:32:26 | Weblog
 マンチェスター・バイ・ザ・シー......心を揺さぶる素晴らしい映画だ。ケイシー・アフレックがアカデミー賞をはじめゴールデングローブ賞、全米映画批評家協会賞等で、主演男優賞を総なめした作品である。アフレックといえば「オーシャンズ」シリーズで顔を覚えていた程度だが、存在感のある演技に圧倒された。俳優なら一度は取りたい賞を独占しただけのことはある。

 物語は実に静かだ。それだけに脇役も含めて演技力が問われる作品である。中盤、「I'm Beginning To See The Light」が流れる。エラ・フィッツジェラルドとインク・スポッツが共演した音源だ。ストーリーを詳しく書けないのが残念だが、少し光が見えてきた展開で流れたものだから思わず唸った。1944年にエリントン楽団がクラブ「ハリケーン」に出演していたとき、ハリー・ジェイムスと作詞家のドン・ジョージが遊びに来る。ステージの合間にジョニー・ホッジスも加わって4人で談笑しているうち、曲を作ろうという話になり、あっという間にできたのがこの曲だ。才人が揃うと名曲はいとも簡単にできる。

 シンガーなら一度は歌う曲なので録音は暇がない。今回はジョニー・ソマーズを選んだ。1960年代にヒットした「ワン・ボーイ」や「内気なジョニー」でポップス・シンガーのイメージが強いが、ジャズ・フィーリングは抜群だ。「Positively The Most」はそのセンスを証明するアルバムで、アート・ペッパーをはじめコンテ・カンドリ、バド・シャンク、フランク・ロソリーノ等が参加したビッグバンドをバックにマーティ・ペイチの粋なアレンジでスマートに歌っている。もしデビューがビッグバンド全盛期の40年代ならスタン・ケントンかウディ・ハーマンの楽団で歌っていただろう。

 この曲の歌詞の頭は覚えているものの全体を知らないので、改めて歌詞カードを読んだ。後半に「That's a four-alarm fire now」という歌詞がある。「alarm fire」とは火事の規模を表わす表現で、小火の「one」から数週間続く「six」まで分類されているようだ。「four」は消火が困難な大火災を指す。映画をご覧になった方はこれでお分かりだろう。ネタバレになるのでこれ以上は説明できないが、見事な選曲に膝を打った。
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ラーナー&ロウの「Almost Like Being In Love」を聴く

2017-06-04 09:43:33 | Weblog
 スタンダードと言われている曲はミュージカルのために作られたものがほとんだが、その曲が使われた作品となると観たこともなければタイトルさえ忘れている。ではジャズファンがよく知っているミュージカルは何だろう?拙稿を毎週ご覧いただいている500人の方にアンケートを取ったと仮定しよう。間違いなくトップは「マイ・フェア・レディ」だ。ジャズレコード屈指のベストセラーを作ったシェリー・マンの影響は大きい。

 1956年から6年に及ぶロングラン公演になったミュージカルは「Get Me To The Church On Time」に「On The Street Where You Live」、「I've Grown Accustomed To Her Face」、「I Could Have Danced All Night」等、曲名を見るだけで音が流れるものばかりだ。よくもまぁ、一つのミュージカルにこんなにも素晴らしい曲ばかり散りばめたものだと感心する。劇と一体化しているのは勿論だが、アドリブの素材になるほど一曲ごとに練られている。作詞作曲はアラン・ジェイ・ラーナーとフレデリック・ロウだ。おそらく脚本のイメージ通りに次から次へと詞が浮かび、五線譜の上で指が踊っていたのだろう。

 この名コンビで一番カバーが多い曲と言えば「Almost Like Being In Love」だ。まず聴こえてくるのは柔らかい音色のビル・パーキンス、ブレイキーに煽られるジョニー・グリフィン、美人ピアニストをバックに気持ちよく吹くズート・シムズ、羽根飾りの帽子に惹かれるチェット・ベイカー、「恋をしたみたい」という邦題がしっくりくるロマンティックなレッド・ガーランド、そして豪快奔放なロリンズ。バックはMJQだ。ロリンズに刺激されたのか、ミルト・ジャクソンもジョン・ルイスもいつになく熱いフレーズが飛び出す。これもミュージカルの曲だが、「Brigadoon 」というタイトルをご存知の方は少ない。

 「マイ・フェア・レディ」の知名度が高いのはオードリー・ヘプバーン主演の映画が1965年のアカデミー賞を総なめしたことによる。ところが肝心の主演女優賞はジュリー・アンドリュースで、賞を逃したヘプバーンが周囲に八つ当たりした逸話も残っている。翌年のアカデミー作品賞はアンドリュースが主演した「サウンド・オブ・ミュージック」で、「My Favorite Things」はコルトレーンの愛奏曲となる。アドリブの素材はミュージカルのなかにあるようだ。
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