デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジャズ・アット・ザ・プラザ

2006-04-30 07:46:44 | Weblog
 先だって札幌に所用がありネットでホテルを探した。連休前なのでどのホテルも空きがあり、雪祭りやよさこいの時期から比べると料金も格安だ。滞在を愉しむというより、寝るだけが目的なので、駐車場があるなら何処でも構わない。場所と料金を比べながら見ているうち「京王プラザホテル」に目が留まった。マイルス・デイヴィスの「カインド・オブ・ブルー」をかけていたので、このメンバーのライブ盤「ジャズ・アット・ザ・プラザ」を思い出し、迷わず予約をクリックした。意外と単純にできている自分に気がついた。

 ジャズレコード史上最も重要な「カインド・オブ・ブルー」のメンバーによるライブ盤「ジャズ・アット・ザ・プラザ」は58年の録音。翌年に吹き込まれる名作までの軌跡を窺える貴重な録音なのだが、途中でマイクがオフになり録音状況は悪い。一曲目の「ストレート・ノー・チェイサー」のテーマ部分はコルトレーンとキャノンボールが吹き、御大マイルスはソロパートから吹き出すという拍子抜けする出だしで、最後に当時のエンディング・テーマが出てくる。どうやらこの曲がラストらしい。ラストの曲がオープニングとは貴重な録音とはいえいい加減なアルバム作りだ。

 注目すべきはビル・エヴァンスなのだが、どうにも乗り切れないまま終わっている。良いのはバラードの「マイ・ファニー・バレンタイン」のソロくらいなもので、他はリズムセクションの一部といった印象で、これではウイントン・ケリーやレッド・ガーランドの方が増しとも思える。セロニアス・モンク同様、孤高のピアニスト、エヴァンスはマイルスとは肌が合わなかったようだが、マイルス・バンドで得たものは大きい。見合い写真のようなジャケットの傑作「ポートレイト・イン・ジャズ」を生み出したのは「カインド・オブ・ブルー」から半年後だった。

 「ジャズ・アット・ザ・プラザ」には「イフ・アイ・ワー・ベル」も収められていて、プレスティッジ盤「リラクシン」とは違ったマイルスのソロが楽しめる。宿泊した京王プラザホテルは、部屋もゆったりしていてリラクシンできた。荷物を運んで頂いたベルガールが素敵な人で、これだけで随分得をした気になれる。やはり単純だった。
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ジャズ息子

2006-04-23 21:04:32 | Weblog
 「ジャズより他に神はなし」で知られる平岡正明さんの著作は100冊を超えるが、徹底した研究とアドリブが入るので、平岡さんの本は厚いものが多い。「平民芸術」は4センチもあり、まだ1センチほどしか読んでいない。評論は暫く間をおいても前ページとの繋がりが薄いので続けて読めるのだが、小説となるとこうはいかない。笠井潔さんのミステリー「哲学者の密室」は5センチを超える労作だ。途中まで読んで1週間も間をおくと解けかけた謎も、また謎になっているものだから数ページ遡らないと主人公の名前すら忘れていたりする。読み終えるのに笠井さんが書く以上にかかった。

 平岡さんは昨年、「大落語」という本を書かれている。上下巻2冊でかなりボリュームがありそうだ。全部読みきる自信がないものだからまだ未購入だが気にかかる。ジャズと落語は相通じるものがあって、ジャズ評論家の油井正一さんはジャズの歴史を落語仕立てで解説していた。破滅型芸人と言われていた頃もある落語家、川柳川柳(かわやなぎせんりゅう)師匠の噺に「ジャズ息子」という創作落語がありジャズ・ファンには一度は聞いて欲しい傑作だ。

 ジャズに夢中になって友達を集めてジャズの演奏をするうるさい息子と、日本古来の義太夫に凝っている父親との噺で、ジャズと義太夫という組み合わせが面白い。いろいろな楽器を口でやってみせ、両者の様子を交互に演じるあたりは圧巻。まさに軍歌からジャズまで熟す師匠の独壇場だ。毒が効いた文明批評もあり、にやりとさせられる。落ちは明かせぬが、ジャズファンなら、にやりとする「ジャムセッション」がくすぐりとなっている。

 小生は噺のジャズ息子のように楽器はできないが、大きな音でジャズをかけ軍歌を歌う父から怒られたものだ。当時のジャズ息子は、今ジャズ親父になっている。
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ローリング・ストーンズ

2006-04-16 11:52:09 | Weblog
 先月29日にローリング・ストーンズの道内初公演が札幌ドームで開かれた。当地からも小生と同世代の方が数名行ったようだ。誘われたが月末でもあり、外せない会議の予定もあり已む無く断念した。中高校生の頃はマイルスやエヴァンスよりもストーンズを聴いていただけに少しばかり悔いも残るが、小生のように仕事のために粉骨砕身努力する人は、そう簡単に休めない。(本当か?)

 ストーンズのドラマー、チャーリー・ワッツがジャズの冠を付けたアルバムを数枚出していて、写真はその内の一枚。「Long Ago & Far Away」と題されたアルバムは、バーナード・ファウラーのヴォーカルを全曲にフィーチャーしたスタンダード集で、どうにもジャズ・アルバムとは言い難い。チャーリー・パーカーの「ウイズ・ストリングス」をバックに初期のクルーナー・スタイルのフランク・シナトラが唄っていると云えば察しがつく。ワッツの名がなければ恐らく売れないだろうし、帯に「チャーリーが愛して止まない、デューク・エリントン~」というキャッチ・コピーがなければ小生も買うことはなかった。

 コピーは続く。「コール・ポーター、ルイ・アームストロングといった偉大なミュージシャン達の素晴らしさを再発見させてくれる」と。このアルバムを聴いてもスタンダードの魅力は再発見できても、ミュージシャン達の素晴らしさは再発見できそうもない。看板に偽りありだが、買った以上、納得する良い点を見つけるのを信条としている。コール・ポーターの「In The Still Of The Night」は、ジュリー・ロンドンやジョー・スタッフォードのスロー・テンポが定番になっているが、こちらはアップ・テンポで静かな夜が、賑やかな夜に変わる。再発見だ。パーカーのようなソロも聴ける。これで納得。

 当地から札幌まで車で約5時間要する。還暦を過ぎたストーンズを聴きに行った人は皆還暦前で、自由業の人もいるが、殆どは平日に時間を割けない立場にいる。札幌で急な身内のご不幸があった人が多いらしい。
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ボヘミア・アフター・ダーク

2006-04-09 09:13:57 | Weblog
 7日に椎名豊さんのソロ・ライブがありリハーサルを覘いた。「ボヘミア・アフター・ダーク」を弾いていて、「タイミングよく来ましたね」と、ピアノから手を放した椎名さんと再会の握手を交わした。この曲は小生がいつもリクエストするものだから、椎名さんはこの曲が小生のテーマ曲だと思っているようだ。

 オスカー・ペティフォードがジャズ・クラブ「カフェ・ボヘミア」に捧げた「ボヘミア・アフター・ダーク」は、同じくジャズ・クラブに捧げたジョージ・シアリングの「ララバイ・オブ・バードランド」と並び数々の名演が残されている。キャノンボール・アダレイをフィーチャーしたケニー・クラーク盤がよく知られているが、白人バップピアニスト、ジョージ・ウォーリントンの55年録音の「アット・ザ・ボヘミア」にも収録されていて、先ごろ亡くなったジャッキー・マクリーンの若かりし頃の溌剌としたプレイも聴ける。

 このアルバムは71年に国内盤が発売されるまで、プログレッシブというマイナー・レーベルの希少性と、演奏内容の水準の高さから幻の名盤として高値を呼んでいた。漂白されたパウエルの感もあるウォーリントンなのだが、マクリーン、ドナルド・バード、ポール・チェンバース、アート・テイラーといった若手の黒人ハード・バッパーを抜擢した慧眼には脱帽するし、このセッションでは常に引き立て役に廻っているのも好感が持てる。写真はオリジナル・ジャケットとデザインは同じだが色が違う別テーク集で、オリジナルと比べても何の遜色もない熱いステージを聴ける。

 先日の椎名さんの前半のスタートは「ザ・マン・アイ・ラブ」、後半は「アイ・ヒア・ア・ラプソディ」というメロディアスな選曲だった。緩慢になりやすいソロ・ピアノなのだが、減張と緊張感があり素晴らしい内容だった。アルコールとジャズが心地よく回ったアフター・ダークを過ごした。
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クール・ストラッティン

2006-04-02 11:28:13 | Weblog
ジャッキー・マクリーンが、先月31日に亡くなられた。マイルス・デイヴィスの「DIG」でデビューしたのが19歳のときだから、実に長い間ジャズシーンを支えてきたことになる。童顔のせいもあり、女性泣かせのフレーズと共にいつも若く感じていたが、73歳だった。やはり早すぎる。

 マクリーンはリーダーアルバムよりも、サイドメンとして加わっているものに名盤が多い。かつてのジャズ喫茶のリクエストで一番多かったのは「クール・ストラッティン」であり、ブルーノート盤のセール上位にいつも並んでいる。次いでジョージ・ウォーリントンの「カフェ・ボヘミア」、チャーリー・ミンガスの「直立猿人」、マル・ウォルドロンの「レフト・アローン」、何れもマクリーンの素晴らしいソロが聴ける。とりわけ女性に人気があったのはプレスティッジ盤のリーダー作「4,5&6」だった。この盤の「センチメンタル・ジャーニー」は確かに女性の琴線を揺さぶるフレーズだ。

 意外にもアメリカでは、「クール・ストラッティン」の評価は低い。日本では一番人気で誰が演奏しているのか知らなくても、このジャケットは知っているという人もいるくらい有名になっている。美人を想像させる脚フェチ御用達のデザインは、「あの脚のレコード」で語られ、マクリーンどころかリーダーのソニー・クラーク、タイトルの名すら出ないこともある。ところで、写真のジャケットを見て、脚が逆だと分かった方は相当の脚フェチです。こちらはマニア御用達のエラー・ジャケットです。

 すでに耳だこになっているが、マクリーンを偲び「ブルー・マイナー」に静かに針を落とした。女性でなくても涙が出てくる。ご冥福を祈ります。
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