デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

オルガンでベサメ・ムーチョを聴いてみよう

2013-02-24 08:37:53 | Weblog
 ジャケットの美女やデザインに惹かれて中味度外視で買う所謂ジャケ買いというのがあるが、その心理を狙ったかのようにインパクトがある意匠の新譜が多い。中には内容は二の次でジャケットで売ろうとする怪しからんアルバムもある。それも芸術的な写真や構図ならともかく、エロスとは表向きで明らかに卑猥なジャケとなると、内容に興味があり買ったとしても家人の目に付くところには置けないし、レコード店の店員が若い女性ならレジを通すのも憚る。

 その類のジャケの話は別項に譲るとして、今週はジャケ買いの対象にならないアルバムを話題にしてみよう。写真のジャケットをエサ箱で見かけたことがないだろうか。頻繁にレコード店を巡る方なら一度や二度は目にしているはずだ。大抵安い。それでも売れないのは、この工夫の無いジャケが一因と思われるが、日本では人気のないジョニー・ハモンド・スミスによるものだろう。スミスの人気云々というよりオルガンという楽器がブルース色を強くするため敬遠される傾向にある。同じスミスでもジミー・スミスなら知名度もあるが、ギタリストのジョニー・スミスと混同を避けるため楽器名を入れたこちらのスミスはエサ箱の隅というわけだ。

 さらに正統派のジャズファンが鼻で笑うソウル・テナーの代表格であるウイリス・ジャクソンが共演となると、よほどのマニアでない限り手を出さない。そんな不遇の1枚だが、先入観を捨ててまずは聴いてみよう。順当にA面から聴き出すと途中で針を上げられそうだから、B面にしよう。トップはベサメ・ムーチョだ。スミスがギンギンに攻め、ジャクソンは股を割って派手にブローするかと思いきや、哀愁を滲ませながらじっくり聴かせる。脳天に響くエディー・マクファーディンのギターと憂いを持ったテナーのコントラストは、コレット・テンピア楽団の映画「太陽はひとりぽっち」のテーマ曲の雰囲気に似ていて妙に懐かしい。

 日本ではさっぱりのハモンド・スミスだが、ディスコグラフィーを見て驚いた。60年代初頭から70年代中ごろまで夥しいアルバムをリリースしている。それもそのレーベルに録音するのが名誉といわれるプレスティッジとリバーサイドで、前者には2枚のベスト盤、後者からは63年に続けざまに4枚も出しているから相当の人気だったのだろう。ジャケットで売らず、中味で買うのが本物のジャズでありファンだとでもハモンド・スミスは言いたげだ。
コメント (22)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジャズ・ウエストのヴォーカル盤

2013-02-17 08:48:20 | Weblog
 1950年代にアメリカでは多くのマイナー・レーベルが誕生した。メジャーでは出ないような個性的なものが多く、今となってはプレス枚数の少ないオリジナル盤は勿論貴重だが、音楽的にも目を瞠るものがある。そのひとつにレーベル名が示すように西海岸で誕生したジャズ・ウエストがあり、カタログ数は僅か10枚だが、マイナーでは考えられないヴォーカル盤が2枚含まれているのは珍しい。

 ジェーン・フィールディングで、写真はデビュー盤になるが、半年後にもう1枚「Embers Glow」という作品も残している。同じシンガーが2枚を占めているのでかなり期待をかけていたのが窺えるが、このアルバムは何とルー・レヴィーのピアノと、レッド・ミッチェルのベースだけがバックだ。場数を踏んだベテランならいざ知らず、最初の録音となると余程歌唱力に自他共に認める自信があるか、さもなくばオーケストラを雇う予算がないかのどちらかだ。さて、どちらだろう?どちらも当てはまる。マイナー・レーベルなので予算はないが、このバックで歌いきるだけの歌唱力がある。それもこのとき21歳というから驚きだ。

 トップは、お馴染みガーシュウイン兄弟の「How Long Has This Been Going On?」で、オードリー・ヘプバーンが映画「パリの恋人」で歌ったことから注目された曲である。若い頃のアニタ・オデイを思わせるハスキーな声で、柔らかい色気もほんのりと漂う。初アルバムとは思えないほど落ち着いていて、レヴィーとミッチェルと同じくらい経験があるのではなかろうかと錯覚するほどだ。ジャケットの写真からはとても21歳には見えないほど大人びていているが、裏ジャケットに載ったマイクに向かうスナップを見ると、あどけなさが残る可愛らしい歳相応の表情をしている。歌の完成度と成熟度からみるとこの写真が相応しい。

ジャズ・ウエストといえばアートペッパーのリターンが有名だが、他にもジャック・シェルドンやケニー・ドリュー、ポール・チェンバース、そして超高値のローレンス・マラブルといった佳作が並ぶ。どのアルバムも手作り感が強いジャケットと、プレイヤーの意のままの演奏内容で、メジャーには真似ができない味わいがある。ジャズに魅せられた人はいつの時代になってもはかなく消えたレーベルのレコードを探すことだろう。
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

デイヴィッド・ベノワとエミリー・レムラーの邂逅

2013-02-10 07:55:34 | Weblog
 ここ札幌では、気温が1日中0度以下の日をさす真冬日が元旦から19日間続いたそうだ。1977年の25日連続に次ぐ記録というから三十数年ぶりの寒さになる。さらに雪も多く、積雪量は20日の大寒時で92センチと、こちらも例年にない量で、幹線道路はともかく一本裏道に入ると交差できないほど狭くなっている。春が来ると暖かくなり、自然と雪も融けるのだが、これだけ寒さが続くと何時になく春が待ち遠しい。

 そんな心情を切り取ったかのようなジャケットとタイトルのアルバムがあった。デイヴィッド・ベノワの「Waiting for Spring」で、ビル・エヴァンスに捧げたものだ。ベノワというとフュージョン界でコンポーザーやプロデューサーとして大活躍しているが、ピアニストとしても一流で多くの作品を残している。このアルバムは、89年に録音されたもので、ベースとドラムという基本編成に加え、女性ギタリストのエミリー・レムラーの参加が注目される。レムラーはこの録音の1年後に32歳の若さで亡くなっているので、大変貴重な録音であるし、何より女性らしい繊細なフレーズはその夭折と重ねると涙ものだ。

 ピアノとギターという組み合わせからはエヴァンスとジム・ホールを思い起こすが、あれほどの緊張感とはいわないまでも、ベノワが敬愛するエヴァンスに捧げるとなればやはり張り詰めたものがある。圧巻はリチャード・ロジャースとロレンツ・ハートのコンビによる名作「マイ・ロマンス」で、エヴァンスの生涯の愛奏曲としてしられるナンバーだ。ゆったりとしたテンポのテーマから徐々にテンションを上げ、感極まるアドリブは特別な曲という想い入れが前面に出た結果だろう。そして続くレムラーのロマンティックなこと。もしかするモンティ・アレキサンダーとの蜜月を想い出したのかもしれない。

 先週5日から開催されている「さっぽろ雪まつり」の大通りメイン会場は連日多くの観光客で賑わい、迫力ある大雪像に歓声が上がる。よく行くススキノにも別会場が設けられ、毛がにや鮭を埋め込んだ芸術ともいえる氷彫刻に足を止めた酔客から感嘆の声も聞かれる。札幌の冬の一大イベントであるこの祭りは惜しくも明日11日までだが、この祭りが終わると春も近い。もう少しこの寒さを楽しんでみようか。
コメント (21)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

We'll Be Together Again をイタリアンで

2013-02-03 07:59:31 | Weblog
 馴染みの中古レコード店を覘いてみると、「ヨーロッパ・ジャズCD大量入荷」の貼り紙があった。店主によるとコレクターが事情により手放したという。あまりヨーロッパ物に熱心ではないが、掘り出しものがあるかもしれないと思い棚を探る。エサ箱に陳列されたレコードだとジャケットを見ながらチェックできるが、CDは棚に並んでいるのでジャケットの背文字しか見えない。1枚ずつ取り出して確認もできるが、時間がかかるので背を追ってみる。

 アメリカのミュージシャンだと背文字だけで判断が付くが、ヨーロッパとなると不勉強なこともあり名前すら読めない。その中で目に付いたのは、「we'll be together again」のタイトルで、作者のフランキー・レインが歌ってヒットしたあの曲である。リーダーは?その名前に記憶もなければ、これが何と発音するのかさえ解らない。発売元はドイツの「yvp music」なので、ドイツ人かと思うとこれがイタリア人でややこしい。「Giuseppe Bassi」というベーシストで、調べてみると「ジュセッペ・バッシ」と発音するようだ。このアルバムが録音された2000年時で29歳だが、イタリアとニューヨークを行き来し、ルー・タバキンとも演奏しているという。

 微かに聞き覚えがあるピアノのダド・モローニをはじめオール・イタリア勢で、タイトル曲の他にはガーシュウィンの「Love Walked In」やビリーの名唱で知られる「Good Morning Heartache」といったスタンダードにオリジナル曲が数曲、そしてニーノ・ロータの「ゴッドファーザー愛のテーマ」も収録されており、いかにもイタリアらしい。テナーとトランペットをフロントに据えた典型的なモダン・コンボの編成で、演奏内容もストレートだ。ヨーロッパ・ジャズというとフリージャズに結び付くが、この時代にあってもアメリカ的なジャズを目指しているのは頼もしいし、ヨーロッパに於いてもこれが基本なのだろう。

 イタリアといえば第2次世界大戦後、ドイツ人が三国同盟の日本人に、「今度、戦争するときはイタリア抜きでやろうな」と言った有名な話がある。「together again」とばかりに「今度」の戦争は困るが、同盟国の意見には耳を貸さず自分の考えを通すイタリア人を皮肉ったものだ。個人主義の国民性とはいえ、このアルバムを聴く限りことジャズに関しては見事なコンビネーションをみせる。

コメント (16)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする