デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

多忙な暮れはクレイジー・リズムで乗り切ろう

2008-12-28 08:19:59 | Weblog
 ジャズに明け暮れた1年も終わりを迎え、本稿が今年のラスト・アドリブ帖になりました。ジャズを話題にしているブログは星の数ほどあると思われますが、その中から拙ブログを毎週ご覧いただいている皆様、そしてコメントをお寄せいただく小生同様ジャズなくては生きていけない皆様、感謝感謝です。開設されては消えてゆくブログですが、こうして3年間毎週欠かさず更新できたのは皆様のおかげです。
 
 仕事や家事で何かと忙しい年末ですが、暮れに「クレイジー・リズム」はいかがでしょう。タイトル通りアップテンポのリズミカルな曲で、大掃除も捗り、渋滞にも苛々しないという肉体的にも精神的にも暮れに打って付けですし、慌しいスケジュールを滞りなくこなすには最適です。古くは35年のジャンゴ・ラインハルトの名演がありますが、モダン期でも曲のタイトルが人間そのものもバド・パウエルを初め、スタン・ゲッツとJ.J.ジョンソンが邂逅したオペラ・ハウスの白熱したセッション、ピアノ・トリオの真髄が聴けるレッド・ガーランド等々、年明けを待たずして決定するベスト(笑)名演が目白押しです。

 そして忘れてはいけないのが、ベニー・カーターの「Further Definitions」です。カーターとフィル・ウッズのアルト、コールマン・ホーキンスとチャーリー・ラウズのテナー、4管編成の豪華な音は一年の疲れを吹き飛ばしてくれるでしょう。カーターはエリントン楽団を皮切りに多くの名演を残したばかりか、マックス・ローチやJ.J.ジョンソン、バディ・リッチを育てたことでも知られる偉大なプレイヤーです。後継者を育てることはジャズ発展のために不可欠ですし、そのリーダーが次世代のプレイヤーに伝統を伝えることでジャズの本質であるスウィングを継承できるものと思います。

 来年もまたジャズという魅力的な世界で過ごせるでしょう。further ~更にカーターのようにジャズの発展と啓蒙のために、そして何よりもジャズが好きな自分のために更新を続けますので、来年も引き続きご愛読頂ければ幸いです。コメントをお寄せ頂いた皆様、そして毎週ご覧頂いた皆様、本当にありがとうございました。

九拝
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ジミー・スミスがサンタになったわけ

2008-12-21 08:34:44 | Weblog
 子どものころ父母にサンタさんは本当にいるのかと聞いたり、親になって尋ねられたことはないだろうか。そんな疑問に答えるジェフ・ガイン著「私がサンタになったわけ」は、サンタクロースの名前の由来になる聖ニコラウス卿が、自らクリスマスとサンタについて語る物語だ。クリスマスとサンタについての文化的考察にも及んだ研究書であるとともに、両親が正体だと知る前に子どもに聞かせたいサンタの謎を知ることができる。

 この時期なると売れるのがサンタ関係本なら、CDもクリスマスものが売れるとみえて、店頭には赤と白のパッケージが所狭しと並ぶ。定番のビング・クロスビー「ホワイト・クリスマス」をはじめ、マライア・キャリー「恋人たちのクリスマス」、山下達郎「クリスマス・イヴ」という新定番から、犬がワンワン吠える声だけの珍盤もあり、古今東西、趣向は違っていてもクリスマスソングは華やいだ雰囲気がある。クリスマスはイエス・キリストの降誕を祝う記念日なのだが、非キリスト教文化圏の日本でも子どもや恋人同士には特別な日であるだけに慣習化したチキンやケーキ、プレゼント、そしてパーティに欠かせない音楽は楽しいほうがいいだろう。

 ジャズ・クリスマス・アルバムも多く作られているが、そのなかでもジミー・スミスの「クリスマス・クッキン」は、録音された64年当時から話題を呼んだアルバムだ。「ジングル・ベル」や「サンタが町にやってくる」等々お馴染みのクリスマス・ソング集なのだが、ダイナミックなビッグバンドと、オルガン・アドリブの妙を満喫できるコンボの2種類のセッションがほどよい配置で収められており、ともすると単調になりがちなこの類のアルバムにはみられないドラマ性まで兼ね備えている。単なる企画アルバム以上に芸術性が高い作品は、キング・オブ・ジャズ・オルガンの名に恥じないものだ。

 幻術と魔法を用いるサンタは、一番大事なことは愛であり、それはもらうことより贈ることに大きな喜びがあると語っている。ジミー・スミスがサンタになったわけもきっとジャズを贈る喜びを知っているからだろう。「みんな、クリスマスおめでとう、すばらしい夜を」、聖ニコラウス卿の結びの言葉である。
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ファイン・アンド・ダンディなデイブ・マッケンナ

2008-12-14 08:16:27 | Weblog
 40年代のスウィング時代末期から50年代のモダン・ジャズ時代に至る過渡期に、黒人スウィング・ジャズメンを主体に盛んだったジャム・セッション形式による演奏を、欧米ではメインストリーム・ジャズと呼んでいた。日本でダンモという言葉が生まれたころである。モダン・ジャズが主流になりつつある日本で欧米の呼び方では混同するうえ、用語も意味するところが曖昧なことから適当な呼びかたはないかと考え、中間派ジャズという用語を提唱したのは大橋巨泉氏だった。

 今ではすっかり定着した中間派とよばれるピアニストに10月に亡くなったデイブ・マッケンナがいる。70年代に折からの中間派ブームに乗り、キアロスキューロやコンコードから多くのリーダーアルバムが発売されたが、全盛期であった時代に自己名義の作品は実に少ないことに驚く。リーダー作よりズート・シムズの「ダウン・ホーム」や、ミリー・ヴァーノンのストーリーヴィル盤で知られる人で、ときに主役を食う名脇役ぶりが頼もしい。テディ・ウィルソンの流れを汲むスウィンギーで軽妙なタッチと、バップ・フレーズを使うスタイルは中間派を超えた限りなくモダンジャズに近いピアニストであった。

 73年に録音された「Cookin' at Michael's Pub」は、ディック・ジョンソンのクラリネットとベースのバッキー・カラブレスという変則トリオだが、リズムを強調した左手の動きはドラムレスとは思えないほどビートが効いている。曲作りも上手いマッケンナのアルバムタイトル曲に始まり、「Dinah」、「Cheek to Cheek」と続くが、スウィング時代の薫りを残しながら味付けは斬新なもので今出来上がったばかりの輝きを持つ。「Fine and Dandy」も収録されていて明快なピアノラインはファインであり、オールバックの髪型はちょい悪オヤジ風でまさにダンディ、マッケンナの音楽と人を表現するならこのタイトルであろうか。

 49年にチャーリー・ヴェンチュラ楽団でデビュー以来、ジーン・クルーパやボビー・ハケットとの共演、そして70年代のソロアルバムまで鍵盤の上を踊るような軽やかな音とピアノスタイルは変ることがなかった。このアルバムのラスト曲は、ジミー・マクヒューの「Last Dance」である。
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ネルソン・リドルの贅沢なカラオケ

2008-12-07 08:14:13 | Weblog
 12月に入ると宴会が多くなり、余興というと決まってカラオケ大会がある。外国でも日本語の発音をそのまま使った「Karaoke」と表記されるように、発祥の地は日本で酒席には欠かせない。日ごろ喉を鍛えている方にとってはまたとない出番なのだろうが、音痴党には厄介なものだ。指名されると酔った勢いで歌うのだが、コミックソングでもないのに笑い声が聞こえる。司会者が伴奏が合いませんでしたね、等とフォローしてくれるが、何の慰めにもならない。

 「シング・ア・ソング・ウィズ・リドル」は、フランク・シナトラをはじめナット・キング・コール、ジュディ・ガーランド、ダイナ・ショアがネルソン・リドル楽団をバックに歌ったヒット曲を歌なしで構成したカラオケ・アルバムである。リドルの微に入り細を穿つ手書きのスコアが付けられており、キーの高さも指定されているので歌を練習するには最高のテキストだろう。ジャケットの表には「You are the solo star」、裏には「This album needs you!」とあり、たとえ音痴であってもゴージャスなリドル楽団を背景にすると気分はシナトラでありショアである。但し誰も聞いていないという設定に限るが・・・

 巧みなアレンジは「Little White Lies」に始まり、「Darn That Dream」、「Day In-Day Out」と一度は歌ってみたい曲が並び、ラストはサッチモでヒットした「You're Driving Me Crazy」である。失恋の歌なのだが落ち込むような暗さはなく、哀しいまでに女心の感情表現をするビリー・ホリデイでさえストーリービル盤で軽快に歌い、ベティ・ベネットは彼氏を横に乗せ、うきうき気分でドライブしているかのように楽しい。曲を作ったのは「ラブ・ミー・オア・リーブ・ミー」で知られるウォルター・ドナルドソンで、最初に付けた「What did you do to me」という復讐めいた題名から急遽変更したというから失恋にも楽観的だったのかもしれない。そういえば暗さを跳ね返す「マイ・ブルー・ヘブン」もドナルドソンだった。

 超一流のアレンジと演奏は聴くだけでも充分楽しめるが、「このアルバムにはあなたの歌が必要です」というクレジットに従い歌うのが一番である。贅沢なネルソン・リドル楽団をバックに歌って、伴奏が合わないという言い訳はできそうにない。
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