デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

暮れにクレオパトラの夢を聴く

2015-12-27 08:45:57 | Weblog
 早いもので、本稿が今年の最終になりました。さすがに500本近くも書いておりますとネタも薄くなりますが、聴けば聴くほど、知れば知るほど面白くなるジャズですのでこうして10年目も毎週欠かさず更新できました。これも毎週ご覧いただいている皆様のおかげですし、マイナーな曲のベスト企画にレコードやCDを聴き比べてコメントをお寄せくださる皆様に励まされているからです。

 今年の暮れは「クレオパトラの夢」を選びました。おそらく日本で最も有名なジャズナンバーでしょう。ところが、40年ほど前にSJ誌のブラインドフォールド・テストでクロード・ウィリアムソンにこの曲を聴かせたら知らないと答えました。パウエルを敬愛するバップ・ピアニストが聴いていないとは驚きです。そういえばそれまでにカバーは聴いたことがありません。また、秋吉敏子さんはこの曲は嫌いだと仰っていました。パウエルの絶頂は1947年のルースト・セッションですので、それをバイブルにするピアニストからみると全盛期を過ぎた1958年の「The Scene Changes」は物足りないのかも知れません。

 最近は来日したピアニストにこの曲を録音させたり、日本人も演奏するようになりましたが何故か物足りなさを感じます。特殊なキーですのでパウエルと同じスピードで演奏するのは難しいためテンポを落としたり、弾きやすいキーに移調して演奏するからでしょう。そのキーについては大阪のジャズクラブ「OverSeas」の寺井珠重さんが詳しく解説されておりますのでご参照ください。アレンジを施すのもピアニストの個性であり主張ですが、このような超有名曲はオリジナル通りに演奏してこそ魅力が伝わるものと思います。日本人の琴線を揺らす浪花節的曲調と一気に畳み込むスピードでジャズの虜になった人は数え切れないはずです。

 パスカルは、「クレオパトラの鼻がもうすこし低かったら・・・」の名言を残しておりますが、「クレオパトラの夢」がなかったら日本のジャズの歴史は変わっていたでしょう。この1曲から1枚のレコード、そしてパウエルという一人の天才、更に広がるジャズ・ワールド、掘れば掘るほどジャズの「Scene」は変わります。来年もジャズの魅力を伝えていきますので、引き続きご愛読頂ければ幸いです。毎週ご覧くださった皆様、そしてコメントをお寄せいただいた皆様、今年一年本当にありがとうございました。

九拝
コメント (17)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マイルスが煙を吹いたって?

2015-12-20 09:31:43 | Weblog
 先日、馴染みのジャズバーでマスターと酔った勢いで与太話をしていたら居合わせたお客さんから「あのぉ、煙が目にしみるって曲ありますよね、マイルスのはどのアルバムに入っているんでしょうか?」と聞かれた。どちらからともなく会釈を交わす程度で話をしたことはないが、小生より一回り若い方だ。マスターは「さぁ?」と私に振る。「えっ、マイルスの煙はないはずですが?」と聞き返すと、YouTubeでプラターズを探していたときに見付けたという。

 早速、開いてくれた。最新のiPhoneだかで音が良い。確かに「Smoke Gets In Your Eyes Miles Davis」とクレジットされている。マイルスに似ているがマイルスではない。これが収録されているCDを聴いたことがあるので恥をかかなくて済んだ。しかも録音された1992年に、このメンバーのライブを見ている。リチャード・デイヴィスは僅か1メートル前にいる。左手に真面目を絵に描いたようなジョン・ヒックス、奥に元気のいい中村達也、そしてピアノに肩肘付いてやる気のなさそうなマービン・ピーターソン。観客の少ないドサ回りで沈むのは仕方がないとしても、椅子に座ったままソロを取る大先輩のリチャードを蔑むような態度に腹が立つ。

 あの輝きはどうしたのだろう。そう、あれは1972年にビリー・ハーパーと一緒にギル・エヴァンスのバンドの一員として来日したときだ。派手なイスラム風の衣装で颯爽と登場するなり新宿厚生年金ホールの屋根を突き破るようなハイノートを連発する。いやはや、こんなに上手い奴がいるのか。ギルが連れてくるだけのことはある。後に「トランペットのコルトレーン」とか「ジャズ界のモハメッド・アリ」とも呼ばれたマービンの日本デビューだ。シーンをリードする勢いがあったマービンを、20年後このような姿で聴くとは思わなかった。人気や実力が優先するジャズ界であっても先輩を敬う心がなければ大物にはなれない。

 基本的にジャズミュージシャンを批判することなく、一人でも多くのジャズファンが増えるようジャズの魅力を伝えるのを当ブログの主旨としているが、期待が大きかっただけに裏切られた感が強かった。熱心なマービン・ファンには許していただきたい。ところで、YouTubeのルールは知らないが、誰がこんな悪戯をするのだろう。「犯人はハンニバル」と煙に巻いて店をあとにした。
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

100年後も「All of Me」は誰かが演奏しているし、レコードをかけているだろう

2015-12-13 09:25:50 | Weblog
 原節子さんを話題にした先週、代表作の「東京物語」がどのような評価を得ているのか調べた。紹介した「21世紀に残したい映画100本」の他に、2012年には「映画監督が選ぶベストテン」第1位に選ばれている。色んなベストがあるものだと関心したついでに音楽賞の一覧を見てみるとアメリカに「Songwriters Hall of Fame」というのがあり、「Johnny Mercer Award」や「Sammy Cahn Lifetime Achievement Award」等の部門が並んでいる。

 そのなかの「Towering Song Award」に、「All of Me」があった。2000年に選ばれている。ジャズシンガーなら一度は歌う曲なのでジャズファンに説明の必要はないだろう。インストも多くの録音があるが、なかでも度肝を抜かれたのはリー・コニッツだ。初めて聴いたときの驚きは今でも覚えている。とある本格的鑑賞店と呼ばれるジャズ喫茶で、「Very Cool」でようやくコニッツという名前を覚えたころだ。薄暗い空間に置かれた赤と黒のジャケットはそれだけで空気を動かす「Motion」で、テーマらしきものが出てこないままアドリブに入っていく。曲名がわからないので、勉強のためジャケット裏を見せてもらう・・・

 あの曲だよとマスター氏はニヤリと笑う。ベースのソニー・ダラスはトリスターノと共演しているので違和感はないが、意外なのはエルヴィン・ジョーンズだ。インプロヴァイズの極致ともいえる整合性のない展開なのだが、音と音がぶつかることなく調和が取れている。当初、ドラムはニック・スタビュラスが叩いていたがコニッツは満足できなく、エルヴィンに替えて録音した経緯がある。この録音は1961年。エルヴィンが参加したサックス、ベース、ドラムという同じ編成のセッションが1957年にあった。ロリンズから刺激を受けたことは間違いないだろう。天才は同時期の天才から影響を受け更に大きくなる。

 「Towering Song Award」は、1995年の「As Time Goes By」が最初の選出で、「Happy Birthday To You」、「How High The Moon」、「The Christmas Song」、「Fly Me To The Moon」、そして「All of Me」と続いていく。年末になると日本でもレコード大賞やら歌謡大賞やら有線大賞やらで賞があふれる。果たして10年後歌われている曲、いや来年まで覚えている曲があるだろうか。賞をとれる曲とは100年経っても色褪せない曲をいう。
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

モーリン・オハラは怒った顔も美しい

2015-12-06 09:22:22 | Weblog
 先月末に原節子さんが、9月5日に95歳で亡くなっていたことが報道された。42歳で引退しているので新作を映画館で観たことはないが、「青い山脈」や「東京物語」という名作はテレビで鑑賞している。生涯一度も結婚しなかったので「永遠の処女」と言われ、スクリーンを去った後は表舞台に一切姿を現すことがなく伝説化された女優だ。類い稀な美貌の持ち主で小生より上の世代は胸ときめかせたことだろう。

 奇しくも今年10月24日に同じ歳で亡くなったアメリカの女優がいる。西部劇のヒロイン役で有名なモーリン・オハラだ。数ある出演作のなかでもジョン・ウェインと共演した「静かなる男」は印象深い。典型的な美人なので、どのような表情でも綺麗なのだが、ハッとするほど美しいのは怒った顔である。例えば浮気がバレて彼女に怒られた時、「怒った顔も綺麗だよ」と言い訳にならないフレーズで繕ったりするが、余程の美女でない限り怒った顔は間違いなく鬼なのである。いや、プライドの高い美人ほど恐ろしい形相になるものだ。オハラの怒った顔が美しいのは、芯が強くて勝ち気な女を演じることが多かったこともあるが、赤い髪と燃えるような紅い唇、そしてクールな目元にある。

 その容姿からテクニカラーの女王と呼ばれたオハラは歌も上手い。女優の余技ではないことを先に言っておく。まず大きく肌蹴た胸元のジャケットに吸い込まれる。そして「Love Letters From Maureen O'Hara」というタイトル。メールのない時代にどれほどラブレターに思いを馳せたことだろう。次にライナーノーツ。何とジョン・フォード監督が書いている。そして選曲。「Love Letters」は勿論のこと、「My Romance」に「You'd Be So Nice」、聴かずににはいられない。そして極め付きは「I Only Have Eyes For You」だ。ややラテン調のアレンジでメリハリを付けて美しい声でドラマティックに歌い上げる。クラシック風の味付けはオハラならではの気品といえよう。

 二人の女優は1920年生まれで戦前から戦後にかけて銀幕を彩っていた。映画が娯楽から芸術性を帯びていく時代である。片や小津安二郎監督のお気に入りで、片やジョン・フォード監督御用達だ。21世紀に残したい映画100本に選ばれた「東京物語」、ヒューマン・ラブストーリーの最高傑作と謳われる「静かなる男」。後世に残る名監督の名作は名女優なくしてあり得ない。
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする