デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

Somebody Loves Me からガーシュイン・サウンドを探る

2016-02-28 08:29:13 | Weblog
 脚本家であり映画監督でもあるイーアン・ウッドの著書「ガーシュイン 我、君を歌う」(ヤマハ刊)は、ラプソディー・イン・ブルーを中心にアメリカ音楽を築いた天才の生涯を描いている。主観的な記述も見受けられるものの、人物像や作品の捉え方は見事だ。当時の音楽や映画業界の成り立ちにも言及しているのでショー・ビジネスの世界を知る絶好の書でもある。

 そのなかで1924年にラプソディーの成功のあと手掛けたレヴュー「ジョージ・ホワイトのスキャンダル」の挿入歌「Somebody Loves Me」にふれ、「スワニー以来のジョージの大ヒットだったばかりでなく、まちがいなくガーシュイン・サウンドを持つ初めての歌だった」と記述している。そのサウンドについては具体的に語られていないが、どの時代にどのようなスタイルで歌われ演奏されても、嗚呼ガーシュインだな、と直観的にわかる曲をいうのだろう。それは魅力的なメロディとコード進行の面白さ、そして何よりも格調の高さにある。

 これがガーシュイン・サウンドとは言い切れないものの、おそらく最も近いのがアル&ズートだ。テナー・サックス・コンビだが、お互い邪魔をすることなくそれでいて主張している。それぞれの音楽を高く評価し合っている二人だからこそ出来るチームプレイであり、寛ぎと緊張が程よく調和された演奏だ。このテナーが誰で次に出てくるのが誰それ、というソロ分析もときに重要ではあるが、アル&ズートに関しては全くの無用だ。もし、これがアルで・・・と能書きを垂れる輩がいたら、そんな説明は要らナイとでも言っておこう。from A to Z・・・ジャズの楽しさ全てが詰まっているアルバムはただ聴くだけでいい。

 10代から楽譜出版社でピアノを弾くだけの技量があったガーシュインだが、音楽学校で一度も教育を受けていないのが驚きだ。もしジュリアードでクラシック一辺倒の勉強をしていたらクラシックの演奏家か作曲家になっていたかも知れない。その分野でも成功したと思われるが、ポピュラーの楽曲とアドリブの素材は薄っぺらだろう。因みにエリントンも正式な音楽教育を受けていない。
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プリシラ・パリス、ビリー・ホリデイを歌う

2016-02-21 09:13:29 | Weblog
 フィル・スペクターがプロデュースしたことで当たったグループの一つにパリス・シスターズがいる。美人姉妹ヴォーカル・グループとして売り出すも、鳴かず飛ばずだったが、1961年の「I Love How You Love Me」でブレイクした。ラジオ番組「ザ・パンチ・パンチ・パンチ」の初代パーソナリティ「モコ・ビーバー・オリーブ」が、「わすれたいのに」という邦題でカバーしていたので、そちらの方が有名かも知れない。

 そのシスターズの末っ子プリシラ・パリスがソロで出したのが「Priscilla Loves Billy」だ。雑誌で美女ジャケット特集を組むならトップページに掲載される垂涎物である。発売レーベルは阪神ファン御用達の「Happy Tiger Records」で、ジャケットは質感のあるエンボス紙を使っているため飾りにもなる仕掛けだ。「Just Friends」に始まり「He's Funny That Way」、「I Love You Porgy」、「My Man」・・・と続く。何とビリー・ホリデイ集だ。ところがタイトルをよく見ると「Billie」ではなく「Billy」になっている。このアバウトさゆえ熱心なビリー・ファンに無視されたアルバムだ。

 さて内容は?これでアニタ・オデイのようなドスの利いた声だったら面白いのだが、可愛い顔からは甘い声しか出ない。歌い方はパリスなのにフランス人ではないが、アンニュイという表現が似合う。どの曲も同じようなゆったりとしたテンポで歌っているので金太郎飴状態だが、通して聴いても自然と耳に入る。よほどの失恋でもしない限りビリーを13曲続けて聴くのは難しいし、孤独感がひしひしと押し寄せるビリーの「Solitude」を聴いたら涙が出てくるが、パリスを聴くと身体が楽になるし元気も出てくる。癒しのパリスとでも名付けようか。

 私生活では麻薬を常習したり、女優ラナ・クラークソンを射殺したりと問題のあるスペクターだが、音楽プロデューサーとしての才能は素晴らしい。多重録音で重厚な音にするウォール・オブ・サウンドはつとに有名だが、ステレオ録音が主流となってもモノラルにこだわり続けたところにスペクターの音楽に対する哲学や信念がみえる。未だにモノラル盤しか聴かないジャズファンは数多い。
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浅丘ルリ子はブルーノートのジャケットモデルだった!?

2016-02-14 09:24:19 | Weblog
 日本の話だがブルーノートで一番売れたレコードといえば「Cool Struttin'」だ。この超名盤、本国ではさっぱり売れなかったというから面白い。リリースされたのは1958年10月なので日本に入ってきたのは翌年だ。当時から営業していた「ちぐさ」や「ママ」、「イトウコーヒー」、「汀」、「KI-YO」等で連日かかったことで火が付いた。演奏内容といいジャケットといい、これほどジャズ喫茶の空間で映えるレコードは他にはないだろう。

 では売れなかったレコードは?バーゲンセールの最終日にブルーノート・コーナーをのぞくとわかる。まず「The Three Sounds」だ。ジャケットで売れる「Moods」以外は残っている。「Alligator Bogaloo」や「Blacks And Blues」のファンク系も人気がない。そしてサム・リヴァース。「Fuchsia Swing Song」と「Contours」はフリー・ジャズや新主流派ファンに好評だが、問題は「A New Conception」だ。スタンダードを演奏したことで硬派のジャズファンからはコマーシャルだと酷評され、スタンダードを吹いたからといってリヴァースの咆哮に拒絶反応を示す人は手を出さない。

 このアルバムが録音されたのは1966年なので丁度半世紀経ったことになる。「What A Difference A Day Made」を改めて聴いてみた。いきなり咆えるリヴァース節からやんわりとテーマに入っていくのだが、歌物とは思えない激しい展開にもっていく。今聴くとそれほど違和感はないが当時の解釈としては異質なものだったろう。前2作は64年にマイルス・バンドの一員として来日したご祝儀でそこそこ売れたものの、本国では売れない。そこで一般受けするジャケットでスタンダード集となった。ライオンの顔を立てつつ自身のスタイルを貫くギリギリのリヴァースがそこにいる。

 ところで、このレコードがジャズファン以外に注目されたのをご存知だろうか。演奏内容ではない。オーストラリアにしか生息していないエミューのようなジャケットだ。モデルをよく見てほしい。誰かに似てはいないだろうか。66年頃といえば石原裕次郎と組んだ映画「二人の世界」や「夜霧よ今夜も有難う」が大ヒットしている。日活のポスターと一緒に飾っている浅丘ルリ子ファンがいるかもしれない。
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怒れるミンガス、穏やかにピアノを弾く

2016-02-07 09:17:22 | Weblog
 2月に入り各球団、春季キャンプがスタートした。毎年のことだが暖かい沖縄県と宮崎県に集中している。各地とも広い球場と整った施設を備えているのでシーズンに向けて準備をする選手たちにとって最適の地といえる。贔屓のチームは毎年沖縄県名護市だったが、今年は沖縄入りする前にアメリカのアリゾナ州ピオリアをキャンプ地に選んだ。提携球団であるサンディエゴ・パドレスの施設を利用してトレーニングに励むという。

 アリゾナ州といえばメキシコ国境近くのガルスで生まれたチャールズ・ミンガスがいる。以前にもマクリーンとモンテローズのホーン2本でビッグバンドの迫力を出したミンガス・ミュージックの極致「直立猿人」、ドルフィーとテッド・カーソンが怒れるベーシストの主張をダイレクトに表現した最高傑作「Mingus Presents Mingus」、またニューポート・ジャズフェスの在り方に疑問を呈した「Newport Rebels」を話題にした。今回は異色作だ。ミンガスのアルバムはどれも異色作と言われそうだが、何とタイトルの如くピアノを弾いているのだ。

 ピアニスト以外でも一流のプレイヤーとなればピアノの素養もある。例えば録音中、喧嘩した挙句帰ったガーランドに代わって弾いたマイルスや、ギャングに脅されてドラムを叩かなかったらピアニストになっていたかもしれないブレイキーに、コンサートでピアノを弾きたがるマリガン、エヴァンスと勝負するブルックマイヤー、どっちが本職がわからないほどのテクニックを誇るヴィクター・フェルドマンにエディ・コスタ等、ピアノが上手いプレイヤーは多い。ただミンガスが凄いのはソロでアルバム全編弾いていることだ。よく歌うとか、スウィングする、というピアノではないが、下手ではないし、たどたどしさもない。

 憧れのエリントンに学んだところもにおわせるが、作曲の延長ともいえる独創的なスタイルなのだ。ヴァーノン・デュークが作曲した名品「I Can't Get Started」を取り上げているのだが、このトラックをブラインド・クイズで出されたらモンクか、いやランディ・ウエストン?それともマル、まさかサン・ラか。間違いなく悩む。それで邦題は答えが出ないため「言い出しかねて」となる。
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