デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

猫変、いや豹変するキャット・アンダーソンの秘密

2024-05-19 08:22:43 | Weblog
 ジャズ誌「Jaz.in」に大久保管楽器店・店長水本真聡さんが、「愛器からみる管豪たちのジャズ外伝」を連載している。ホーンのスペシャリストの分析は興味深い。演奏する人はメーカーやモデルが気になるだろうし、手にしないジャズファンは繰り返しかけたレコードの聴き方が変わるかもしれない。視点を変えると今まで気づかなかった一音にハッとする。

 Vol.006号でキャット・アンダーソンが登場した。あのハイノートを分析しようというわけだ。ハイノート・ヒッターというとJATPで「鉄の肺を持つ男」と呼ばれたアル・キリアンや、スタン・ケントン楽団で活躍したバド・ブリスボイス、目立ちたい一心でそれだけが売り物のビッグバンドを結成したメイナード・ファーガソンの名手がいるが、なかでもキャットはずば抜けている。エリントン楽団でクラーク・テリーやレイ・ナンスと並んでアンサンブルの時は目立たないが、ひとたびステージの中央でソロを取ると天に抜ける高い音で聴衆を沸かす。猫をかぶっていたのだろうか。

 「Ellingtonia」はタイトル通り楽団メンバーとのセッションだ。録音した59年当時の仲間と、かつてツアーを共にした旧友たちとの再会である。何度か抜けたことはあるものの、そのトランペッター人生のほとんどをエリントン楽団で過ごしただけあり交友は広い。リーダー作となればエリントンがその自伝で「アクロバットのスーパー名人」と評したトリプル・ハイCで大暴れしているかと思いきや、中低音域でバラード中心だ。絶妙のソロ回しと歌心あふれるフレーズにうっとりする。じっくり俺のプレイを聴いてくれと言わんばかりだ。このアルバムでは借りてきた猫のようにおとなしい。

 キャットの愛器はC.G.Conn社製の「38B Connstellation」だという。これを持てばハイノートが吹けるものと多くを勘違いさせたそうだ。やはりあの高音で変幻自在のアドリブができるのはマウスピースにあった。自身の体型や唇の厚さ、肺活量から何度も試行錯誤のすえ完成させた特注である。楽器を使わないときは秘密を守るためマウスピースにハンカチがかけてあったという。
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"Tootie"の愛称が似合うアルバート・ヒース

2024-05-05 08:28:56 | Weblog
 先週話題にしたマル・ウォルドロンが参加したアルバムにコルトレーンの初リーダー作「COLTRANE」がある。インパルスにも同タイトルがあることから70年代のジャズ喫茶では混乱を防ぐため「コルトレーンの7105」とレコード番号で呼んでいたレコードだ。因みにインパルス盤は、「インパのコルトレーン」とか「マイルス・モードのトレーン」などとリクエストされた。

 そのプレスティッジ盤が初録音だったのは、4月3日に亡くなったアルバート・ヒースだ。録音した1957年というと長兄のパーシーはMJQのメンバーで、ジミーは53年にマイルスと録音後、麻薬で逮捕され刑務所にいた。故郷フィラデルフィアで一緒に練習したジミーを慮り、頭角を現してきた弟を起用したのだろう。当時22歳。派手なドラムソロこそないが、正確なリズムを刻んでいるし、要所要所で控え目ながらフィルインを入れる余裕ぶりだ。トップの「Bakai」はヒースのイントロから始まりフロントを引っ張る気迫がある。

 その後の活躍は目を見張るばかりだ。ブレイキーやローチ、エルヴィンはフロントを刺激して引っ張っていくタイプだが、ヒースは後ろからそっと背中を押す感じでホーン奏者やピアニストを支える。自分のスタイルと役割をよく知っている。「Live at Smalls」は2009年にイーサン・アイバーソンとベン・ストリートと組んだアルバムだ。この時74歳。いい顔をしているではないか。キャリアを積むと若手を育てる立場になるが、ここでもスタイルは変わらない。毎日のようにレコーディングしていた60年代と違うのはドラムソロが増えたことだろうか。

 愛称の"Tootie"は子どもの頃トゥッティ・フルッティ・アイスクリームが大好きだったので母方の祖父が付けたのだという。そのアイスクリームのようにメリハリのあるカラフルなドラムだ。レコード棚からランダムに10枚選ぶと1枚は「Albert "Tootie" Heath(ds)」のクレジットがある。天国でヒース・ブラザーズのセッションが始まった。享年88歳。合掌。
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