デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ダルビッシュはテキサスへ、ジャズ・クルセイダーズは西海岸へ

2012-01-29 07:31:29 | Weblog
 先週24日にテキサス・レンジャーズへの移籍が決まったダルビッシュ有投手の記者会見が、日本ハムの本拠地である札幌ドームで開かれた。1万人を超えるファンの前で大リーグ移籍の理由を初めて明かした顔にはうっすらと涙が滲んでいる。ファンの熱い声援と、7年間の力投を思い出したのだろう。行ってらっしゃい、と送り出すファンの目も涙でかすむ。世界一の投手になることを誓った言葉はそのピッチングのように頼もしい。

 テキサスといえばライトニン・ホプキンスをはじめT・ボーン・ウォーカー、キング・カーティス等、ブルース畑の傑出したミュージシャンを輩出している。ブルースが南部という地域性に根ざしていることもありテキサス出身のジャズプレイヤーもブルース色が強い。なかでもハイスクールで同級生だったウェイン・ヘンダーソンを中心にウィルトン・フェルダーやジョー・サンプルと組んだジャズ・クルセイダーズは、フュージョンはおろかクロスオーバーというジャンルすらなかった60年代初頭からブルースを基盤にジャズという概念を越えた音楽を目指していた。後にフュージョン界を牽引するラリー・カールトンも参加したこのバンドこそがフュージョンの土台だといっていい。

 このブルース色の強さとジャズのカテゴリーを越えたフリーダム・サウンドが、正統派のジャズファンにそっぽを向かれることになるが、個々のプレイヤーの実力は高く評価すべきで、特にウェイン・ヘンダーソンはJ・J・ジョンソンの後継者と目されていた時期もあるほどで、そのトロンボーンのテクニックは卓越している。またウィルトン・フェルダーの書く曲はファンキーそのもので、自らのテキサステナーと相俟ってジャズ独特のうねりを醸し出し、さらにジョー・サンプルもシンプルながらこれぞファンクというフレーズを刻む。さすがにジャズの冠が抜けたクルセイダーズ時代になると食傷気味だが、デビュー当時の作品は一聴に値する。

 ジャズ・クルセイダーズは活動の拠点を西海岸に移すことでテキサスの一バンドからフュージョン旋風の核たる存在になったように、ダルビッシュ有も立つマウンドをメジャーに移すことで更に成長し、大リーグの核といえる存在になるだろう。大リーガーを三振で斬る活躍を期待したい。そしていつか日本に戻るときはまた札幌ドームのマウンドに立ってほしい。絶対エースの背番号「11」は君のためにとってある。
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素敵なニッキ・パロット

2012-01-22 08:01:50 | Weblog
 オリコン年間シングルランキングによると、AKB48が昨年発売したシングル5作すべてがミリオンを突破したという。CDが売れない時代といわれて久しいがアイドルは別ということだろうか。5曲で500万枚だが、一曲で500万枚売ったとされるのが日本で一番売れたシングル盤「およげ!たいやきくん」である。下世話な話だが、印税はいくらになるのだろうと調べてみると、これが何と歌った子門真人さんには買い取り契約だったため、売上げに応じた歌唱印税は支払われなかったそうだ。

 そういえばアメリカにも似たような話があった。それは「Bei Mir Bist Du Schon」で、「素敵なあなた」の邦題で知られている曲だ。作者のショロム・セクンダは、サミー・カーンに著作権を30ドルで売ったという。黒人たちがこの歌を口ずさんでいるのを耳にしたカーンは、ヒットを予感したのだろう。元はイディッシュ語で書かれた曲だが、カーンが英語の歌詞を作り、それを歌ったアンドリュー・シスターズのレコードは250万枚売れ、一箇月遅れで発売されたベル・ベイカーもヒットしている。その後もベニー・グッドマンやエラ・フィッツジェラルドがレパートリーにした人気曲であり、なかなか商売上手なカーンだ。 

 スウィングジャズの名残を思わせるせいか最近ではあまり歌われない曲だが、ニッキ・パロットがデビュー・アルバム「ムーン・リバー」に次ぐ「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」で取り上げている。女性ジャズ・ベーシストは珍しくないが、ウッドベースを弾きながら歌うスタイルは過去に記憶がない。これが美女ということもありベースを抱く姿はそれだけで絵になり、この曲の後半でスラム・スチュワートのようにハミングするあたりはゾクッとする色気を放つ。ベースの低音と甘い声が一体となったスタンダード集は、曲が書かれた時代を忘れるほど新鮮に感じるし、改めてスタンダードの魅力も発見できる好作品である。

 何故、セクンダはカーンに著作権を売ったのだろう?当時は版権を知らないプレイヤーもいたが、セクンダはジュリアード音学院で学んだので知らないわけはない、況して作曲家である。では経済的に困っていたのだろうか。ユダヤ移民だが、オペレッタの成功でそれも考えられない。カーンもユダヤ系であることからそこに何かが・・・要らぬ詮索はよそう。たとえ印税が入らなくても作者として永遠にクレジットされるのだから。
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ハーレム・ノクターンの帯を解く

2012-01-15 08:09:21 | Weblog
 昨年暮れに、azumino さんが長野から出張で札幌に来られたとき中古レコード店で待ち合わせた。ジャズとレコードを愛する友と寸評を交わしながらのエサ箱漁りは楽しい。目ぼしいものをチェックするうち付けられた値に顔を見合わせたレコードがあった。どこに根拠があるのかと疑いたくなるミステリアスな値段をときおり見かけるが、店主のこだわりや思い入れが反映された値なので文句の付けようもない。

 それはイリノイ・ジャケーの「スウィングズ・ザ・シング」で、ヴァーヴのトランペッターラベルのオリジナル盤ならまだしも国内盤である。同じシリーズの再発盤と比べて高いのはどうやら「帯」が付いているからだろうか。海外のオークション・リストをたまに見るが、「with Obi」という注釈が加えられるほど帯付きは人気のようだ。帯はともかくとして、今では聴くことのないテキサス・テナーの派手なブロウといい、そのブロウの様子を巧みに写したジャケットといい、人気盤であることに変わりはない。ジャケーがJATPでフィリップ・フィリップスと演じたテナー・バトルは聴衆を煽り、興行的にも成功したジャズコンサートとして今では伝説になっている。

 付け加えこのアルバムが人気なのは「ハーレム・ノクターン」だろう。日本ではサム・テイラーで有名な曲で、妖しげなメロディはいつのまにかストリップ劇場の御用達になったが、元は作者のアール・ヘイゲンがエリントンのスタイルに影響を受けてハーレムの情景を描いた楽曲なのである。本国ではジョージ・オールドやハービー・フィールズの十八番なのでスウィングジャズの重要なレパートリーだといっていい。兎もすれば情感たっぷりに演奏したくなる曲だろうが、甘さを抑え力強く訴えるジャケーはバラードでも際立った美しさを表現できるテナーマンで、一部の識者から酷評された荒っぽいブロウ派という括りで聴くには惜しい。

 札幌の薄野近辺は昔と大きく街並みが変わったが、中古レコード店から数分の所にかつてストリップ劇場があり、高校生のとき友人数名と連れ立ってハーレムの木戸をくぐったことがある。JATPのコンサートほどではないが、スポットライトを浴びたステージに踊り子が登場すると薄暗い場内から大きな拍手が沸き、酔客が興奮していた。「ハーレム・ノクターン」に合わせて「帯」を解く姿は純情な高校生には刺激が強かった。
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ポール・モチアンは餡入り餅が好きだった

2012-01-08 07:56:21 | Weblog
 正月に皆さんはどんな雑煮を召し上がったのだろう。醤油や味噌仕立ての汁、豆腐や鶏肉の具材、器を彩る小松菜やほうれん草の青味に蒲鉾や人参の赤味等、地方、家庭により異なるのが雑煮で、主役の餅も焼いて香ばしさを付けたり、生のまま汁に入れて煮る違いもある。形は四角や丸の違いはあれどほとんどは切り餅だが、なかには餡入りの餅を入れるのが習慣という地もあるという。

 その餡入り餅が好きだったのは、昨年11月22日に亡くなったポール・モチアンだ。本当か?と、あることないことを書いている拙稿だけに99パーセントの方は疑りの眼差しで見るかもしれないが、「Motian」はモーシャンと表記するのが正しいのに餡入り餅の嗜好からモチアンとされたともいわれる。さて、モチアンを最初に聴いたのは?と問われると99パーセントの方はビル・エヴァンスと答えるだろう。そう、見合い写真のようなジャケットの「ポートレイト・イン・ジャズ」で・・・エヴァンス、スコット・ラファロ、そしてモチアンの三者一体となったトリオはリリシズムの極致でありピアノトリオの芸術といえる。

 後にはキース・ジャレットやポール・ブレイとの共演でも知られるモチアンは、自己のグループでもECMに多くの作品を残していて、曲はほとんどが自身の作だ。なかでも「Conception Vessel」は、これがドラマーの自作曲か?と思わせるほど幻想的であり、なるほどドラマーのリーダー作だ!と納得するほど楽器編成を変えることで変幻自在なドラミングを繰り広げている。メンバーが誰であろうと曲が何であろうと、モチアンが入れるスネアやシンバルのタイミングは絶妙で、以前、チャーリー・パーシップでも触れたが、ドラマーの資質はタイミングなのである。その一音で名演になるといっていい。

 追悼記事なのに餅を引き合いに出すとは不謹慎だと叱れそうだが、餅つきを思い出してみよう。杵がスティックなら臼はドラムである。餅つきの経験がある方ならご存知だろうが、粘りのある餅をつくには杵の強弱の加減が難しい。強くては味ばかりか臼も壊してしまうし、弱ければ粘りのない砕け餅になる。スティックの僅かな加減がそれを歴史に残る名演に変えてしまう。名人がついた餅はどんな雑煮に入れてもうまい。
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朝日のようにさわやかな元旦

2012-01-01 07:51:33 | Weblog
 皆様、あけましておめでとうございます。徒然なるままに書き出したブログも早いもので7年目に入りました。3年とも5年とも言われるブログの区切りですが、こうして続けられたのは多くの方にご訪問いただいたことと、何よりも一家言あるジャズ観に基づいたコメントを多数寄せられたからです。こだわりのある聴き方や嗜好はジャズならではの多様性を物語っておりますし、ジャズの楽しさ、奥深さを改めてかみしめております。

 元旦のアップは初めてのせいか、いつもの年より新鮮さがあります。元旦といえば早々と初詣に出かけ御来光を拝んだ方もおられでしょう。拙稿をご覧いただいている多くのジャズファンは不摂生が建前と本音ですので、小生同様グラス片手に除夜の鐘も聞こえない音量でお気に入りのアルバムを聴き続け、まだ心地良いジャズの余韻と心がほぐれるアルコールが抜け切れないのかもしれません。そんな元旦の朝は窓を大きく開けてひんやりとした今年の新しい空気を吸い込んでみましょう。そして朝日の輝きに身を委ねてみましょう。音が聴こえてきませんか。そう、あの爽やかなメロディが・・・

 「朝日のようにさわやかに」です。この曲の2大ピアノ名演といえば、57年録音のソニー・クラークと、59年のウィントン・ケリーがあります。片やブルーノート、そしてリバーサイド、ともにジャズを代表するレーベルです。メンバーは前者がポール・チェンバースとフィリー・ジョー・ジョーンズ、後者は同じくチェンバースとジミー・コブ。両ピアニストとも本国での評価は違いがありますが、日本では絶大な人気を誇ります。メロディのアプローチといい、アドリブのスリルといい、バックの絶妙なサポートといい、これほど鎬を削る名演は類を見ません。ともに6分半ほどの演奏ですがジャズのエッセンスが全て詰まっています。

 そんなジャズの魅力を今年も毎週紹介しますので昨年同様ご覧いただければ幸いです。ジャズ史に残る名盤から忘れられようとされている名演、過小評価のままに生涯を終えた秀逸なプレイヤーまで幅広く話題にしていきます。ベスト企画を中心にコメント欄を盛り上げていきますが、ジャズに関するご質問、ご感想もお待ちしておりますので、まだコメントをされていない方も是非ご参加ください。今年もよろしくお願いします。
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