デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ブログ一時休止のお知らせ~Love You Madly

2009-12-27 08:28:33 | Weblog
 早いもので本年の最終稿を迎えました。タイトルで驚かれたと思いますが、来春引越しますので、この記事を以って一時休止します。直前までアップも考えましたが、数千枚のレコードとCDを整理する準備に入りますので、已む無き決断をしました。コメント欄で展開するベスト企画にお寄せいただくアルバムは再聴しなければ率直な感想を述べられませんし、資料がなければ正確なテクニカルデータにもお答えできません。

 私ことながら長らく暮らした道東の北見市を離れ、仕事の都合で札幌市に居住を移すことになりました。想えばジャズに出会ったのは中学生のころです。爾来、ジャズという魅力的な音楽を知ったことで、この地で多くのジャズを愛する人たちやジャズ・ミュージシャンに巡り会え、またブログを通して聴いていない分野を学び、あらゆるジャズの愉しみ方に触れることができました。ジャズに限らず音楽はときに価値観、人生観までをも左右する大きなエネルギーを持っているものですが、1枚のアルバムが楽しさを倍化させ、悲しいときや辛いときは癒され励まされました。

 この4年間、毎週日曜日に欠かさず更新できたのは、そのジャズが持つ大きな力によるものですし、そして何よりも毎週ご覧いただいている多くのジャズファンと、コメントをお寄せくださる皆様に支えられていたからです。ジャズを愛することは人後に落ちませんが、ひとくちにジャズといっても幅が広く、一生聴いても聴ききれない多くのアルバムがあります。コメント欄でご紹介される見たことも聴いたこともないアルバムに目を見張り、ジャズの捉え方、プレイヤーの好み、アルバムの評価の違いから多くのものを学びました。嗜好に違いはありますが、ジャズを愛することは同じですし、そのような素敵な人たちに会えたのはジャズのおかげです。

 ブログ再開は新地で落ち着いてからの夏以降になるでしょうが、また皆様にお会いできる日を楽しみにしております。この4年間、拙い文章にお付き合いいただいた皆様と、一度はお会いしたいコメントをお寄せいただいた皆様、本当にありがとうございました。

九拝
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ジョニー・ホッジスとアール・ハインズの談笑

2009-12-20 07:42:47 | Weblog
 細いトーンのクラリネットで知られるルディ・ジャクソンがエリントン・バンドを辞めたあと、フレッチャー・ヘンダーソン楽団の息の長いフレージングで人気を集めているバスター・ベイリーと、チェック・ウェッブ楽団やラッキー・ロバーツ楽団で澄み切ったアルトを吹くジョニー・ホッジスのどちらを入れようかとエリントニアンが相談する。28年当時最高のクラリネット奏者だったベイリーを推す声が強かったが、バーニー・ビガードがホッジスを入れるべきだと主張した。

 51年から55年まで自分のバンドを持った時期を除いて、その死に至るまでの40年間、エリントニアンとして音楽人生を送ったホッジスのスタートである。エリントン・バンドの重要なスター・プレイヤーであるとともに、ベニー・カーター、ウイリー・スミスと並ぶスウィング時代の3大アルト奏者であり、音色の美しさでは彼の右に出る奏者はいないだろう。美しい音色のアルトはいくらでもいるだろうが、ただ美しいだけではない。ヴィブラートは細かく、そして深みがあり、そのうえメランコリックなのだ。短いフレーズで端的にまとめ、歌う術の全てを内包した稀代のアルトはチャーリー・パーカーも崇拝したほどだ。

 ヴァーブに小編成のアルバムが多数あり、なかでもアール・ハインズと共演した「ストライド・ライト」は、キャリアもスタイルも違う両者の匠を聴けるアルバムである。いかにもノーマン・グランツが好きそうな大物同士の顔合わせセッションだが、ふたりに距離感はなく、アドリブ交換も息が合い、互いのプレイを尊重しながら熱く音を重ね、ケニー・バレルやリチャード・デイヴィスのサイド陣もその輪に溶け込む。おそらくコートに身を包んだジャケット写真は、セッション前のふたりであろう。にこやかな表情からは既に完成度の高い作品を予感させる。匠とは会った瞬間に笑みがこぼれ、セッションでは和を崩さず、それでいて自己主張をも忘れない人をいう。

 エリントンは回想している。「ホッジスはわたしの知るかぎり、温まっていないサックスでチューニングしないでちゃんとした音を吹ける唯一の男だ。一日中チューニングしても、ちゃんとした音で吹けないミュージシャンのことをたくさん聞いているのだ」と。ビガードがホッジスを強く推薦したのは、常に水準以上のオーケストラ・サウンドが求められるエリントン・バンドにとってこのチューニングひとつが如何に重要なことなのかを知っていたからであろう。
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フレンチ・ホルンでアイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユーを聴いてみよう

2009-12-13 07:52:19 | Weblog
 12月に入ると宴会が続き、若い頃のように最終まで毎度付きあえぬが、先日流れで二次会に場所を移すと先客のグループに知人がいた。挨拶もそこそこにやおら手帳を取り出すと、リー・モーガンの 「アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー」を聴きたいのですが、と訊かれた。今しがた流行りのJポップをカラオケで歌っていた20代の女性で、ましてジャズが好きだとは聞いたことがないので怪訝そうな顔をすると、山田正紀の小説に出てくるので気になっていたという。

 モーガンが22歳の誕生日前に録音した曲で、18歳でデビューした天才ならではのやや荒削りとはいえ歌心あふれる演奏を思い出す。生憎その作家の「イノセンス」という作品は読んだことがないので、モーガンのこの曲が小説のなかでどのような存在感を持つのか興味がそそられるが、おそらく数ある名演からモーガンを選んだのはあの物悲しいトランペットの音色に魅せられたのかもしれない。シナトラが作者のひとりとしてクレジットされている曲で、シナトラの名唱やビリー・ホリデイの絶唱で知られるバラードだが、テーマ部の高低ある彩りがアドリブパートで無限の発展をみせるせいかインストも多い曲だ。

 フレンチ・ホルンの第一人者として知られるジュリアス・ワトキンスも、「French Horns For My Lady」でストリングスをバックに名曲に挑んでいる。チャーリー・ラウズと組んだジャズ・モードが話題を呼んだくらいで、楽器の特異性もあり目立たない存在だが、ホルン特有のしなやかな音色はバラードで際立った香りを放つ。他にジャズホルニストがいないので比べることができないが、ミンガスのブラス・アンサンブルに白羽の矢が立つだけテクニックも完璧ということだろう。レイ・ドレッパーのチューバ同様、ワトキンスのフレンチ・ホルンも花形楽器では味わえないジャズの面白さを発見できる。

 その曲は「ヒアズ・リー・モーガン」というアルバムに入っていて、モーガンが丁度貴女の年齢のころの作品ですよ。持っているのでお貸ししましょうか、と答えたが、念のためレコードプレイヤーはお持ちですかと訊いた。今度は逆に怪訝そうな顔で、レコードですか・・・と困った様子。どうやら平成生まれの世代はレコードプレイヤーはおろか、レコードすら見たことがないらしい。
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レスター・ヤングが愛用したポークパイハット

2009-12-06 08:18:12 | Weblog
 「裁くのは俺だ」でデビューしたミッキー・スピレインは、バイオレンスとエロティシズムの扇情的な描写で知られる作家だ。この小説で登場した私立探偵マイク・ハマーは、その後シリーズ化され軒並みベストセラーを記録するが、文壇からは通俗ハードボイルドとして冷たい目で見られ批判が多かったという。主人公ハマーは、その後の他の作家に登場する私立探偵の定番ファッションで、トレンチコートとポークパイハットという出で立ちだ。

 ジャズ界にもポークパイハットを愛用するプレイヤーは多くいるが、なかでもレスター・ヤングほど似合う人はいない。今でこそレスターのテナースタイルは評価されジャズ史のうえでも重要な存在なのだが、デビュー当時はコールマン・ホーキンスのように豪快に吹くことが最上とされており、全く正反対のソフトで優しい演奏スタイルは受け入れられなかった。スピレイン同様、いつの時代も従来の作法から外れた革新的なものは簡単に理解されるものではないが、それが小説であれジャズであれ作品として優れているなら、早い将来に旧態依然とした批評眼を覆すことになる。

 「Lester Young Memorial」と題されたアルバムは、「The Master's Touch」のタイトルで出ているもので、サヴォイに44年から49年までに録音したなかから選りすぐりの演奏を集めたものだ。キーノートやコモドアへの録音に前後した時期で、感性あふれたフレージングが泉の如く湧いてくる絶頂期を余すところなくとらえている。「クレージー・オーヴァー・ジャズ」や「サルート・トゥ・ファッツ」は数テイク収められていて、テイク毎のアプローチの違いはアイデアの豊かさを証明したものであり、上昇フレーズが予想されるところで下降フレーズが現れる意外性はのちのモダン期のアドリブ展開に大きな影響を及ぼすことになる。そしてメロディアスなことはどのテイクも変わらない。

 椅子にそっと置かれた楽器ケースからは、テナー奏者のみならず他楽器のジャズ・プレイヤーをも触発した型にはまらないフレーズと、特有の抑揚があるメロディが静かに聴こえてくるだろう。そして、愛用のポークパイハットは、そのスタイルに追随する多くのプレイヤーを優しく包み込んでいるようだ。チャーリー・ミンガスが「プレス」と呼ばれた人に捧げた曲は、「Goodbye Pork Pie Hat」である。
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