デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

オスカー・ペティフォードは意地悪だったか

2012-08-26 08:11:34 | Weblog
 キャノンボールがカフェボヘミアで飛び入りした話はジャズ伝説として語られている。当時そのクラブの音楽監督だったオスカー・ぺティフォードが、素人を相手に意地悪とも思えるほどの超スピードで「アイル・リメンバー・エイプリル」を弾いたからだ。初めて上がった名門ジャズクラブのステージでそのスピードに負けなかったキャノンボールも見上げたものだが、この話から察するとぺティフォードは意地悪おじさんに見えるが、さて。

 この名手、なかなかの曲者で、「ブリリアント・コーナーズ」のレコーディングでは親分のモンクと口論になり、途中でクビになっている。タイトル曲は不協和音を多用したイントロで有名だが、まだ不協和音があり、「ミュージング・オブ・マイルス」ではリズムをずらしたり音をはずしているのだ。これはこれで緊張感があるのだが、この不協和音もメンバーとの確執によるものといわれている。武勇伝に事欠かないが、43年のコールマン・ホーキンスとの「ザ・マン・アイ・ラヴ」からモダン期に至るまで常に斬新なアイデアとスタイルでモダン・ベース奏法を確立した人で、以降のベーシストは皆手本にしたほどだ。

 写真は代表作のイン・ハイファイで、豪華メンバーによるオーケストラを鼓舞するバッキングと、歌心あふれるアドリブを満喫できるし、ジミー・ブラントン以来の天才と呼ばれた縦横無尽のテクニックを楽しめる。一瞬ホーンと間違うほど豊かな音色は、ベースが持つリズム楽器以上の特性を引き出したといえよう。このアルバムは2枚に分かれているが、おどけたジャケットのVol.1よりこちらのVol.2のほうがセッションの豪華さが一目でわかるし、正面にいるぺティフォードの性格が見えるような気がする。何かを企んでいる策士のようにも映れば、人の良い優しいおじさんにも見えるが、いかがだろう。

 ペティフォードは後に、「私が彼を怖がらせるようなことをして試したとされる、広く流布している逸話を断固として否定する」と言っている。そしてキャノンボールは、リーダーとして、飛び入りした若者がどのような腕前かを知るのは当然だ、と謙虚に振り返っていた。ペティフォードの弁は本当だろう。通常よりも少しテンポが速いだけでも噂はいつの間にか超高速テンポなるものだ。真相はどうであれ二人の出会いは永久にジャズ史に刻まれる。
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オルガン・ジャズの女王・シャーリー・スコット

2012-08-19 07:07:11 | Weblog
 1950年代後半にジミー・スミスはベース・ノートをフット・ペダルで弾くという斬新な奏法で現在のオルガン・ジャズのスタイルを築いた。それまでピアノの代用として扱われていたオルガンを即興演奏が可能なジャズの楽器であることを証明した功績は大きい。以降多くのオルガン奏者が登場している。ジミー・マクグリフ、ジョン・パットン、ベビーフェイス・ウィレット、ジャック・マクダフ、チャールス・アーランド・・・

 そしてシャーリー・スコット。インパルスに「Queen of the Organ」というアルバムもあるオルガン・ジャズの女王と呼ばれた人だ。日本では知名度も人気もないオルガニストだが、本国では相当人気があったらしくリーダーアルバムは50枚を数える。夫君のスタンリー・タレンタインと組んだアルバムも数多くあるが、内容的には似たり寄ったりで、あるジャズ喫茶でジャケットと違うレコードをかけても誰も気付かなかったという話もあるくらいだ。ではどれを聴いても同じか、というとそうでもない。数あるスコットのアルバムでも「オン・ア・クリア・デイ」は女性らしい繊細なオルガンサウンドを楽しめる。

 オルガン奏者はフットペダルでベースラインを刻むので通常ベーシストはいないが、スコットはこのフットペダルが苦手だっためほとんどのアルバムはベースとドラムが入ったピアノトリオに準じた編成で、ここがスミスや他の奏者と大きく違うところだ。その分キーボードに集中できるため音は肌理細やかで、音色は違えどまるでピアノを弾いているかのような鍵盤の強弱まで伝わってくる。オルガン・ジャズというとコテコテのファンキーか、ブルージーな演奏が定番だが、ロン・カーターとジミー・コブの参加もあり、よりピアノ・トリオに近い都会的で洗練されたオルガン・トリオは新鮮に聴こえるだろう。

 オルガン奏者はほとんどがピアノから転向した人で、スミスも元はバド・パウエルにも師事していたことがあるバップ・ピアニストだった。多くのピアニストが鎬を削っていたときに出会ったのがオルガンである。もしスミスがピアニストの道を選んでいたなら違う成功があったかもしれないが、今のオルガン・ジャズのスタイルは確立されていなかっただろう。ピアノに比べると軽い鍵盤に晴れた未来が見えたのかもしれない。
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皆んなベンチャーズに憧れた

2012-08-12 04:35:23 | Weblog
 幕が上がるか上がらないうちから大きな拍手が沸き、その拍手に負けないエレキが響いた。オープニングはいつものように「ウォーク・ドント・ラン」で、オリジナル・メンバーはドン・ウィルソンだけになってしまったが、8日の札幌公演も音はレコードと同じである。このテケテケサウンドに憧れたエレキ少年は多く、今でもご当地ベンチャーズに情熱を燃やす人もいるし、これがきっかけでギターを手にし、プロのギタリストになった人もいるくらいだ。

 毎年日本でツアーを開いているせいか人気は日本だけのようにみえるが、本国アメリカにもベンチャーズに憧れ、プロのミュージシャンになった人もいる。デオダートの「ツァラトゥストラはかく語りき」で切り裂くようなギター・カッティングをみせたジョン・トロペイ、ジョン・レノンやポール・マッカートニーの作品に参加したデヴィッド・スピノザ、多くのセッションに引っ張りだこのベーシスト、ウィル・リー、そして正確さでは右に出るドラマーがいないといわれるスティーブ・ガッドだ。この4人がベンチャーズのヒット曲をカヴァーしている。その名もハイパー・ベンチャーズ。最強のテケテケサウンドということだろうか。

 さて、その内容は?ノーキー・エドワーズのチョーキングや、ドン・ウィルソンのピックを45度に傾けたグリッサンド奏法等、エレキ少年が必死で練習したテクニックを誇るベンチャーズだが、おそらくはそれを上回るテクニックを持っている4人である。となると身に着けただけのテクを駆使した完全なエレキ演奏を想像させるが、何とコピーに徹しているのだ。これがいい。ベンチャーズ以上のテクで弾きたくなるところをエレキを覚えたての少年に戻っての演奏である。最後に一曲だけ「ウォーク・ドント・ラン’92」のタイトルで、ベンチャーズのコピーバンドではなくハイパー・ベンチャーズとしての演奏をしているが、さすがに巧い。

 毎年、多くのファンが夏になるとやってくるベンチャーズを楽しみにしている。小生もその一人でジャズのライブと重なってもこちらを優先するくらいだし、「ポピュラー・エリントン」に収められている曲を全曲言えなくても、ベンチャーズの「ノック・ミー・アウト」は収録順まで覚えているほどだ。今でこそジャズファンを自認する小生だが、ジャズを聴くきっかけはベンチャーズだった。そして今でも一番好きなバンドは?と訊かれるとベンチャーズと答える。
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歌うウディ・ハーマン

2012-08-05 07:43:52 | Weblog
 先週の「Gershwin for Lovers」に続き、フォー・ラヴァーズ・シリーズ第2弾は、「Song for Hip Lovers」を選んでみた。このヒップは、ウディ・ハーマンのいやらしい視線の先にあるお尻ではなく、ノーマン・メイラーがよく使っていたスクウェアに対するヒップである。世間の常識や時代の枠にとらわれないライフスタイルをさす俗語で、ヒッピーという言葉もここから生まれた。ヒップ・ラヴァーズは今なら翔んだカップルということだろうか。

 さて、ハーマンは何故こんなに満足そうな顔をしているのか?無防備に寛ぐ女性を見ているとつい顔も綻ぶが、それ以上に嬉しいのは歌手に専念したアルバムを作ったからである。30年代から活躍したハーマンのバンドはスタン・ゲッツやズート・シムズなど一流ミュージシャンを多数輩出したばかりでなく、多くのスウィング・バンドがジャズの流れの変化に対応できず経営難に陥ったなか、エレキサウンドを取り入れたり、フュージョンに挑戦したりと、常に前進してきた。これだけビッグバンドを長く維持したハーマンの功績を称えるべくノーマン・グランツならずとも歌うのが好きなハーマンに心行くまで歌ってもらおうという気になる。

 甘いアルトサックスと哀愁漂うクラリネット奏者として一流のハーマンだが、47年に歌った「ブルース・イン・ザ・ナイト」が大ヒットしているし、バンド・シンガーのメアリー・アン・マッコールとデュエットすることもあり、シンガーとしてもビッグバンド・リーダーの裏芸という域を完全に超えたものだ。トップのバカ騒ぎの意味がある「メイキン・ウーピー」からご機嫌な歌いだしで、歌うことが楽しくてしようがない、という感じだ。注目すべきは自己のバンドをバックにしたものではなく、ハリー・エディソンやベン・ウエブスター、バーニー・ケッセルといった錚々たるメンバーがバックを務めていることである。気分はさぞ一流のジャズシンガーだろう。

 フォー・ラヴァーズといえばシナトラの「Songs For Young Lovers」、テディ・ウイルソンの「For Quiet Lovers」、ビリー・ホリデイの「Songs For Distingue Lovers」等、名盤が並ぶ。愛し合う恋人たちは皆同じ夢を見るのかとさえ思うほど素敵な曲が揃っている。次はどれにしようか。そういえばハーマンのヴォーカルアルバムに「Music For Tired Lovers」というのがあった。最後に草臥れたカップルが出てくるのでこのシリーズはやめておこう。
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