デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

オリン・キープニュースがいたからモダンジャズがある

2015-11-29 09:19:39 | Weblog
 今年93歳で亡くなった大物の一人にオリン・キープニュースがいる。恥ずかしながら疾うに川の向こうに渡ったと思っていた。ジャズを聴きだしたころから名前は度々目にするし、当時の写真からは相当年配に見えたので、自分の中では既に歴史上の人物化していたのだ。ブルーノート、プレスティッジと並ぶジャズ・レーベルの名門中の名門、リバーサイド・レコードの設立者であり、名プロデューサーでもある。

 プロフィールは他のサイトを参照していただくとして、リバーサイド最初の専属契約アーティストとしてキープニュースが選んだのは意外や意外、ランディ・ウェストンだ。恥をかいたついでにこれも知らない。てっきり多くの諸作を残し、12インチ盤カタログナンバー、トップRLP-201のモンクだと記憶していた。今でもウェストンは有名とは言えないが、53年当時はマサチューセッツの小さなクラブで料理番をしながらピアノを弾いていたという全くの無名だ。写真はお徳用CDだが、ランディの初録音は10インチ盤「Cole Porter In A Modern Mood」のタイトルで発売された。これがリバーサイド最初のモダンジャズのレコードだ。

 ポーターの作品集は無名のピアニストを売り出すには無難な企画といえるだろう。そもそもトラディショナル・ジャズを売りにしていたレーベルだけに、いきなりオリジナルを詰め込んだアルバムはセールが見込めないからだ。この選曲なら聴いてみようと手にした人はいるはずだ。問題は聴いての驚きである。あのモンクのような、と語られるようにタッチやフレーズ、間はそっくりだ。ランディを最初に聴いた人のほとんどが持つ印象である。なかでも「I've Got You Under My Skin」はシナトラを聴きなれた耳には同じ曲だと思えない解釈で、これが「Modern Mood」なスタイルでありキープニュースの路線を決定づけたともいえよう。

 リバーサイド・レコードは1964年に倒産した。プレイヤーの意見を尊重し、ビッグバンドやストリングスのアルバムを作った経費も一因と言われている。実質的な活動期間は僅か10年にすぎないが、圧倒的な質と量を誇る。「Brilliant Corners」、「Kelly Blue」、「Cannonball In San Francisco」、「Portrait in Jazz」、「Blue's Moods」、「Full House」・・・レコード棚からリバーサイドを抜いたらモダンジャズは成立しない。
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レイ・アンダーソンのボジョレーヌーヴォーを味わう

2015-11-22 09:24:23 | Weblog
 先週、19日にボジョレーヌーヴォーが解禁され、酒屋には色とりどりのラベルに身をくるんだボトルが並んだ。何処にその差があるのかと思うピンキリの価格で、CDなら廃盤と廉価盤ほどの開きがある。もっとも年代物のワインとなるとブルーノートのオリジナル盤を超える値なのでこれでも安いのかもしれない。ワイン党ではないが、この日くらいはお手頃の価格で新酒を味わってみようか。

 ワインネタなら「酒バラ」か「New Bottle Old Wine」と推理された方を裏切って新酒に因んで「Old Bottles-New Wine」を選んでみた。天才とか鬼才とか超バカテクと呼ばれるトロンボーン奏者のレイ・アンダーソンだ。レイを最初に聴いたのは70年代後半のアンソニー・ブラクストンとのセッションだったが、フリー・ジャズなのでテクニック云々は伝わってこないし、このスタイルによくあることで乱暴な言い方をするならラズウェル・ラッドやグレシャン・モンカー3世と見分けが付かない。その後、80年代に当時流行りのジャズ・ファンクに路線を変えたことで忘れかけていた。

 そんな頃聴いたのがこのENJA移籍第一弾だ。レーベルは変わっても例によってレイはフリーかファンクかと思いきや何とスタンダードを演っている。それもフリー奏者によくありがちなメロディーをズタズタに切り取るものではなく、崩さずに演奏しているではないか。基本的に歌物はどのようなスタイルであろうとメロディーを大切にというのが持論なので、それだけで好印象だ。圧巻は「In A Mellotone」で、太くて濁った厚みのある音からハイノートまで自在に操っている。ビッグバンド何人分にも匹敵する音をトロンボーン1本で表現できるのだから間違いなくバカテクである。

 さて、そのボジョレーヌーヴォーの味だが・・・やはり価格なりだった。選んだ銘柄が悪かったといえばそれまでだが、ワイン音痴の舌でもわかるほどざらつきがあるし、香りも深みがない。フランスの諺に「女とワインは、年をとる程味が出る」というのがある。確かにワインは寝かせるほど味わいを増すが、女性はどうだろう。「女房と畳は新しいほうがいい」という日本の諺がしっくりくる。
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Old Folks の決定的名演を語る

2015-11-15 09:13:17 | Weblog
 「この曲はミュート・コントロールが絶品のマイルスでしょう。今年1月に亡くなった中山康樹氏の言葉を借りるなら、ク~ッたまらん!」、「いや、ドーハムの柔らかくて優しい音に軍配が上がる。Old Folks と呼ばれるのは南北戦争を経験した昔気質の頑固な世代でね。その古き善きアメリカの空気感を出しているじゃないか」、「後半、倍テンポでそのままアドリブに突入するかと思いきやモブレーにバトンタッチだ。このスリリングな展開こそジャズの醍醐味だよ」

 「歌物はワンホーンで演奏してこそ魅力を最大限に引き出せるものさ。誰にも邪魔されず自分を表現できる。それにシンガーを盛り立てるようなフラナガンのバックアップが見事だ。ドーハムはトランぺッターというよりここでは詩人というシンガーだね」、「ピアノといえばこちらはケリーだ。マイルスのミュートは卵の殻の上を歩くようなと形容されるけれど、その殻が割れないように支えているのがケリーさ」。どうにもケリが付かないが、ともに名演だ。「A Cottage for Sale」や「ベッドで煙草を吸わないで」で知られるウィラード・ロビンソンが1938年に作った曲で、故郷を懐かしむようなしみじみとした味わいがある。

 ウェブスターやマクリーン、グリーン、それぞれの楽器で名演があるが、ピアノならジェリ・アレンを挙げたい。M-BASE派の才媛で、ピッツバーグ大学で博士号を取得した論文は、エリック・ドルフィーの研究というから驚く。1980年代半ばにデビューしたころは理論が優先するスタイルだったが、徐々に表現力を増してきた。1994年に録音されたこの「Twenty One」は、ロン・カーターにトニー・ウイリアムスという当時の重鎮といえるメンバーで、この意外性がアルバムを面白くしているし、スタイルや理論、新旧、経験の違いから生まれる緊張が聴きなれた曲を斬新なものにしている。スタンダードは新風を吹き込まれることで伝承されるのだ。

 1970年前後のジャズ喫茶全盛期には、大音量のなか店の片隅で先のような議論がよく交わされた。やれヨーロッパ・フリーはどうの、電化マイルスはどうのとリスナー間やジャズ誌上で熱い意見が飛び交ったものだ。残念ながら今のジャズは熱く語るほど革命的ではないし、ジャズはオシャレと言ってファッションで聴く今の世代から論争は持ち上がらないだろう。Old Folks とはあのジャズが熱かった時代に確固たるジャズ論を持っていた人たちかも知れない。
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ロバート・デ・ニーロはマイルスとビリーが好きと言った

2015-11-08 09:14:58 | Weblog
 ロバート・デ・ニーロが出演した映画は「タクシードライバー」や「ニューヨーク・ニューヨーク」等、70年代に公開された作品と、最近の「アメリカン・ハッスル」しか観ていないのでファンとは言えないが、新作が上映されると気になる。先日封切られた「マイ・インターン」も監督はナンシー・マイヤーズと聞いてストーリーも察しが付くが、ポスターの好々爺然とした笑顔に惹かれ映画館に足を運んだ。ヒロインのアン・ハサウェイが人気なのか、若い世代で客席は埋まっている。

 人生経験豊富なデ・ニーロが、ハサウェイ扮するアパレル会社の若い経営者にアドバイスを与えながら友情を育む内容だ。劇中、フェイスブックの登録をするシーンがあり、ハサウェイが「好きな音楽は?」とデ・ニーロに訊く。「サム・クック、マイルス・デイビス、ビリー・ホリデイ」と答える。脚本も手掛けた監督か、デ・ニーロの好みかはわからないが、思わずニヤリだ。スタン・ゲッツの「The Girl From Ipanema」やベニー・グッドマンの「Ain't Misbehavin'」も流れるが、このシーンでは「These Foolish Things」を選んでいる。サムも歌っているが、ここではビリーをフューチャーしたテディ・ウィルソン楽団のバージョンだ。選曲の妙とはこれか。

 1936年に作られたイギリス産のスタンダードで、グッドマン楽団をバックに歌ったヘレン・ウォードが同時期にアメリカでヒットさせている。♪口紅の付いた煙草の吸い殻、ロマンチックな所に行った時の航空券、隣のアパートから聴こえるピアノ・・・そんな些細なことがあなたを思い出させる、という未練がましい歌だが、センチメンタルなメロディーと相俟って心を打つ。アルバムタイトルになっている「Goody Goody」は、ウォードの大ヒット曲で、自分を振った男が別の女に捨てられたのを知って、ざまあみろ、よかった、よかった、というチョッピリ悪女の歌だ。この啖呵を切る歌唱が「These Foolish Things」をカラッと仕上げている。

 「俺たちに明日はない」や「イージー・ライダー」、「真夜中のカーボーイ」、そしてアメリカン・ニューシネマの最後期の「タクシードライバー」は若い頃リアルタイムで観ていることもあり随分と刺激を受けたものだ。「マイ・インターン」は黄金時代のハリウッド映画を思わせるハッピー・エンドだった。なんの違和感もなくこの類の映画を楽しめるのは演じるデ・ニーロも観客のこちらもそれなりに歳を取ったということだろうか。
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ヘビロテした木の葉の子守唄

2015-11-01 09:03:14 | Weblog
 先週話題にした「Don't Blame Me」を聴き比べるため「The Return of Howard Mcghee」を取り出した。聴くのは買ったときにヘビロテして以来のような気がする。何処で入手したのかは忘れたが、まだジャズの聴き始めのころだ。トランぺッターといえばマイルスとリー・モーガンとフレディ・ハバードしか知らない初心者が何故?後から知るデザイナーのバート・ゴールドブラットの秀逸なデザインに惹かれたのも確かだが・・・

 ジャケットの裏を見て迷わず買った理由を思い出した。裏となると参加しているサヒブ・シハブやデューク・ジョーダン、パーシー・ヒース、それともフィリー・ジョー・ジョーンズか?シハブ以外は名前を知っていたし聴いたこともあるが、そのプレイを追いかけるほどのファンではないし、未知のプレイヤーを聴いてみようかという熱心さも残念ながら持ち合わせていない。理由はただ一つ、「Lullaby Of The Leaves」が収録されていたからだ。タイトルを目にするだけであの哀愁を帯びたメロディーを口ずさんでいる。アーヴィング・バーリンが「ティンパンアレーの女王」と呼んだバーニス・ペトキアが、1932年に発表した曲だ。

 1955年に吹き込まれたこのアルバムはタイトル通りの復帰作で、ブランクはやはり麻薬禍による。かなり後にマギーのベストとされる時代は、ファッツ・ナヴァロと白熱したトランペット・バトルを演じた40年代後半だということを知った。自身の耳にもそれは正しい評価に聴こえるが、これはこれでマギーのいいプレイをとらえている。ジョーダンの何気ないイントロ、フィリー・ジョーのキレのあるブラシ、そしてマギーの力強い音と歌詞を味わいながら吹いているとしか思えない歌心、そのどれもが名演だ。僅か3分ちょっとの演奏だが、一時期でも立ち直ってトランペットを手にする喜びが伝わってくる。

 小生の世代なら原題よりも「木の葉の子守唄」といったほうがピーンとくるだろうか。マリガンの都会的なガンとくるバリトンもいい、礼儀正しいレイ・ナンスのモダンなヴァイオリンもしびれる、シムズ動物園で象がいななくブルックマイヤーのトロンボーンも迫力があるが、枯葉舞い散るこの季節に一番聴きたいのはベンチャーズだ。マギーのLP盤のA面4曲目と、ベンチャーズのEP盤のA面は擦り切れている。
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