デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

暮れにジェイムス・クレイを聴く

2017-12-31 09:11:06 | Weblog
 旬の話題を絡めながらジャズ雑感を綴ってきたデューク・アドリブ帖も本稿が今年の最終になりました。干支が一回りする12年目も毎週欠かさず更新できたのは、いつもご覧いただいている皆様のおかげです。恒例の何でもベスト3はスタンダードがほとんど出尽くしましたので、マイナーな選曲になりました。音源が少ないなか聴き比べてコメントをいただけるのは大変嬉しいですし、それが励みになっております。

 今年、皆様はどのようにジャズを楽しまれたでしょうか。毎月発売されるおびただしい新譜を隈なく聴かれた方、コンサートやライブに出かけた方、中古レコード店を巡り歩いた方、また楽器を演奏された人もいるでしょう。ジャズの愉しみ方は千差万別ですし、ジャズに接した年数や世代によって違うかも知れません。私はレコード棚の整理をしました。買ったとき一度聴いただけというレコードや、買ったことさえ忘れている埃をかぶったレコードを聴き直しました。数十年ぶりに聴くと驚くほど新鮮に響きましたし、当時とは全く違う印象がありました。ここがジャズの面白いところです。

 最後に取り出したのはジェイムス・クレイとデヴィッド・ファットヘッド・ニューマンのテナーバトルです。おそらくこのレコードをリーダー名で買う人は少ないでしょう。キャノンボール・アダレイ・プレゼンテーションとクレジットされているので、どんなメンバーだろう?とジャケット裏を見ると聴きたくなります。ウィントン・ケリーにサム・ジョーンズ、アート・テイラー。録音された1960年当時、ベストといえるリズムセクションです。バトルといってもデクスター・ゴードンとワーデル・グレイの激しいものではなく、アル・コーンとズート・シムズのような協調性のある演奏なので忙しい暮れに一息つくでしょう。

 「Sound of the Wide Open Spaces」というタイトルは限りなく広がるジャズの本質を突いているように思います。料理の仕方によって曲はいかようにも変わりますし、それがジャズの面白さでもあります。来年もそんなジャズの魅力を伝えていきますので、引き続きご愛読頂ければ幸いです。毎週お付き合いいただいた皆様、そしてコメントをお寄せいただいた皆様、今年一年本当にありがとうございました。

九拝
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クリスマスにおすすめの映画「Smoke」

2017-12-24 09:45:11 | Weblog
 クリスマスに観たい映画は?という話題がラジオから流れてきた。アメリカ映画協会が選ぶ感動の映画ベスト100でトップに輝いた不朽の名作「素晴らしき哉、人生!」をはじめ、何度もリメイクされた「三十四丁目の奇蹟」、ジェームズ・ボンドが罠を仕掛けるヒントにしたと言われる「ホームアローン」、デヴィッド・ボウイに坂本龍一、ビートたけしという異色のキャストで話題を呼んだ「戦場のメリークリスマス」・・・

 続々と挙がったなかに抜けていたのがあった。1995年に公開された「Smoke」だ。地味な作品ということだろうか。ポール・オースターの「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」が原作で、監督は「女が眠る時」で日本映画のメガホンをとった香港出身のウェイン・ワン、主演は「タクシー・ドライバー」でポン引き役がはまっていたハーヴェイ・カイテルと、「蜘蛛女のキス」でアカデミー主演男優賞を受賞したウィリアム・ハート。チャーリー・パーカーを演じたフォレスト・ウィテカーも出ていた。小さな煙草屋が舞台で、タバコやポルノ雑誌を買いにくる常連客との交流が淡々とつづられている。

 このタイトルなら絶対不可欠な曲がある。映画ではジェリー・ガルシアが歌っていた「Smoke Gets In Your Eyes」だ。タバコがゆったりと燻るかのようなジェローム・カーンのメロディーと、含蓄のあるオットー・ハルバックの詞に惹かれるのだろうかルース・エッチングからプラターズ、薬師丸ひろ子、テレサ・テンと古今東西多くのシンガーが取り上げている。数あるあるなかから選んだこのアルバムをご存知だろうか。拙稿をご覧いただいているジャズファンは聴いたことも見たこともないかも知れないが、クリスマス・ソングを中心にしたアルバムだ。毎年かかる「クリスマス・イブ」という曲はいつの間にか覚えた。

 「Smoke」のポスターやチラシ、DVDのパッケージに使われている写真は映画のワンシーンなのだが、このカットがなかなか出てこない。ラスト近くでこのツーショットが現れたときは唸った。1枚の写真でこの映画の全てを描いているではないか。昨年、デジタルリマスター版が札幌で上映された。映画館を出た後、近くのジャズバーに寄るつもりだったが、足はいつの間にか煙草屋に向く。禁煙したことをすっかり忘れていた。
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天才少女はミレニアム懸賞問題を証明できるか

2017-12-17 09:37:41 | Weblog
 映画「ギフテッド」を観た。「gifted」という原題通り、天才的な数学の才能を持つ少女を軸にした物語だ。笑いあり涙ありの王道をいく映画で、なかなかよく出来ている。どこぞのこましゃくれた子役とは違って天才少女を演じたマッケンナ・グレースの演技力は見事で、その上キュートだ。監督は数々のミュージックビデオを手掛けたマーク・ウェブだけあり、歌って踊るシーンは唸る。

 ジャズ界を見渡せばギフテッドばかりなので、アルバムタイトルから「The Gifted Ones」を選んだ。ノーマン・グランツお得意のビッグネイムの組み合わせである。パブロの企画物はヴァーヴ時代のリメイク感が拭えないものの、やはりグランツでなければ出来ないセッションなのだ。録音はフュージョンが落ち着き、VSOPやGJTという大型コンボやスコット・ハミルトンが登場した1977年である。ミュージシャンもリスナーも電化されたジャズに忽ち飽き、アコースティックでスウィングするジャズ本来の魅力を再認識した時代に相応しい作品といえる。

 ベイシーは73歳で、ガレスピーは60歳だ。片やスウィング時代を生き抜き、片やバップシーンをリードしたジャズの天才である。ほとんどの曲がガレスピー、またはベイシーとの共作でジャズ人生を語り合うかのような喜怒哀楽のメロディーが並ぶ。スタンダードは「St. James Infirmary Blues」が収録されている。ガレスピーが抑えるようにゆっくりと吹きはじめ、ベイシーの心地良いフレーズが続き、レイ・ブラウンの骨っぽいソロがアクセントになり、再びガレスピー登場だ。今度はバッパーらしく派手な音で盛り上げる。ミッキー・ロッカーの淡々と刻む端正なビートが微笑ましい。

 ネタバレになるので詳しく書けないが、「ポアンカレ予想」や「ナビエ・ストークス方程式」が出てくる。心得がある方はニヤリとするかも知れない。圧巻は天才少女がマサチューセッツ工科大学で、学生が黒板に書いた数式の欠陥を指摘して、尚且つその証明を解くシーンだ。子どもらしく字が曲がった数式ではあるが、世界一美しい数式と言われている「オイラーの等式」よりも美しく見えた。
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ステレオ録音初期のレコードを並べてみた

2017-12-10 09:33:52 | Weblog
 毎週、拙稿をご覧いただいている方はお気付きと思われるが、ここ数週間話題にしたアルバムは共通点がある。録音はともに1959年と同じだが、ジャケットの上部を注意してご覧いただきたい。RCAの「Living Stereo」にはじまり、Mercuryの「Hi-Fi Stereo」、Rouletteは「Dynamic Stereo」、そしてVee Jayは音響工学用語の「Stereophonic」の文字がさりげなく、それでいて目立つように入っている。

 「Audio Fidelity Records」がステレオ盤レコードを発売したのは1957年だった。最初のレコードは、A面が「Dukes of Dixieland」で、B面は列車の音とか。なるほどステレオ向きだ。以降、ほとんどのレコード会社がステレオで録音するようになる。再生機器もクオリティーの高い機種が出てきたのでソースとなるレコードも競争になり、ジャケットに他社とは違う謳い文句でステレオ録音を強調したのだろう。ただ、この時代の音は録音の技術やプレスの違いによってレーベルごとの差は大きい。因みにペリー・コモの記事で触れたが、群を抜いているのはRCAの「Living Stereo」とコロムビアの「Stereo-Fidelity」だ。

 ボブ・シャッドが1959年に立ち上げたタイム・レコードは、「HIGH FIDELITY」と入れた。ソニー・クラークやブッカー・リトルで知られるマイナーレーベルだが、ヴォーカルも渋いところが揃っている。カーメン・マクレイのシュガー・ヒルに、「Fly Me To The Moon」を初めて歌ったフェリシア・サンダース、ブルーノート盤で知られるドド・グリーン、そしてジャッキー・パリスの「Sings The Lyrics Of Ira Gershwin」。作曲家の作品集は珍しくないが、これは作詞家のアイラ・ガーシュウィンにスポットを当てたものだ。「Long Ago And Far Away」に「My Ship」という大ヒット曲から「Girl Of The Moment」、「Sure Thing」という地味なものまで網羅している。アイラの詞を味わうなら絶好の作品といえよう。

 このタイム盤にしても三大ジャズレーベルにしても初期のステレオは左右のバランスに違和感がある。最近は技術が向上し、一体化した心地良い音で楽しめるようになったが、ジャズ録音の魅力は小生の師である故オーディオ評論家岩崎千明氏の言葉を借りるなら「アタックの強さ」にある。モノラルに比べると迫力を欠く開発途上のステレオとはいえ、今のデジタル化された音では足元にも及ばない。
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ポール・チェンバースは何時寝ているのだろう

2017-12-03 09:23:57 | Weblog
 先週、カウント・ベイシー楽団の多忙さを話題にしたが、ジャズ界には何時寝ているのだろうと追跡調査をしたくなるプレイヤーがいる。例えばポール・チェンバース。ジャズを聴きだした頃、ジャズのベーシストはチェンバースしかいないのかと思ったものだ。田舎のジャズ喫茶もどきには大名盤しかなかったので、ほとんどのレコードに判で押したように「Paul Chambers (b)」のクレジットがあった。

 まず、モダンジャズ史上の最高傑作「Kind of Blue」、ジャズ喫茶で毎日かかる「Cool Struttin'」に「The Scene Changes」、1957年録音でレコード番号1577の「Blue Train」、「I Remember Clifford」が今でも眩しい「Lee Morgan Vol.3」、流麗なフレーズに圧倒される「Art Pepper Meets the Rhythm Section」、2本のトロンボーンでリスニングルームが揺れる「The Great Kai & J. J.」。そして、そのベースラインの本領が発揮されるのはピアノトリオだ。ガーランドのブロックコードが心地良い「Groovy」に、真夜中の空気感を味わえる「Kelly At Midnight」、ロイ・デ・カラヴァの写真に引き込まれる「Kenny Drew Trio」、何と、秋吉敏子のアメリカ・デビュー作「The Toshiko Trio」もサポートしている。

 Vee Jay のリーダー作「Go」はデータによると1959年2月2日から3日にかけてNYの録音だが、3日には先だって話題にしたキャノンボールの「In Chicago」に参加している。当時はマイルス・バンドにいたので、シカゴはツアーの途中だ。NYからシカゴは直行便で2時間とはいえスタジオへの移動時間を入れると眠れるのは飛行機のなかだけだろう。ピアニストやシンガーなら楽譜集を鞄に詰めて身軽に移動できるが、ベーシストはそうはいかない。よりによってコンボ編成では一番大きな楽器である。目立たないベーシストは縁の下の力持ちに譬えられるが、文字通り体力がなければ務まらない。

 チェンバースがデトロイトからNYに出てきたのは54年で、翌55年6月10日の「Bennie Green Blows His Horn」を皮切りにこの年だけでエマーシーの「Julian "Cannonball" Adderley」、ケニー・クラーク「Bohemia After Dark」、「Introducing Jimmy Cleveland」、「Introducing Nat Adderley」、ドナルド・バードの「Byrd's Word」に参加している。69年1月4日に33歳で亡くなる前年にはバリー・ハリスやジョー・ヘンダーソンのセッションに参加している。デビューから一度も信号機に黄色も赤も灯ることはなかった。
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