デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

フォードの誇り、フェラーリの矜持、チャーリー・ヘイデンの信念

2020-02-02 09:19:54 | Weblog
 「フォードvsフェラーリ」・・・カーマニア、それもレースファンならタイトルだけでワクワクする映画だ。1966年のル・マン24時間レースの実話を元にしたストーリーで、 マット・デイモン扮するレーシングカー・デザイナーのキャロル・シェルビーも、クリスチャン・ベールが演じるレーサーのケン・マイルズも実在の人物である。手に汗握るレースシーンは勿論のこと、人間ドラマとしても丁寧に描かれており車に興味がない方でも楽しめるだろう。 

 序盤、当時、フォード社のマーケティング責任者だったリー・アイアコッカが重役陣を相手に、若い世代に車を売るためには何が必要なのかを説くシーンがある。ここで資料として出したのは「勝利のキス」という写真だ。タイムズスクエアで第二次世界大戦終結を喜び合っているなか、看護婦と水兵がキスをしている瞬間をとらえたものだ。撮影したのは報道写真家の草分け的存在として知られる写真家のアルフレッド・アイゼンスタットである。当時、ライフ誌の表紙を飾ったもので、終戦を象徴する写真といえばこれを思い出す。後にクライスラー社の会長に就任する切れ者が、ユーモアを交えながら展開するプレゼンはなかなかに面白い。

 チャーリー・ヘイデンがジャケットにこの写真を使った作品を出している。1995年の録音で、アーニー・ワッツにアラン・ブロードベント、そして何とローレンス・マラブルが参加している。この時66歳。ウエスト・コーストを代表するドラマーではあるが、唯一のリーダー作「Tenorman」は、タイトルばかりかジャケットもジェームス・クレイのリーダー作と間違えるような作りだ。実力がありながら不遇なドラマーを起用したヘイデンに拍手を送りたい。「Now Is The Hour」のタイトル通り、今こそ好機とばかりに遺憾なくいぶし銀のテクニックを披露しているし、サポートするヘイデンもお見事。リーダー作だからといってベースを前面に出す必要がないことをよく知っているベーシストである。

 シェルビーとマイルズは勿論のことヘンリー・フォード2世、エンツォ・フェラーリ、映画では憎まれ役のフォード社副社長レオ・ビーブにしても車への情熱は計り知れないし、何より自社の車と仕事に大きな誇りを持っている。そういえばプライドの欠片もない金の亡者が日本の車メーカーにいた。会社を財布にした挙句、海外逃亡とは呆れる。「Ghosn has gone」では日本の司法が世界に嗤われる。
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする