デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

カーネギー・ホール階上の高級アパートに暮らすドン・シャーリーとは何者か?           

2019-03-10 08:51:10 | Weblog
 グリーンブック・・・今年のアカデミー作品賞を受賞した映画のタイトルであり、黒人が利用できるホテルやレストラン、ガソリンスタンド等の施設を記した本のタイトルでもある。この旅行ガイドブックの名前は、「JAZZ」で知られるノーベル文学賞作家のトニ・モリスンや、「Jazz Poet of the Harlem Renaissance」のラングストン・ヒューズ、「黒人はこう考える 人種差別への警告」のジェイムズ・ボールドウィンらの小説に出てくるので黒人文学を愛読されている方はご存知だろう。

 映画の内容は多くのレビューに紹介されているので省くが、ジャズピアニストのドン・シャーリーが主人公だ。カーネギー・ホールの上にある高級アパートに住み、ケネディ大統領に招かれてホワイトハウスで演奏したほどの著名な音楽家だが、ビッグネイムとの共演がないため日本では全く知られていない。ではレコードは?アンディ・ウィリアムスやエヴァリー・ブラザーズのヒット曲を出している Cadence レーベルから多くのアルバムがリリースされているものの、国内盤が出たことは一度もない。偶に輸入盤のバーゲンの箱に紛れ込んいることもあるが、スタンダードが収録されていてもチェロの入った編成のためイージーリスニングと思いスルーする。

 実際シャーリーはどのような演奏をしているのか。映画をご覧になった方はお分かりと思われるが、クラシックとジャズを融合した格調の高いスタイルだ。日本、特にジャズ喫茶世代は敬遠するタイプだが、「モーニン・ウイズ・ヘイゼル」で知られるヘイゼル・スコットもこの形で何枚ものレコードを残しているので、本国では好まれるのだろう。映画の影響でCD店には多くのタイトルが並んでいる。このベスト盤はスタンダード中心で馴染みやすい。ストラヴィンスキーが「彼の技巧は神の領域だ」と言わしめたほどのテクニックを聴けるが、何よりもスウィングしているし、シャーリーの人間性や人生観、音楽観、また敢えて差別がきつい南部にツアーに出た理由を知って聴くと味わい深い。

 どのアカデミー作品も批判されるのが常だが、この映画では舞台の1962年当時のアメリカ南部の差別の実態を考えると甘すぎるという意見があるそうだ。確かにその通りかも知れないが、劇中紹介されるナット・キング・コールが襲われた話だけでも差別の凄まじさが見えてくる。全部見せるのが映画ではない。1935年にテディ・ウィルソンを雇ったベニー・グッドマン、1958年にビル・エヴァンスを誘ったマイルス、この白人と黒人のロードムービーからグッドマンとマイルスの偉大さを再認識した。 
コメント (5)
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