デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ドキッとするゴギ・グラントの目

2009-02-22 07:47:58 | Weblog
「見て見ぬ振りの流し目」などといわれるように、日本人は顔をむけないで、目だけ向けて見る「流し目」という習癖がある。男女の間で、それとなく相手に関心を持っていることを表現するしぐさで、「色目」ともいわれるように色っぽい目つきだ。奥床しさが残る流し目は日本人独特のもので、欧米では目を大きく見開きダイレクトに相手の顔を見つめるのが愛の表現とされている。

 意中の貴方をジッと見つめているのはゴギ・グラントだ。50年代の歌手というとビッグバンド出身が多いが、ゴギはRCAのオーディションに合格してデビューしたシンガーで、往年のポピュラーファンは56年のヒット曲「風来坊の唄」が懐かしい。当時、ビルボードチャートで8週間1位を独走していたプレスリーの「ハートブレイク・ホテル」を抜いてトップに立った大ヒット曲だった。トップは6週間続くが、次のトップがまたプレスリーの「アイ・ウォント・ユー・アイ・ニード・ユー・アイ・ラブ・ユー」である。映画「ヘレン・モーガン物語」の吹き替えを担当したこともあるゴギは、ロック全盛の時代に咲いた一輪の花だろう。

 数枚残したアルバムのなかでは、ジョニー・マンデルが編曲と指揮を執った「Granted It's Gogi」がジャズ的な趣向が強く出た内容で、ジャズ・ヴォーカルファンを唸らせる1枚だ。艶のある美しい声は伸びがあり、とりわけ胸の奥から湧き上がる仄かな恋心を託したバラードは情感が漂い、その想いはジャケットの瞳の輝きである。エドガー・サンプソンが作曲したスウィング時代を代表する「Don't Be That Way」をゆったりとしたテンポで歌っていて、これが素晴らしい。グッドマンの十八番で軽快に演奏され踊るための曲であったが、楽曲の細かい襞の折り目を丁寧に整えた歌唱は、腰を落ち着かせて味わう聴く曲であり、聴かせる曲でもあることをゴギは教えてくれる。

 今日の日本女性は流し目で婉曲に表現するのではなく、欧米並みに直接相手を見るようになった。もともと伏し目がちだった日本女性の変化は、ファッション雑誌に紹介された化粧法に倣いアイシャドーや付け睫毛までつけて目を大きく美しく見せるようになったからとも言われるが、目だけ大きくみせても心の目を開かないことには愛は伝わらない。
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バレンタインに手作りのプレゼントをもらっただろうか

2009-02-15 08:24:37 | Weblog
 「男性がバレンタインデーにもらって嬉しいものランキング」によると、1位はチョコレートやケーキなどの手作りのお菓子だそうだ。以下ベスト10には手紙、手料理、手作りのマフラー・セーターと手作りが並ぶ。女性にとって特別な日は、ありふれた高級チョコレートやブランド品よりもオンリーワンの手作りこそが愛情を伝える最高の方法であり、もらう男性にとっても手作りの品はたとえ意中の女性でなくても心は動くものである。

 「マイ・ファニー・バレンタイン」は、37年のミュージカル「Babes in Arms」の挿入歌で、70年以上経った今でも愛されている曲だ。作詞作曲はリチャード・ロジャースとロレンツ・ハートで、バディ・グレコがミリオンセラーを記録した「レディ・イズ・ア・トランプ」や、ジョージ・ウォーリントがカフェ・ボヘミアで残した名演「ジョニー・ワン・ノート」、シナトラの名唱で知られる「ホエア・オア・ホエン」もこのミュージカルの曲である。贅沢なメロディーをちりばめたミュージカルは、当時どの程度話題になったのか不明だが、湧き出る泉の如く新鮮で美しい詞と曲を書き上げた二人はアメリカを代表する黄金のコンビであったろう。

 変った歌詞のラブソングだが、そのバラードの極致ともいえるメロディーに魅せられるのだろう、何度も録音したマイルスをはじめインストも枚挙にいとまがない。名コンビの曲を、ジミーとダグ・レイニーの親子コンビで演奏したのがある。父を師匠とした息子だけあってふたりの音とフレーズはよく似ているが、テクニックを競うでもないチャーリー・クリスチャン直系のギタープレイは上下関係にある親子という堅苦しさはない。「バレンタインデーにはママから手作りのギターケースをもらったもんさ」、「ママからそんな話は聞いたことがないよ、違う女性じゃないの」とダグが笑う。「!・・・」ジミーの弦が揺れる。友達のような親子のバレンタインは和やかだ。

 先のバレンタインデーには手作りのプレゼントを贈ったり、もらった人もいるだろうが、手の込んだプレゼントをもらったのは随分昔のような気がする。最近は手を抜いたものに変ってきた。女性は手のひらを返すからご用心である。
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ジョシュア・レッドマンはピーナッツを幾つ食べたのだろう

2009-02-08 08:37:17 | Weblog
 「鬼は外、福は内」、不況を反映してだろうか、今年の節分はどこの家庭でもひときわ声が高い。関東方面では炒り大豆を撒くようようだが、北海道では落花生が慣わしになっており、厄払いの後で殻を割って食べるピーナッツはビールという福の友になる。新鮮なピーナッツはそのまま食しても美味しいが、バターと塩で炒めるとさらに風味も増し、いつのまにか空き瓶が並ぶ。

 「ソルト・ピーナッツ」は、バップの申し子であるディジー・ガレスピーとケニー・クラークがエラ・フィッツジェラルドのバンド時代に合作した曲で、バップの夜明けを象徴する作品だ。メロディー、ハーモニー、リズムと、それまでのジャズの概念を崩し、さらに細分化されたコード・チェンジによる即興は、後のジャズの方向性まで決定することになる。まさにジャズの革命ともいうべき作品の名演は、ピーナッツと相性のいい柿の種のような、ガレスピーとパーカーが共演した53年のマッセイホールに収録されて、バップが持つ斬新性とそこから生まれる既成概念に囚われないアドリブの妙が凝縮されている。

 42年に作られた曲は最近ほとんど演奏されなくなったが、ジョシュア・レッドマンが93年の初リーダー作「Joshua Redman」で取り上げていた。同じくサックス奏者のデューイ・レッドマンを父に持つジョシュアは、ハーヴァード大学を卒業後、セロニアス・モンク・コンペティションで優勝し、鳴り物入りでデビューを飾った人である。ブルース、スタンダード、ファンク、バップ、オリジナルと幅の広さをアピールしたアルバムで、「ソルト・ピーナッツ」を急速なテンポで一気に吹き上げる様は大物の風格さえある。その後の活躍は目を見張るものがあり、その成長はバップの古典を取り上げるだけの伝統を踏まえていたからだろう。

 歳の数だけ食べると健康でいられると言われ、子どものころからその習慣は続いているが、さすがに50を超えるといささか飽きてくる。来年はもう一つ増えるのか、と溜息混じりに外を見ると出て行ったばかりの鬼が笑っていた。
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ケニー・ドリュー Talkin' & Walkin'

2009-02-01 09:37:46 | Weblog
 Walkin' そして、Workin'、Steamin'、Relaxin'、Cookin' 聞いても発音しても語感がいい。もしマイルスがプレスティッジにもう1枚録音したなら Talkin' だろうか、とジャケットを漠然と眺めて思うことがある。そういえば似たようなタイトルのアルバムがケニー・ドリューにあった。その名も「Talkin' & Walkin'」、こちらの響きもよく、二分割されたピンクと何かを語ろうとしているドリューの口元と髭がシンプルなデザインながら印象に残る。

 ドリューがロサンゼルス在住時に録音されたもので、ウォーキング・ベースは名人芸とまで言われたルロイ・ビネガーと、パーカーのバックでバップ・ドラムを叩いたローレンス・マラブル、そしてクリフォード・ブラウンの「ベスト・コースト・ジャズ」に参加していたアルトとテナーサックスを器用に吹くジョー・マイニのワンホーンだ。このメンバーでウエスト・コースト・ジャズ専門レーベル「ジャズ・ウエスト」の発売となるとウエストのクールなサウンドを想像するが、意外なことにホットなハードバップである。ハードバップというとニューヨークを中心に語られるが、ウエストでもその息吹があり、ジャズ地図に東西の色分けは不要なことといえるだろう。

 バップ時代の黒人ジャズピアニストはほとんどそうであったように、ドリューもパウエルの流れを汲むスタイルだ。このアルバムを録音した翌56年にはドリューの最高傑作であり、ピアノトリオ屈指の名盤でもあるリバーサイド盤を残しているが、高い精神性と知的な構築美はパウエルに通じるものがある。ブルーノート盤「アンダーカレント」のハードな面、ヌード・ジャケットばかりが話題になるジャドソン・レーベルのソフトなタッチ、スティープルチェイスの一連のアルバムで聴ける耽美性、どの作品にも一貫したバップの精神が脈打ち、妥協しない高い音楽性を誇るのは見事なものだ。

 タイトル曲「Talkin'-Walkin'」はドリューのオリジナル・ブルースで、シンプルなテーマからビネガー、マラブルと歩調を合わせたアドリブに入り、途中、ホレス・シルヴァーが「Walkin'」で弾いたブルース・フレーズを引用する。語感のいいタイトルを見返して思わず顔がほころぶ。
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