デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

マル・ウォルドロンが配ったカードにモダンジャズの歴史が刻まれている

2024-04-28 13:04:45 | Weblog
 女性のディーラーが、「テキサス・ホールデム 一人勝ち」とポーカーゲームの説明をする場面から始まる。主演・監督のラッセル・クロウが、「奴らには借りがある」と。「目的は復讐」のテロップ。おまえだけ狙っていると銃を向ける。忠臣蔵大好きの方なら絶対観たくなる仇討ち劇にみえる「ポーカー・フェイス 裏切りのカード」の予告篇に騙された。結末は・・・おっとネタバレになる。

 ディーラーを演じるエルザ・パタキーの胸元を思い出しながらマル・ウォルドロンの「The Dealers」を聴いた。プレスティッジの未発表音源や再発をメインとした傍系レーベル「Status」から出たアルバムで、マルの57年のリーダー作「Mal/2」と、58年のホーン3本の企画盤「Wheelin' & Dealin'」の未発表テイクを収録している。どちらもコルトレーンが参加しているのが魅力だ。発売されたのは64年だが、この年は「Crescent」も出ている。2枚聴き比べると同じテナーマンとは思えない。翌年は「Ascension」を録音している。並の耳では付いていけない変化だ。 

 さて、主役のマル。「Left Alone」のせいだろうか、「暗い」の一言で聴かない人が多いが、実に多くのアルバムにクレジットされている。コルトレーンの初リーダー作をはじめミンガスの直立猿人、ドルフィーのファイヴスポット、マクリーン「Jackie's Pal」、ジーン・アモンズ「Angel Eyes」、マックス・ローチ「It's Time」、ステーヴ・レイシー「Reflections」、「Teddy Charles Tentet」等々、並べるとモダンジャズの歴史の1ページができるし、プレスティッジのハウスピアニストだった期間もあるので、同レーベルの足跡も追える。苦手な方も是非お聴きいただきたい。

 予告篇制作の先駆者佐々木徹雄さんの著書「三分間の詐欺師 予告篇人生」(パンドラ刊)に、「印象に残る場面を伝え、『本編を見たい』と思わせること。それこそが予告篇の大きな役割」とある。また、池ノ辺直子さんの「映画は予告篇が面白い」(光文社新書)に、「本篇の宣伝のために本篇のストーリーの流れとはまったく関係のないところで使う」とあった。騙されるのも悪くない。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジョー・モレロを聴いてドラマーになったニコ・マクブレイン

2024-04-07 08:34:31 | Weblog
 ロックは聴かないし、ドラムも叩かない。音楽ゲーム「DrumMania」で遊ぶでもないが、ロック界を代表する19人のドラマーのインタビューを中心に構成されたドキュメンタリー映画「COUNT ME IN 魂のリズム」を観た。恥ずかしながら名前と顔が一致するのはカルロス・サンタナの妻で「女トニー・ウィリアムス」と呼ばれるシンディ・ブラックマンだけだったが、それぞれドラム愛に満ちた話は興味深い。

 スティックを持つきっかけになった一曲は小生が10代の頃に流行ったものばかりで思わずニヤリだ。ゴールドディスクを受賞したザ・サファリーズの「ワイプ・アウト」。ロン・ウィルソンのソロにしびれた少年少女は数知れない。セッションドラマーで「Teen Beat」のヒット曲もあるサンディ・ネルソンに魅せられた人もいる。意外にもドラマーとして評価が高いリンゴ・スターに、涼しげな顔で熱いリズムを刻むチャリー・ワッツ、スティックを廻したり空中に放り投げてはキャッチするキース・ムーン等々憧れのビッグネームが並ぶ。勿論バディ・リッチにブレイキー、ローチ、エルヴィンの名も挙がる。

 そしてヘヴィメタルバンド「IRON MAIDEN」のニコ・マクブレインは、「デイヴ・ブルーベック・カルテットのジョー・モレロの様になりたい」と語った。日本のジャズファンの間ではあまり評価されないだけにこれは嬉しい。華麗さや派手さもない地味なドラマーながら端正でよく歌う。ライブやセッションで「Take Five」をリクエストするとドラムソロは漏れなくモレロのあれになる。ジャズドラマーを志した人なら必ず練習するソロだ。初期のリーダー作「It's About Time」を出してみた。フィル・ウッズを鼓舞するバスドラムの激しさと、まだ10代のゲイリー・バートンをフォローする優しいシンバルワークにため息が出る素晴らしい作品だ。

 ツー・バスにダブルペダル、リモートハイハット、シズルシンバル・・・限りなくヴァリエーションが広がるのがドラムという楽器だ。それだけにテクニックは勿論のこと個性が問われるが、登場した面々は揺るぎない音楽観を持っている。数十年ロックを聴いていないが、ギターの轟音に負けない熱いリズムに酔いたくなった。この夏、野外ライブに出かけてみようか。Count me in・・・小生も参加します。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする