デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

暮れにクレッセンドのジェリ・サザーンを愉しむ

2013-12-29 08:59:57 | Weblog
 モダンジャズを中心に新譜旧譜を問わず幅広く話題にしてきたアドリブ帖も本稿が今年最後のアップになりました。早いものでブログを開設して8年になりますが、こうして毎週日曜日に欠かさず更新できたのは、いつもご覧いただいている皆様のおかげです。アクセス数や閲覧数で一喜一憂するわけではありませんが、無いネタを絞って書いているだけにやはり数字が伸びるのは嬉しいものです。

 そして、コメントをお寄せいただいた皆様には本当に感謝しております。ベスト3企画中心のコメント欄ですので、マイナーな曲は選ぶのが大変だと思われますが、優劣付け難い名演名唱からベストを挙げていただき、コーナーを賑わしていただくのはありがたいことです。ジャズには一家言ある方ばかりですので、ときには割れることもありますが、総じてベスト入りするヴァージョンは同じ傾向にあるようです。長年ジャズをお聴きになっている方からみると、何を今更と思われるかもしれませんが、これからジャズを聴こうとする人にとってはひとつの指針になるものと自負しております。これを手引きとしてジャズの真髄に触れていただけるならブログ冥利に尽きます。

 今年最後に取り出したアルバムはジェリ・サザーンのアット・ザ・クレッセンドです。クレッセンドはメル・トーメのライブ盤でお馴染みのハリウッドの名門ジャズクラブです。バリバリなジャズを演奏するニューヨークのジャズスポットとは違い、落ち着いた雰囲気ですのでヴォーカルを愉しむなら最高のクラブかもしれません。ジェリの十八番の「I Thought Of You Last Night」や、マイルスも取り上げた「Something I Dreamed Last Night」というジェリのハスキー・ヴォイスに映える選曲は唸ります。ともにしみじみと語りけるような「Last Night」というフレーズは、本年の最終稿と重ねるとより響いてきます。

 来年もまた新譜旧譜のなかから選りすぐりのアルバムを紹介していきます。ときにそれは珍盤や奇盤、また駄盤とされているものも出てくるかもしれません。たとえ世評はどうであれ、そこにスウィングがあるならそれは名盤です。懲りもせず来年も毎週欠かさず更新を続ける予定ですので引き続きご愛読頂ければ幸いです。毎週ご覧いただいたいた皆様、そしてコメントをお寄せいただいた皆様、本当にありがとうございました。

九拝
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ビバリー・シスターズがサンタにキッスした

2013-12-22 09:42:34 | Weblog
 師走といって生活習慣にさほど変化はないが、忘年会の時期ということもあり何かと出かける機会が多い。ジャズクラブは別として居酒屋やバー等、行く先々でかかっているのはクリスマスソングだ。ソースは有線放送で、一体クリスマスソングと呼ばれるのは何曲あって、どれほどのヴァージョンがあるのかと感心するほどヴァラエティーに富んでいる。いつもはジャズが低い音量で流れているバーもやはりこれだった。

 水割りのグラスが空くころ、「ママがサンタにキッスした」がかかる。これが聴き惚れてしまうほどの美しい女性コーラスで、マスターにヴォリュームを上げていただいた。同じ声質なので姉妹グループと思われるが誰なのか思い出せない。聴き覚えのあるコーラスからレコードで聴いているボスウェルやアンドリュース、キング、クラークというシスターズを挙げてみたが違うような気がする。こういうとき便利なのはその場で調べられるスマートフォンだ。曲名検索をかけてみるとオリジナルは1952年のジミー・ボイドで、カバーはザ・ロネッツ、ジャクソン・ファイブ、弘田三枝子、天地真理 ・・・

 そして、あった、あった、これだ。ビバリー・シスターズだ。イギリスのコーラス・グループで、タイトルこそ失念したがジャケットに惹かれて買ったアルバムは覚えている。長女のジョイがリードボーカルを担当し、双子の妹バブスとテディがハーモーニーを重ねるという編成だ。このリードとハーモーニーのからみが実に美しい。「The Enchanting Beverley Sisters」は1960年にリリースされた作品で、「フォー・ユー」や「ワンス・イン・ア・ホワイル」、「ニアネス・オブ・ユー」といった派手さこそないものの味わい深いメロディを選曲している。なかでも「コテージ・フォー・セール」は声の美しさゆえトーチソングであることを忘れる。

 「ママがサンタにキッスした」は「Wikipedia」とクリスマスソングを紹介しているサイトに掲載されていたが、どちらともカバーの筆頭にあるのはスパイク・ジョーンズだった。冗談音楽の王様として知られている人で、フランキー堺やハナ肇もバンドを結成するときに参考にしたといわれている。「I Saw Mommy Kissing Santa Claus」で録音した他に、「I Saw Mommy Screwing Santa Claus」というふざけたパロディも残しているそうだ。聴いたことはないが師走の街のような喧騒なのだろう。

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ジャズというクール・ビューティをまとったジャンヌ・モロー

2013-12-15 09:23:18 | Weblog
 この時期になると映画館に札幌映画サークルが募集する札幌公開作品ベスト10の投票用紙が置かれている。開いてみると今年公開された700作あまりの全作品が並んでいた。観た作品をチェックしてもその一割にも満たないので投票はできないが、数少ないそのなかで私ベストワンを選ぶならフランス映画の「クロワッサンで朝食を」だ。チラシに主演は「死刑台のエレベーター」や「突然炎のごとく」の・・・

 ジャンヌ・モローとある。モローを紹介するとき必ず引き合いに出される「死刑台のエレベーター」は1957年の作品で、ヌーヴェルヴァーグの旗手ルイ・マル監督のデビュー作だ。モローにとってもルイ・マルにとっても代表作であるこの作品はフランス映画史に残る名作だが、半世紀以上経った今でも傑作として語られるのはバックに流れるマイルスの音楽も大きな要因であろう。映像を観ながら即興で吹いたといわれるトランペットは、モローの心理状態を音で表現することにより映像美を際立たせたばかりか、単体としてマイルスの音楽を切り取ってもそれだけで成立する優れたものだった。

 そしてモローといえばジャズファンが見逃せない映画に「危険な関係」がある。退廃した貴族社会を描いたコデルロス・ド・ラクロの小説が元になった作品で、モローのクール・ビューティに圧倒された作品だ。こちらのテーマ曲を作曲したのはデューク・ジョーダンなのだが、どういうわけか誤って作者がクレジットされたためジョーダンの元に印税が入ってこなかったという。冗談じゃないと怒ったジョーダンが、チャーリー・パーカーの未亡人の協力を得て、改めて録音したときのタイトルが「No Problem」である。印税の問題はないよ、というメッセージが込められたタイトルでクレジットの「Duke Jordan」が大きく見える。

 「クロワッサンで朝食を」を撮ったときモローは何と御歳84歳だ。マイルスが夢中になった往時の色気はないものの女としての魅力は十分で、また女優としての存在感も大きい。この映画のバックにマイルス風のミュートが流れてニヤリとするが、不思議なくらいこれがこの歳のモローに似合っていて、若い頃のクールな美しさは損なわれていない。歳を「取る」ではなく「重ねる」とはこれをいうのだろう。
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「ビ・バップをいつやるの?」 「今でしょ!」とバードは言った

2013-12-08 08:42:21 | Weblog
 先週、今年の世相を映した言葉を選ぶ新語・流行語大賞が発表された。4語が同時に選ばれたのは異例だそうだが、どの言葉も家庭や職場、飲み屋等で耳にしたことがあるだろう。このなかで小生がよく使ったのは、大手予備校講師の林修さんの決めゼリフ「今でしょ!」で、家人からの頼まれ事をいつまでも手を付けないときに、「いつやるの?」と言われ、つい「今でしょ!」と誘導尋問に乗ったものだ。

 この「今でしょ!」を1945年に言ったのはチャーリー・パーカーだというのをご存知だろうか。そんなバカな、と疑いの眼差しを向けられそうだが、パーカーのバイオグラフィーを1920年にカンザス・シティで生まれてから順に追っていくと、1945年に「Now's The Time」発表とある。ビ・バップの時代到来を意味する曲名だが、意訳すると「今でしょ!」だ。短いフレーズが繰り返されるリフが印象的なFのブルースでジャム・セッションに欠かせない。革命児パーカーらしさが顕著に現れた曲で、前年に発表されたガレスピー作の「チュニジアの夜」と並んでビ・バップを象徴する曲といっていいし、ジャズシーンがどんなに変わろうと演奏される曲でもある。

 パーカーを信奉するプレイヤーばかりか、アルト・サックスを手にした人なら一度は演奏する曲なので録音は多い。当然の如く女性バードと呼ばれたヴァイ・レッドも62年の「バード・コール」で取り上げているのだが、これが「じぇじぇじぇ」と驚く。ラス・フリーマンの趣味の良いピアノのイントロに導かれて女性らしい優しいアルトが出てくると思いきや、何と歌っているのだ。59年にエディ・ジェファーソンがこの曲に詞を付けて歌っていたが、それとは違うので即興で思いついたのだろう。さすがにワンコーラスでやめてアルトを吹いているが、ロイ・エアーズやカーメル・ジョーンズとのセッションは熱い。

 流行語大賞のなかに五輪招致のスピーチで注目を集めた「お・も・て・な・し」も選ばれていた。五輪といえば2020年東京オリンピック開催を仕切ろうとする人が、某医業グループから5千万円もの資金提供を受けていたという。本人は「個人的な借金だった」と釈明しているが、「倍返し」とは言わないまでも何の見返りも期待せずに大金を貸してくれる人がどこにいるだろうか。「お・も・て・な・し」を返すと「う・ら・も・あ・る」になる。
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ジャズ楽器としてのアコーディオン

2013-12-01 09:41:12 | Weblog
 今は廃刊になったスイングジャーナル誌で、毎年ジャズメン読者人気投票が行われていた。今頃発売される12月号で集計が発表されたと思う。海外と日本、さらにトランペットや、テナー・サックス、ピアノ、ドラム等、楽器別に投票されるものだ。順位からはこの1年間の活躍ぶりがみえるし、推しメン否、好きなジャズメンが上位にくると嬉しい。その楽器別の最後に「その他の楽器」という項目があった。

 何とも曖昧な基準だが、ミュージシャン数が少ない楽器が対象になる。年代で違うが、例えばオルガンのジミー・スミスや、オーネット・コールマンのヴァイオリン、ハーモニカのシールマンス、パーカッションのムトゥーメ等が選ばれていた。もし今この部門があるなら間違いなくランクインするのはアコーディオンとバンドネオンを弾きこなすフランス人のリシャール・ガリアーノだろう。バンドネオン奏者の巨匠として知られるアストル・ピアソラ自ら後継者に指名したほどのテクニックを持っており、シャルル・アズナブールをはじめ数多くのシャンソン歌手の伴奏を務めたことでシンガーの信頼も厚い。

 アコーディオンでジャズを演奏したのは古くは「Jazz Accordion」というタイトルのアルバムを作ったジョー・バジルや、甘めの演奏でファンも多いアート・バヴァン・ダムがいたが、本格的にジャズに取り組んだのはガリアーノがはじめてである。ゲイリー・バートンをはじめロン・カーター、またそれこそ「その他の楽器」の寺井尚子やエディ・ルイスと共演しておりジャズプレイヤーとの付き合いも幅広い。「ルビー・マイ・ディア」はラリー・グレナディアのベースとドラムのクラレンス・ペンと組んだトリオ編成ということもあり、型にはまらない自在なアドリブと、オーケストラのような多彩な音に出合える。

 来日公演でファンも多いガリアーノに影響されてこの楽器の魅力に触れた方もおられるはずだ。プロ仕様はゆうに100万円を超え、弾きこなすのが難しいといわれるので、そう簡単に手を出せる楽器ではないが、いつの日か「その他」でない独立したジャズ楽器になるかもしれない。NHKのど自慢や、スター誕生で横森良造さんのアコーディオンを聴いてこの楽器に目覚めた人は多いという。
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