デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

西遊記

2006-03-26 10:14:23 | Weblog
 先週テレビドラマの「西遊記」が最終回を迎えた。テレビでは一部のエピソードしか語られないが、「西遊記」は全部で100話に及ぶ中国らしい壮大な物語だ。中国では一番読まれている書だろうし、日本でも読者は数多い。三蔵法師役はかつての夏目雅子さんの印象が強いが、深津絵里さんもなかなかの好演だった。夏目さんといえば、母の小達スエさんの著書「ふたりの雅子」を読んで涙したことがある。美人薄命とは彼女のための言葉だったか。

 ふと思い出したのが、板橋文夫さんのCD「西遊記」。展開に無理があるなぁ・・・(汗)92年新宿ピットインのライブを収録したもので、井野信義さんのベース、小山影太さんのドラムにチェロの立花まゆみさんが加わっている。そして57歳にして初リーダーアルバムを発表したサックス奏者の井上敬三さんを迎えた異色のセッション。どんな音が出てくるのか想像がつかない。この辺りから板橋さんの求める音楽の裾野が広がったと思う。板橋さんが古巣のピットインミュージックを離れMIXDYNAMITE を設立したのは93年の事。以来アジア圏への遠征や、ジャンルを超えたミュージシャンとセッションを重ねている。

 今年1月に新宿ピットイン40周年記念ライブがあり、板橋さんは久しぶりに森山威男さんと共演したと云う記事を目にした。「渡良瀬」「グッバイ」を中心にかつての盟友がぶつかり合うエネルギッシュな演奏だったようで、凄まじい音が聴こえてきそうだ。北海道出身の作家今野敏さんの小説「ジャズ水滸伝」の一節に「ピアニストは空想の中でステージに立っていた。指は、ピアノの鍵盤の上を全力疾走している」とある。モデルは板橋さんかもしれない。今野さんのデビュー作「怪物が街にやってくる」は、森山威男さんをモデルにしていた。

 板橋さんの「西遊記」は「西へ東へ」の副題が付いているように、垣根を越えた自由な音空間を楽しめる。小生も孫悟空のように自在に西へ東へと旅をしてみたいものだが、生憎、時間もなければ金もない。当分、イースト・コースト、ウエスト・コーストと、リスニングルームでのジャズの旅が続きそうだ。
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スターダスト

2006-03-19 08:42:13 | Weblog
 昨年録っておいたビデオを観ていたら富士通のCMで、「スターダスト」が流れてきた。あまり熱心にテレビを観ないので、最近でも放映されているのかは知らないが、耳に馴染んだメロディーは心地よい。女性コーラスのようで、ボスウェル、アンドリュース、マクガイアの三大シスターズなのか、五大に拡大してキング、クラークなのだろうか・・・コーラスに疎いので分からないが、アレンジは新しい感じだったので最近のグループなのかもしれない。

 最もアメリカ人が好むポピューラー・ソングといわれる「スターダスト」だけに、録音数は枚挙に遑がない。唄物が殆どで、ナット・キング・コール、エラ・フィッツジェラルド、日本では美空ひばりさんの名唱も残されている。インスト物では「ウイズ・ストリングス」でクリフォード・ブラウンが美しく歌い上げている。最近、CMで見かけるウイントン・マルサリスも吹き込んでいるが、どうやらテクニックだけではブラウン以上の名演は残せそうもない。

 ジャズ・ヴァージョンのベストは47年のジャスト・ジャズ・コンサートを収めたライオネル・ハンプトン・セッションで、ソロリレーの手本といえる素晴らしいものだ。ウィリー・スミスのイントネーションをきかせたアルトに始まり、チャーリー・シェイヴァースの低濁音を使ったトランペット、コーキー・コーコランの思い入れたっぷりのテナー。どのソロも栗羊羹に蜂蜜をかけたような甘さで、この曲をバックに女性を口説くと経験上10人に1人は落ちることになっている。(かなり確率悪い)続くスラム・スチュワートは弓弾きとハミングで観客を沸かし、御大ハンプトンはうなり声をあげながらの熱演で、半世紀以上経っても色褪せることがない。

 小生を含めた団塊前後の世代が一番耳にしている「スターダスト」は、恐らくザ・ピーナッツだろう。当時の日曜を象徴するバラエティー番組「シャボン玉ホリデー」のラストで、後半のサビ♪Beside a garden wall からの唄いだしはいつも新鮮だった。五歩一勇さんの著書「シャボン玉ホリデイー スターダストを、もう一度」によると、来日中の作曲者ホーギー・カーマイケルが特別出演したそうだ。テレビが茶の間の王様の昭和36年の一シーンだった。
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I Want To Live!

2006-03-12 10:49:25 | Weblog
 先週NHKBSで、スーザン・ヘイワード主演の、冤罪と死刑制度の矛盾を扱った社会派映画「私は死にたくない」が放映されていた。58年の作品で実話に基づいている。日本の冤罪事件の一つ「狭山事件」を、鎌田慧さんの著作で読んだことがあるが、アメリカも日本も冤罪の構図が同じなのに戦慄した。そこにあるのは差別と偏見だった。モノクロームの画面と、鎌田さんの著書に収められている白黒の写真から無実が故の“I Want To Live”という悲痛の叫びが聞こえてくる。

 以前、この映画は何度か観たことがあるが、冒頭のジャズクラブのシーンは見逃せない。バリトン・サックスを軽々と吹くジェリー・マリガンのソロが圧巻。少し気取ったアート・ファーマーに、フランク・ロソリーノ、ピート・ジョリー、レッド・ミッチェル、優等生の印象が強いシェリー・マンはタバコを銜えながらのラフな演奏なのだが、やはりドラミングは正確だ。それにバド・シャンクの姿も見える貴重なもので、映画のワンシーンとは、どうにも勿体ない。

 同名のサウンド・トラック盤もあるが、写真はマリガンが、映画出演時のメンバーで録音したもので意外に知られていない傑作。映画でも音楽を担当しているジョニー・マンデルの作編曲で構成されており、マンデルの垢抜けた曲作りには驚かされる。そういえばマンデルはアカデミー受賞曲「いそしぎ」を作った人だった。当時のウエスト・コーストの洗練されたジャズを聴ける一枚で、CD化が待たれる。

 短いジャズクラブのシーンで、マリガンの横でテクニカルなトロンボーンを吹くフランク・ロソリーノは、ビールを飲みながら、指を鳴らし楽しそうだ。この陽気なロソリーノからは、後にピストル自殺を図る事など考えられない。“I Want To Live”と、ロソリーノは思わなかったのだろうか。
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スローモーション

2006-03-05 10:19:08 | Weblog
 商談が不成立に終わり、少しばかり気落ちして車に乗り込み、ラジオを点けると、いきなりビッグバンド・ジャズが流れてきた。煌びやかなメイナード・ファーガソンのようなサウンドで、思わず車のスピード、いやヴォリュームを上げる。小生のような紅顔の美少年が、そのまま大人になったような純粋無垢な(単純ともいうらしいが)人間は、ジャズを聴くと元気になるようにできている。

 ビッグバンドの前奏に続いて出てきたのは、何と中森明菜さんの「飾りじゃないのよ涙は」だった。どうやら新アレンジの録音で、なかなかにスウィングする。アレンジ一つで曲は如何様にも変わるもので、このバックからアニタ・オデイが唄い出しても不思議がないほどだ。マイルス・デイヴィスの「スケッチ・オブ・スペイン」は、音の魔術師といわれるギル・エヴァンスのアレンジにより格調高い作品に仕上がっている。小生が敬愛するデューク・エリントンもエリントンメンを熟知したビリー・ストレイホーンという優れたアレンジャーがいたからこそ駄作は一つもない。

 明菜さんに詳しい友人に訊いたら、そのCDなら持っているというので、頂いた。エッ、フツー借りるだろうって。差し上げると言うから頂いたまで。人徳である。(笑)「歌姫 ダブル・ディケイド」と題されたセルフ・カヴァーのベストアルバムで、様々なアレンジが施されている。小生のカラオケの十八番「スローモーション」はボサノヴァ・アレンジで、大人の粋と艶を醸し出している。十八番といっても、小生が歌うわけではない。いや、一度仲間に勧められ歌ったことがあるが、その後二度と歌えと言われたことはない・・・どうやら先天性音楽痴呆症候群、簡単に言うと音痴らしい。(笑)

 たいてい同席か、店の女性に歌って頂くことにしている。ウン?最近巷で「スローモーションのオジサン」と囁かれているのは小生のことか?どうやらスローな支払いに起因しているらしい・・・反省。「好きなあなたに貸したいけれど、貸せばあなたは来なくなる」店の張り紙を思い出す。
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