デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

テルマ&ルイーズはサンダーバードで翔んだ

2024-03-17 08:30:02 | Weblog
 1992年のアカデミー賞で脚本賞を受賞した「テルマ&ルイーズ」を4Kレストア版で初めて観た。封切り当時、「90年代の女性版アメリカン・ニューシネマ」と高く評価された作品だが見逃している。公開から30年以上も経っているので多くのレヴューが紹介されており、結末も知ってはいたが、やはり自身の目で確かめたい。見事なストーリー展開に引き込まれた。

「サンダーバードを一番カッコよく乗る女たち」という映画評もあったが、1966年型フォード・サンダーバード・コンバーチブルを駆ったロードムービーだ。サンダーバードはアメリカ先住民族のスー族に伝わる神話に登場する空想上の鳥で、単語の響きが力強いせいか多くの商品名やアルバムタイトルに使われている。60年代後半にテレビ放送されていた人形劇が懐かしいし、鉄道ファンは特急列車、時計マニアならロレックス、バイクで風を切って走る方はトライアンフを、エレキベースを弾く人はギブソンを思い浮かべるだろう。

 さてジャズファンはどれを選ぶ。ビルボードのジャズ・アルバム・チャートで2位を記録したカサンドラ・ウィルソンか。コテコテがお好きな方は迷わずウィリス・ジャクソンのプレスティッジ盤。ここはオーソドックスにルイ・ベルソンのインパルス盤を取り出した。2つのバスドラムと片手に2本ずつスティックを持って叩くエンターテイメント性が高いドラマーだ。ハリー・エディソンやカール・フォンタナの名手をさりげなく盛り立て、ソロではここぞとばかりに本領を発揮する。正確なリズムと稲妻のような怒濤のドラミングを存分に楽しめるアルバムだ。

 3月11日に2024年アカデミー賞の授賞式が開催された。作品賞を受賞した「オッペンハイマー」に、ノミネートされた「アメリカン・フィクション」、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」、「関心領域」。脚本賞を受賞した「落下の解剖学」と面白そうな作品が並ぶ。なかには30年後再公開され、「テルマ&ルイーズ」同様、アメリカ国立フィルム登録簿に追加される作品があるかもしれない。
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今宵はオスカー・ピーターソンに何をリクエストしよう

2024-03-03 08:35:21 | Weblog
 オスカー・ピーターソンのドキュメンタリー映画を観た。本人のインタビューを中心にビリー・ジョエルやクインシー・ジョーンズ、ハービー・ハンコックら華麗なテクニックに魅せられたミュージシャンの証言で構成されている。1971年に一度だけ聴いた生演奏と数十枚のレコードはどれも明朗快活で、私生活も煌めく鍵盤同様、順風満帆と思っていたが、そうではなかった。ジャズ誌に載らない陰は興味深い。

 やはり差別との闘いだ。JATPで廻っていた時、白人メンバーと一緒にレストランで食事ができなかったり、出演しているホテルなのに泊れない。タクシーに乗ろうとすると白人専用だと銃を突きつけられる。酷かったのは演奏する会場なのにトイレを使えない。ノーマン・グランツは、「このホールは俺が貸切っている、だからトイレも俺のものだから黒人も使える」と警官を追い払った。天晴。先々のトラブルを案じ、ついにはグリーンブックを頼りに黒人が安心して休める宿を探す。ピーターソンを育て、護ったジャズ界の大物プロデューサーを益々好きになった。

 そして三度の離婚は初耳だ。マイルスのようにジャケットに奥方が登場しないので知らなかった。長期のツアーで家を離れる。人気があるので自然と女性も寄ってくる。浮気もしたと正直に語っていた。1993年に脳梗塞で倒れ、そこからの闘病が「鍵盤の帝王」の強さをみせる。左手は不自由だったが諦めることなくピアノに向かう。それでも「三本の腕」があるのかという音を出す。感心したのは倒れる前、一緒に演奏していたレイ・ブラウンがピーターソンの僅かなミスに気付くことだ。素人耳では音数が多くて一音外しても判らぬが、そこは長年コンビを組んできた最強のザ・トリオのなせる技である。

 93年に惜しまれつつ閉店した神田神保町のジャズ喫茶「響」の店主大木俊之助氏は、ピーターソンの研究家として知られる。嬉しいことに当ブログの最初のフォロワーさんだ。氏のサイト「響庵通信」によるとピーターソンは、20歳(1945)から71歳(1996)までに297枚のアルバムを残しているという。小生が聴いたのはその半数にも満たないが、どれを聴いても楽しい。メロディーは作者の意図を尊重しより美しく、アドリブは変幻自在だ。さて今宵は何をリクエストしよう。
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