デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

単身渡米した翌年、秋吉敏子はニューポート・ジャズフェスのステージに堂々と立った

2023-06-25 08:22:25 | Weblog
 先週21日の新聞に「札幌ドーム増収策苦戦・中規模コンサート0件」の見出しがあった。日本ハムファイターズが北広島市に本拠地を移転したことによる減収対策として、ドーム内を暗幕で仕切り、二分割して2万人以下のコンサートを誘致するという。総事業費10億円と公表されているが、実際はこの数字を上回ったに違いない。またも札幌市民の税金が無駄に使われた。

 二分割といえばヴァーヴのニューポート・ジャズフェスのライブ盤だ。特に1957年は多くの専属プレイヤーが出演したのでここぞとばかりにノーマン・グランツの商魂が露骨に出る。出演者が多いためステージの持ち時間は短いので1枚のレコードは作れない。ならばカップリングだ。全盛期のエラ・フィッツジェラルドと健康を蝕まれつつあるビリー・ホリデイ。ディジー・ガレスピーと組んだメアリー・ルー・ウィリアムスと、カウント・ベイシーをバックにしたジョー・ウィリアムス.。A面はルビー・ブラフとピー・ウィー・ラッセルの共演で、B面はストライド・ピアノの名手ボビー ヘンダーソン・・・

 挙げるときりがないが、やはり一番は我らが秋吉敏子だ。ジーン・チェリコとジェイク・ハナをバックに時には振袖のように艶やかに、時には大和撫子のようにお淑やかに、時にはアメリカ流のジャズの語法で積極的に弾いている。単身渡米した翌年とは思えないほど堂々としているのが嬉しい。日本で何度も演奏したであろう「Lover」で、一気にテンポを上げていくアドリブは何度聴いてもゾクゾクする。B面はこのステージで一躍有名になった盲目のアコーディオン奏者レオン・サッシュの演奏が収められている。因みにイントロでリー・モーガンというベーシストが紹介されているが勿論別人。

 本年度は6件の中規模コンサート開催を目指しているそうだが、恐らく0件だろう。来年度以降もだ。デビューしたてのアーティストに目標や夢を聞いたら、間違いなく武道館やドームを満席にすることだと答える。客席が半分だとミュージシャンは気落ちしてやる気にならないだろう。東京ドームはかつて「ビッグエッグ」の愛称で呼ばれていた。今日日、卵が高いとはいえ半分に割った卵は誰も買わない。
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

きっとアストラッド・ジルベルトはイパネマの風になったのだろう

2023-06-18 08:38:28 | Weblog
 今月5日に亡くなったアストラッド・ジルベルトの「イパネマの娘」を聴いたのは、ラジオ番組「ミッドナイト・ジャズレポート」だ。55年以上も前になる。番組の提供はポリドール・レコードで、当時発売権を持っていたヴァーヴ・レーベルの新譜が毎週かかった。DJは成瀬麗子さんで、その艶っぽい声に悩殺された。後にアラン・ドロンの吹き替えで有名な野沢那智さんの奥様になる人だ。

 ジョアン・ジルベルトの静かなギターと呟くようなポルトガル語のヴォーカルに続いて、アストラッドが英語詞で歌いだす。クールでアンニュイ、そして甘ったるい声と自然な歌唱に引き込まれた。それまでに聴いてきたコニー・フランシスやブレンダ・リー、ペギー・マーチとは違う。「大人の歌」とはこういうものかと漠然と思ったものだ。そしてスタン・ゲッツの煌めくソロ。ジャズを聴きはじめの耳には刺激が強い。思わず口ずさみたくなるメロディーと魅力的な歌声、起伏に富んだアドリブ、ボサノヴァを代表するナンバーに小生同様、虜になった少年少女は数知れずだろう。

 ビルボード誌1964年のアルバム・チャートで2位に達する大ヒットの「Getz/Gilberto」だが、録音中のトラブルは有名だ。飛び入りで参加したアストラッドにギャラを出すなとゲッツが言う。一方、ジョアンはゲッツがボサ・ノヴァを正しく理解していないとポルトガル語で怒る。言葉が分からないゲッツが捲し立てる。修羅場のスタジオだが、結果的にはアメリカにボサ・ノヴァを広め、アストラッドを有名にした。性格の悪さが取り沙汰されるゲッツだが、62年にチャーリー・バードと組んで大ヒットした「Jazz Samba」の二匹目のどじょうを釣った商才は大したものだ。

 匂いは懐かしい記憶を蘇らせるという。所謂プルースト効果だが、声も同じような利き目があるのではなかろうか。成瀬さんのハスキーな声は残念ながら聞けないが、アストラッドは55年前と同じ声で今でも聴けるのが嬉しい。「イパネマの娘」をかけて少年の頃を想いだすと少しばかり若返ったような気がする。ボサ・ノヴァの女王、アストラッド・ジルベルト。享年83歳。合掌。
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする