デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

中平穂積氏が聴いたジャズ、視たジャズマン

2025-01-26 08:23:49 | Weblog
 新宿のジャズ喫茶「DIG」とバー「DUG」の創業者、中平穂積氏が昨年12月1日に逝去された。SJ誌の広告欄を頼りに「DIG」に初めて行った時、空席待ちの行列に驚いたものだ。店内は喫茶店というよりジャズ道場と言うほうが相応しい。当時30代半ばのマスターは全身ジャズに染まったオーラがあり近寄りにくかったが、レコードを真剣に聴く学生を優しい目で見ていた。

 氏はジャズ写真家としても著名な方で「JAZZ GIANTS1961-2002」(東京キララ社刊)は50年にわたり撮り続けた貴重なジャズマンの姿が収録されている。音が聴こえてくるステージも魅力だが、普段見ることができないオフショットは貴重だ。モンクと肩を組む白木秀雄、パパ・ジョーに何やら冷やかされている様子のトニー・ウィリアムス、ピアノを弾くデイブ・マッケンナの指先を真剣に見ているサッチモ、ビリヤードに興じるアンソニー・ブラクストン、「Fickle Sonance」のジャケットと同じようなチェックのバケットハットを被って羽田に降り立ったジャッキー・マクリーン・・・

 なかでもニューポート・ジャズ・フェスの観客席の1枚は珍しい。マイルスが振り返って後列にいるニーナ・シモンと話をしているではないか。年代は記されていないが、シモンは70年にアメリカを離れているのでおそらく60年代後半と思われる。音楽の話だろうか。CBSとRCA、ともにメジャーにいる二人、契約のことだろうか。あるいは「シシリーとうまくやっているの?」。「フェラーリの新車買ったから乗せてやるよ」とでも。ビッグネーム二人がいても周りの観客はステージを見ている。これが本場のジャズの楽しみ方なのだろう。この写真集にあるのはファインダーから覗いたジャズの感動である。

 1960年代の新宿は当時ジャズ喫茶と呼ばれていたロカビリーの聖地「新宿ACB」に、ジャズレコード専門店「オザワ」、ジャズ・ライブは「PITINN」、そして「木馬」、「PONY」、「ビザール」のジャズ喫茶が賑わっていた。その中心でジャズ文化を積極的に発信したのが「DIG」だ。ジャズを愛し、ジャズマンに愛された中平穂積氏。享年88歳。合掌。
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SWING 2025

2025-01-05 08:31:01 | Weblog
 明けましておめでとうございます。手元に置きたい絶対的名盤、聴いておきたいジャズシーンを変えたレコード、魂を飛ばす奇盤、不思議な魅力がある珍盤までモダンジャズを中心に幅広く話題にしてきた当ブログは20年目に入ります。ここ数年は不定期更新でしたが毎日多くの方にご覧いただき総訪問者数100万、閲覧数250万を超えました。感謝申し上げます。

 正月恒例の福笑いは「Duke's Big 4」を選びました。録音時、エリントンは73歳です。今年は私も同じ年齢になるせいか顔つきが似てきました。ギターは志藤奨さん。店のマネジメントに黒岩静枝さんのスケジュール調整と多忙ですが、そのピッキングのように軽やかにこなします。バンドリーダーの佐々木慶一さん。魂のこもったスティックの一撃は快感ですし、多くのドラムレッスン生を持つ先生でもあります。そしてこのジャケットを作った鈴木由一さん。安定したベースラインでシンガーを支えます。私の根城「DAY BY DAY」の素敵なメンバーです。

 1973年に録音されたパブロ盤はジャズ界最大のレジェンドが、それぞれの楽器を極めたジョー・パス、ルイ・ベルソン、レイ・ブラウンと組んだ異色のセッションです。3人は当時40代でしたので御大とは親子ほど年の差があります。緊張と興奮、そして感動。ミスター・ヴァーチュオーゾの流麗なラインに絶妙なシンバルのタイミング、歌心満点の太い低音でアグレッシブなピアノをサポートしています。「Prelude to a Kiss 」や「Just Squeeze Me」というエリントン・スタンダードが新鮮に響くのは世代を超えた一体感と適度の張り詰めた空気感がもたらすのでしょう。

 ここ数年ジャズ喫茶の閉店が相次ぎ、それに伴いリスナーも減ったと言われていますが、ジャズ史を彩る名盤がCDと併せてレコードという形で次々と再発されています。レコード店で流れていた4ビートに魅せられて新しいファンが生まれたのも事実です。アルバム選びに迷ったとき、当ブログが指針になれば幸いです。今年もよろしくお願いいたします。
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