デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

MJQ

2006-07-30 07:37:36 | Weblog
 最近読んだ本にフェミニズム系文学者の下河辺美知子さんが、篠原沙里のペンネームで書いた「スマップ・ウォッチング」がある。スマップ・ファンではないが、サブタイトルの「アイドルで平成日本社会を読み解く」に惹かれた。老若男女幅広いファン層を持つスマップの話で、芸能界に疎い小生でも名前と顔が一致するくらいの国民的なアイドルだ。歴史を動かしてきたイデオロギーは、大衆文化の中にこそ息づいてきたという著者の観点からスマップを観察していて興味深い。

 グループの場合、メンバーの名前が売れると直ぐに独立というケースが多い中、不動のメンバーで活躍しているのは驚異なのだが、それでいてドラマ、CM にとメンバー個々の活動にも制約がない。 MJQ の名で知られるモダン・ジャズ・カルテットと似ている。52年に発足以来、55年にドラマーがケニー・クラークからコニー・ケイに変わっただけで74年に解散するまで不動のメンバーで活動していた。MJQ 以外でもジョン・ルイス、ミルト・ジャクソン、パーシー・ヒース、ケイ、それぞれセッションは数多い。

 近年、多様化するジャズ界だが、MJQ はどの時代を聴いても大きな音楽的変化はなく、グループ表現は揺るぎのないものだ。4半世紀にも及ぶ MJQ の活動期間にはスタイルや音楽性の変遷もあり、変貌を遂げたプレイヤーも数多い。時代の流れに迎合したり、自らの音楽的発展により変わることも必要だろうし、それもジャズが発展、進化するうえでは重要なことだとも思う。が、時として変わらないスタイルも切要でもある。それが完成されたフォームなら尚更だ。

 大学でも教鞭をとっている篠原さんの、やや追っかけ的な著書によると、全国どの地方都市に行っても会場周辺に見られる現象で「スマップ渋滞」というのがあるそうだ。今日、我妻は「世界に一つだけの花」を歌いながら足取りも軽やかに、その「スマップ渋滞」の札幌ドームに朝早くでかけた。当分我が家では、「キムタクがねぇ・・・中居君がさぁ・・・」が続きそうだ。
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素敵なあなた

2006-07-23 07:30:00 | Weblog
 先週、小ブログのコメント欄デビューを飾った ALL_OF_ME さんから、以前、ルイ・プリマのレコードを教えてとメールを頂いた。ベスト盤を購入以来はまっているらしい。ベスト盤が出ているくらいだから、相当数の音源があるのだろうが、生憎ルイ・プリマをまともに聴いたことがない。精々「シング・シング・シング」の作曲者として名前を知っているくらいで、夫人のキーリー・スミスとおしどりコンビでヒットした「素敵なあなた」くらいしか聴いていない。まだまだ聴いていない音源、聴かなければいけないレコードが多いことを改めて知った。

 「素敵なあなた」の原題は「 Bei Mir Bist Du Schoen 」で、ヘブライ語、スラブ語、ドイツ語がまざったイディッシュ語だそうで、舌を噛みそうな発音だ。32年に作られた古い曲でプリマ夫妻、アンドリュース・シスターズ等唄物が多い。ベニー・グッドマンも38年のカーネギー・ホール・コンサートで演奏していたが、こちらもマーサ・ティルトンのヴォーカルをフィチャーしていた。このリズミカルな曲をブッカー・アービンが「ヘヴィー」で取り上げている。

 アービンは特色のある音色と逞しいフレーズが持ち味で、高く評価されながらも人気とは無縁のまま他界した。チャールス・ミンガスのグループにいたが、余計なソロを吹くとジミー・ネッパーみたいにミンガスに殴られ、歯を折られてはいけないとばかりに大人しい。その鬱憤を晴らすかのようにリーダー作は吹きっぱなしだ。「素敵なあなた」は12分を超える長尺で、ジミー・オーエンスやガーネット・ブラウンのソロも入るが、アービンの独壇場のソロが素晴らしい。アルバム・タイトル通りヘヴィーな仕上がりで印象深い一枚だ。

 この曲はエラ・フィッツジェラルドと、ヘレン・メリルも唄っている。耳元で「素敵なあなた」と囁いてくれるなら、「さぁ、あなたはどっち?」 勿論、お二人がお若い頃の話だが・・・
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7月17日

2006-07-16 09:09:09 | Weblog
 テレビの深夜番組でメイド喫茶をレポートしていた。所謂「萌え~」の世界で、オタクと呼ばれる客を、「いらっしゃいませ」ではなく、「おかえりなさいませ」と迎えるらしい。初めて店内の様子を見たが、アキバ系オタクが好みそうな異様な空間だった。思えば紫煙の漂う薄暗いジャズ喫茶で、不味そうにコーヒー啜りながら、ジェームズ・ボールドウィンの文庫を開き、大音量のジャズに浸っていたあの空間もまた奇異には違いないが、メイド喫茶のそれとは異質なものだ。

 ジャズ喫茶黄金時代、ビリー・ホリデイとジョン・コルトレーンの命日が重なる7月17日は、どちらかのレコードをかける慣わしになっていた。ホリデイ、コルトレーン、どちらを優先するのか、更にコルトレーンはプレステイジ、アトランティック、インパルスのどの時代をかけるかによって、店のポリシーが表れていて面白い。小生など祖父母の命日は忘れても、この日だけは憶えている罰当たりなのだが、ジャズファンは案外忘れない日でもある。

 メイド姿の写真は木村恵子さんのシングル盤ジャケットで、コルトレーンの自費出版レコード「 Cosmic Music 」、藤岡靖洋さん編纂のコルトレーン・ディスコグラフィーと併せてトレーン・ファンの三種の神器といわれている。(笑)「コルトレーンで愛して」というタイトルだ。作詞は若かりし頃ジャズ評論を書いていた湯川れい子さんの手によるもので、「もう一度コルトレーンで愛して 贅沢に 指さえ触れもせず・・・」と、かなり怪しい。このレコードを大切に持っている小生は更に怪しが・・・(笑)

 メイド喫茶は当地にはないし、たとえあったとしてもドアを開けるには相当の勇気が必要だが、写真のような可愛い女性が、「おかえりなさいませ、ご主人様」と迎えてくれるのも満更ではない。エプロンの下に何も・・・おっと、こちらはビリー・ホリデイの「ラブ・フォー・セール」の世界でした。
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団塊のジャズ

2006-07-09 07:31:55 | Weblog
 平成17年度版農業白書の中に、新規就農者として、19年以降、定年退職を迎える団塊世代に強い期待を示した内容があった。当地は玉葱の産地でもあり、農業に従事している知人もいるが、政府が考えるほど就農は簡単ではない。作物を育てるのは数年、時には数十年というスパンで捉えないと良い物は作れないものだ。今日種を蒔いて、明日芽が出るわけではない。

 団塊世代向けの商品が相次いで発売されているが、写真は最近 CD 発売された白木秀雄さんの全盛期の作品「ステレオ・ドラム」というアルバムで、団塊世代が青春の頃の一枚だ。アート・ブレイキーやホーレス・シルバーと交友があった彼らしいファンキーなスタイルで、今聴いても何の遜色もない。リアルタイムで白木さんを聴いていないが、当時の人気は凄まじく今のアイドルの比ではなかったようだ。当然、女性にもて女優の水谷良重さんと結婚したが、この時ふられたのは、いつもコメントをお寄せ頂く 25-25 さん情報によると朝○雪○さんだそうだ。ジャズ界のみならず芸能界の寵児でもあった。小ブログとリンクさせて頂いている喫茶パウエルのマスターが、いみじくも「天国と地獄をみた男」と評しておられたが、人気衰退後はゲイバーで働き、孤独な死を迎えている。

 先日、近くの町で若手ピアノ・トリオを聴いたが、空席が目立った。内容は別稿に譲るとして、採算度返しの町主催とはいえ、関係者からギャラを聞いて喫驚した。間にプロモーターが絡むので本人に幾ら渡るのか分からないが、この北海道ライブで幾ら稼ぐものかと、いらぬ皮算用もしたくなる。いつも満席だった全盛期の白木さんは、ワンステージ50万とも言われている。当時人気を二分したジョージ川口さんは、10日間の北海道ツアーで400万だった。美空ひばりさんとも親交があった本間興業の仕切りで、一流のホテルも用意されていたという。

 「ステレオ・ドラム」は1961年、昭和でいうと36年の録音で、当時、大学卒の初任給が1万5千円の時代だった。当時の50万、400万というギャラが今ならどのくらいの価値があるのか、どこぞの銀行の総裁に訊いてみたいものだが、「ど素人なので分かりません」という答えが返ってきそうだ。
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アゲイン

2006-07-02 07:57:54 | Weblog
 春に始ったテレビドラマが最終回を迎える時期で、その中に「プリマダム」があった。黒木瞳さんが主演で、若い頃目指したプリマドンナの夢を再び実現しようと、バレエのレッスンに励む内容で、9時台の笑いと涙のお決まりのストーリーなのだがなかなかに面白い。最終回は感動的でもあった。中森明菜さんが「母親 A 」で出演していて、「少女 A 」時代からの明菜ファンの小生は毎週欠かさず観ていた。

 エロティックなジャケットが売りのヴィーナス・レコードから、32年生まれのエディ・ヒギンズのアルバムが大量に出ている。売れるから次から次へと出すのだろうが、どのアルバムもスタンダード中心の選曲で、確かに日本人向きではある。若い頃は VJ 盤でリー・モーガンやウエイン・ショーターと共演していて、ディキシー・バンド出身とは思えない、モダンなフレーズも随所で聴ける。ブランクもあり忘れられていた存在なのだが、日本でプロデュースし、再びの登場と相成ったようだ。

 バレエのレッスン風景のジャケットに惹かれて買った一枚が「アゲイン」と題されていて、これもスタンダードのオンパレードだ。円熟した味わいと評価する向きもあるが、ホテルのラウンジのアクセサリーのようなもので、どうにも印象薄い。ブランク期間に練習を怠ったのだろうか、スウィング感がない。サビの利いていない寿司とでもいうのか、ヘアのないヌードとでもいうのか、ジャケット写真ほどの刺激はなかった。何かと忙しいこの時代、癒し系のソフトなものが求められているのかもしれないが、こういう作品ばかりがセールを伸ばしているのは寂しい。

 「プリマダム」には元プロダンサーの小林十市さんも出演していてプロの妙技をみせてくれた。祖父は人間国宝の落語家、故五代目柳家小さんという家柄だ。同じダンサーの熊川哲也さんの著書「ドメイン」に、「バレエは一日レッスンを休めば自分にわかり、二日間休むと先生にわかり、三日間休むと観客にもわかる」という教示的な一節があった。バレエ、落語に限らず、一芸を極めるためには練習は欠かせない。
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