デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

カウント・ベイシーの遺言書

2017-11-26 09:19:42 | Weblog
 「ロング・アイランドのファーミングデイルにあるパイン・ローン霊園に、遺骨を埋葬すること」。カウント・ベイシーの遺言書の第一条である。法律家ハーバート・E・ナスの著書「遺言 Wills of the Rich and Famous」(青山出版社)から引いた。原題の通りケネディをはじめマリリン・モンロー、ジョン・レノン、ハンフリー・ボガート、フレッド・アステア、ウォルト・ディズニー、アルフレッド・ヒッチコック等、著名人の遺言を集めたものだ。

 各人の項にそれぞれ捻りのあるタイトルが付いている。ロック・ハドソンは「キャッスル・ロック最悪の日」、コール・ポーターは「すべてが可能 Anything Goes」、F・スコット・フィッツジェラルドは「楽園のむこう側」、そしてベイシーは「10カウント後も立ち上がることなく」とある。ベイシーが1984年に79歳で亡くなった時、暮らしていたのはグランド・バハマ島フリーポートだった。この書でも触れられているが、熱帯の楽園よりも北部の土のなかのほうが安らかに眠れると思ったようだ。

 生前暖かい土地を好んだベイシーなので数あるアルバムから1959年の「Breakfast Dance And Barbecue」を取り出した。マイアミのホテルのライブだ。ライナーによるとNYのバードランドのステージを終えたあと、マイアミに移動して深夜に演奏したそうだ。しかも、朝方とんぼ返りして再びバードランドに上がったという。「In A Mellow Tone」に始まり、「Counter Block」や「Moten Swing」をはさみ、エンディングは「One O'clock Jump」という何度も演奏した曲ばかりだが、各人のソロも溌溂としているしバンド全体のスウィング力は強烈だ。一流のバンドはタフであることも不可欠なのだろう。

 資産家の遺書を読むと、その配分に相当神経を使っているのがわかる。天国から身内の争いを見たくないのだろう。あればあるほど、相続人が多いほど面倒で、死後も継続的に入る印税があったり、愛人や隠し子がいると更に複雑だ。同書に遺言書のかき方が載っていた。争いの種になるような財産はないので必要はないが、もし書くなら第一条は決まっている。「レコードは・・・」。
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1833年、アラバマに星が落ちた

2017-11-19 09:29:07 | Weblog
 記録によると1833年の11月12日から11月13日にかけてとあるから184年前の今頃になる。「この世の終わりだ」とか「世界が火事だ」と大騒ぎになった獅子座流星群の大出現だ。外が昼間のように明るいので寝ていた人が目覚めるほどだったという。今でこそ正確な出現日時や観測できる場所を知ることができるが、コンピューターは疎かケック天文台も建設されていない時代だから驚くのも無理はない。

 アラバマ州でも観測されたこの現象を作家のカール・カーマーが「The Night the Stars Fell」というタイトルで民話集に綴っている。このタイトルからヒントを得て「ハワイアン・アイ」や「サンセット77」、「パームスプリングの週末」等、テレビや映画音楽を手掛けていたフランク・パーキンスが「Stars Fell On Alabama」のタイトルでメロディーを書いた。詞は「Stardust」や「Sophisticated Lady」、「Moonlight Serenade」で有名なミッチェル・パリッシュが付けている。流れ星から恋が生まれるというロマンティックなものだ。雨のように星が降るなかで愛は語れそうにないが、そこは歌の世界である。

 数ある名演からキャノンボールを聴いてみよう。59年にマイルス・バンドがシカゴでライブを行った時、親分の目を盗んで録音したものだ。コルトレーンにケリー、チェンバース、コブ、最高のメンツである。シーンは変わろうとしていた時代だ。それぞれに将来を模索していた頃だけに所謂マイルスの呪縛から逃れて思いっきりプレイした傑作といっていい。この曲はキャノンボールのワンホーンで、ゆったりとしたテンポでめくるめくフレーズを重ねる。音色と曲調がピッタリだ。ケリーのソロは前半盛り上がりを欠くがキャノンボールにつなぐタイミングでケリー節を出す。うまいなぁ、やるねぇ、と思わずため息がもれる。

 1833年の日本というと天保4年で、江戸幕府の将軍は徳川家斉である。歌川広重がゴッホにも影響を与えたと言われる「東海道五十三次絵」を描いたのはこの年だ。広重の「名所江戸百景」の一つに「両国の花火」がある。当時の花火は今と違い多色ではないので浮世絵のように橋を浮かび上がらせるほど明るくなかったそうだが、もし広重が流星群を見たならどんな絵にしただろうか。
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Trump Swing , Como Swings

2017-11-12 09:00:00 | Weblog
 「空飛ぶホワイトハウス」とも呼ばれる「エアフォース・ワン」に、どうやって日本に運んだのだろうと頭をひねる大統領専用ヘリコプター「マリーン・ワン」、装甲車並みの防御力を誇り、価格は1台17億円ともいわれる専用自動車「ビースト」こと「キャデラック・ワン」、そしてアリ一匹入れない屈強なシークレット・サービス、大統領が訪日するだけで一体どれだけの経費がかかるのだろうと要らぬ心配をしてしまう。

 日米首脳会談はゴルフで幕を開けた。ゴルフは若い頃かじった程度のド素人だが、トランプ大統領のスウィングをみるとなかなかに力強い。そしてペリー・コモのように自信にあふれているし楽しそうだ。コモはシナトラと並ぶエンターテイナーだが、ジャズヴォーカル・ファンの間で名前が挙がることはない。ポピュラー畑であることと、シナトラと異なり浮いた話もなければ裏社会とのつながりもないからだろうか。何せマフィアとの関係を嫌い、カジノでの公演を拒否したクリーンなシンガーである。少しばかりスキャンダラスな方がジャズファンの好奇心を掻き立てるのかもしれない。

 Como Swings・・・ジャケットとタイトルだけでニンマリするアルバムである。ポピュラーシンガーがジャズ寄りのアルバムを作ろうとしていたなら「やられた」と叫ぶタイトルだ。編曲と指揮はコモの相棒のミッチェル・エアーズで、スウィング溢れる編曲をバックに気持ちよさそうに歌っている。「St. Louis Blues」をトップに「I've Got You Under My Skin」、「Route 66」、「Mood Indigo」、「Begin The Beguine」・・・軽くフェイクするだけの本格的なジャズヴォーカルではないが、メロディーと歌詞の美しさを強調するならこの方がいい。RCAの「Living Stereo」は、この当時のステレオ録音としては群を抜いているのでコンサートホールで聴くような臨場感に包まれる。

  「シンゾー・ドナルド」の親密な関係をアピールして日本を後にしたトランプ大統領だが、北朝鮮の脅威を逆手にとってアメリカ製のミサイル防衛システムの売り込みに余念がなかったという。対日貿易赤字を抱えるアメリカにとっては大きな赤字解消につながる。不動産王だけあり国家間でも商売はうまい。2~3基で日本全土を防衛できるとされる「イージス・アショア」は、1基800億円するそうだ。訪日の経費を被せた金額なのだろうか。
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ニュージャージー州パターソン市出身バッキー・ピザレリ

2017-11-05 09:25:15 | Weblog
 パターソン・・・映画のタイトルである。米ニュージャージー州のパターソン市に暮らすパターソンさんの1週間を描いた作品だ。日本なら埼玉県川口市に住む川口さん、長野県飯田市の飯田さん、島根県大田市は大田さんだろうか。人のいいご近所さんという印象だ。毎朝決まった時間に起きてバス運転手の仕事に就く。夜は愛犬を散歩させながらバーに寄る。大きな事件や謎もないストーリーだが、ジム・ジャームッシュ監督の語り口に引き込まれた。

 グレートフォールズと呼ばれる滝で知られるパターソンの出身者を調べてみるとアレン・ギンズバーグがいた。ビート世代の詩人である。ラリー・ドビーという黒人としては2人目のMLB選手もいる。1962年にソニー・ロリンズと顔が似ているドン・ニューカムとともに中日ドラゴンズに入団しているのでご存知の方もいるだろう。そして、バッキー・ピザレリ。息子のジョン・ピザレリの方が有名だが、知る人ぞ知る7弦ギターの名手で、ジョージ・バーンズとのギター・デュオやベニー・グッドマン楽団で切れのいいリズムを刻んでいた。近年はウディ・アレン監督の映画「ギター弾きの恋」でリズムギターを担当していたのがバッキーだ。

 多くのアルバムから「Bucky Pizzarelli And New York Swing - Plays Rodgers And Hart」を取り出した。1993年の録音で、ビッグバンドから引っ張りだこのピアニスト、ジョン・バンチに、ジュディ・ガーランドやシナトラのバックに欠かせなかったベーシスト、ジェイ・レオンハート、スザンナ・マッコークルやローズマリー・クルーニーの録音に呼ばれるドラマーのジョー・コクーゾという昔からの仲間と和気あいあいのセッションを繰り広げている。「My Funny Valentine」に「Spring Is Here」、「Thou Swell」、「Fallin' In Love With Love」・・・ロジャース&ハートの佳曲を存分に楽しめる内容で、名コンビの曲作りの見事さに唸ることだろう。

 この映画に赤ちゃんからお年寄りまで多くの双子が出てくる。ウクライナにあるヴェリカヤ・コパンヤ村が双子で有名だが、このパターソン市も多いのだろうか。台詞もなく一瞬映るだけだが、登場する度に頬が緩む。いい作品の基準は主観によるが、映画館を出た後、バーで余韻に浸れるならそれは間違いなくいい映画である。一見代わり映えのしないパターン化した毎日の小さな変化を楽しみたい。
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