デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジャズ写真家、阿部克自さんが聴いた V-Disc     

2008-10-26 07:42:21 | Weblog
 葉巻に火をつけるベイシー、舌を出すブレイキー、コーナー・ポケットを狙ってキューをかまえるガレスピー、9月に亡くなったジャズ写真家、阿部克自さんの写真集「50 JAZZ GREATS from Heaven」の1ページ だ。寛いだオフの姿はジャズの巨人といえど身近な存在に映るが、プレイ中の写真は音を切り取ったかのような真剣な目を捉えている。元はギタリストの阿部さんは演奏中の姿が最も輝いていることをよく知っている写真家だった。

 写真の撮影に加えて、レコード・ジャケットのデザインにも卓越した才能を発揮したばかりか、エレック・レコードのKIVAレーベルから発売されたV-Discの監修にもあたっている。V-DiscのVはVICTORYで、第二次世界大戦中にアメリカ政府が兵士のためにレコード会社の枠を超えて製造したものだ。V-Disc専用の蓄音器と供に戦地にパラシュートで落とすというかなり乱暴な方法で配布したようだが、それは異国の戦地に届いた故郷からの懐かしい音や香りだったのかもしれない。当時としては新しい材質のビニライトを使用しているため溝にはポピューラー・ソングやクラシックの生き生きした音楽が刻まれていたという。

 V-Disc Ladies は女性歌手を集めたもので、ジューン・クリスティやケイ・スターの若かりし頃の歌声、エリントン楽団で活躍したベティ・ロシェの初吹き込みというコレクターズ・アイテムも収録された貴重なアルバムだ。珍しいのはマリー・グリーンで、経歴等はわからないが、艶のある美しい声は聴き手を別世界に誘う。シンガーとしてはVディスクに最も多く録音したというから兵士の間で人気があったのだろう。ガレスピーやパウエルも取り上げた「I Know That You Know」をアップテンポで歌い、「Solitude」と 「The Man I Love」はバラードでじっくり聴かせる。兵士たちは、故郷で「私の彼氏」を想い歌う恋人とマリーの声を重ねたに違いない。

 ジャズ写真を手がけるカメラマンを顕彰するミルト・ヒントン・アワードを初めて日本人で受賞した阿部さんは、多くのジャズミュージシャンに慕われた人だ。K.Abe の刻印はV-Discに刻まれた音が今でも胸を打 つように、ジャズの巨人の胸にもその名は深く刻まれていることだろう。
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デイヴ・ブルーベックの美脚ジャケットを秘かに愉しむ  

2008-10-19 07:56:48 | Weblog
 広末涼子、瀬戸朝香、真矢みき、菅山かおる、4人に共通するものは何だろう?直ぐに答えが出る方は芸能界に相当お詳しいか、あるいは小生同様、少しばかりフェチ傾向にある。今年のパーカッシオ美脚大賞に年代別、スポーツ部門で選ばれた人だ。テレビで出演シーンがあるとつい脚に視線が向いてしまうが、なるほど、負けず劣らず美しい脚である。4人の脚が咄嗟に思い浮かばない方のために、美脚の例を挙げてみた。

 デイヴ・ブルーベックのコール・ポーター作品集で、脚に対する美意識は日本もアメリカも同じようだ。昨今、内容よりもジャケットで売ろうという作品が目立ち、軒並み胸や脚を露出しているが、どうにも品がない。エロスというのは見えるようで見えない隠された部分を想像させることにより美意識が高まり、芸術に昇華するものだろう。それは作家の井上ひさし氏をして「ストリップ界の東京大学」と言わしめた浅草フランス座の踊り子の芸が猥褻ではないように、想像の余地すらない露出は、たとえそのアルバム内容が素晴らしいものであっても格が下がる。品とはスカート丈の僅かな差にも左右されるものだ。

 「エニシング・ゴーズ」の発売元は硬いコロムビアで、どちらかというとこちらも堅いブルーベックには珍しいジャケットだが、やはりそこはかとない品が漂う。「ラヴ・フォー・セール」、「ナイト・アンド・デイ」、「オール・スルー・ザ・ナイト」とお馴染みのポーターの代表曲が並び、タイトル曲は「テイク・ファイヴ」を思わせるブルーベックのイントロから流れるよう入ってくるよき相棒のポール・デスモンドが、短いながら絶品のソロを取っている。映画「インディ・ジョーンズ」でも使われていた「エニシング・ゴーズ」は、主人公の考古学者が持つ品を音楽で表したものかもしれない。

 えっ!ジャケットが逆さまでは?ブルーベックとデスモンドの品のあるソロに浸るのもいい、ポーターの作品をじっくり味わうのもいい、ジャケットを逆さまにして美脚を観賞するのもいい、anything goes~何をしても構わない、楽しみ方は色々である。
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ファイヴ・スポット・アフターダークをリクエストしたことがある ○ ×

2008-10-12 08:07:14 | Weblog
 NHK-FMで10月の体育の日に放送していた「オールデイ・ジャズ・リクエスト」は、タイトル通り視聴者からリクエストを募り、ライブも中継しながら丸一日ジャズを楽しめるラジオ番組であった。いつの放送だったか忘れてしまったが、番組の最後でリクエストを集計したベストを発表したことがある。「モリタート」、「レフト・アローン」、「ワルツ・フォー・デビー」等々、満場一致の名演が並ぶ。さて、1位は・・・

 「ファイヴ・スポット・アフターダーク」だった。蝶が羽根を広げているようにも見える女性ダンサーをあしらったジャケットを見る、いや、思い浮かべるだけで音が聴こえてくるカーティス・フラーの「ブルースエット」の冒頭を飾る曲である。アルバムにも参加しているベニー・ゴルソンの作で、哀愁を帯びたメロディと、トロンボーンとテナーが織り成す甘美なハーモニーは夕暮れの感傷を呼び起こすものだ。ファイヴ・スポットはニューヨークにあるジャズクラブで、フラーとゴルソンが一年契約の専属バンドとして出演していたことがある。毎晩熱心に聴き入るお客と、腕を磨いた場であるファイヴ・スポットに捧げた曲で、タイトルでクラブへの感謝と愛着を示したのだろう。

 多くのトロンボーン奏者がいるが、フラーほど美しい音色は聴いたことがない。フラーはデトロイトからニューヨークに進出した57年に5枚のリーダーアルバムを録音している。期待の大きさが窺えるものだが、その後の活躍をみても期待を裏切ることはなかった。57年のプレスティッジ、ブルーノート盤は若干22歳という若さゆえの硬さがあるもののリラックスした味わいがあり、その落ち着かせる音色は59年のこのアルバムで更にゴルソンのアレンジにより引き立っている。管の柔らかいハーモニーを活かせるフラーは、ハードばかりがジャズでないことを教えてくれるものだ。

 リクエスト番組でトップの曲は、当然ジャズ喫茶でもよくかかったが、このアルバムがかかると席を立ちかけた人も座りなおし、この曲の途中で席をあとにするお客もいなかった。名曲、名演、名盤の力である。
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ライオンの値段、アンドレ・プレヴィンのキングサイズ

2008-10-05 08:16:52 | Weblog
 先日、毒ヘビを販売した動物輸入商が逮捕される事件があった。全国のマニアに毒ヘビを売ったと供述しているから怖ろしい話である。毒ヘビの売買価格は報じられなかったが、動物輸入の業界で名の知れた人に白輪剛史氏がいて、動物の値段は生息数、入手難易度、輸送難易度等により価格が決まるという。毒ヘビを飼うマニアもいるぐらいだから百獸の王ライオンを飼育するマニアがいても不思議ではないが、ライオンの値段は45万円だという。

 練り歯磨き粉のキングサイズの宣伝を思わせるジャケットは、映画音楽家、クラシックの指揮者、そしてジャズ・ピアニストの顔を持つアンドレ・プレヴィンのアルバムである。シェリー・マンの「マイ・フェア・レディ」でジャズ・ピアニストとして頭角を現したプレヴィンのリーダー作中、ライオンのように威風堂々とした作品で、後の知性あふれる多分野での活躍は想像も付かない完全なバップスタイルだ。ジャズ・ピアニストとしてその道を歩んでいたならおそらく頂点に達したと思うが、多彩な才能は枠を超えて発揮されることになる。音楽的センスのサイズは量れないほど大きなものだったのだろう。

 スタンダード中心の選曲だが、とりわけ「イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー」は、バド・パウエルの名演に迫るものだ。こんな話がある。プレヴィンが「バードランド」に行くと、演奏が始まり場内が暗くなったとき、黒人が入ってきて席の空いているプレヴィンの隣に座った。熱心に聴くのかと思いきや、プレヴィンの肩に寄りかかり眠りはじめ、ついには膝で眠り込んだそうだ。演奏が終わり場内が明るくなり演奏していたハリー・エディソンがプレヴィンを見つけて、「バド・パウエルに会いたくはありませんか」と。「あんな神様みたいな人には会えないでしょう」。膝枕で寝ていたのは神様だったという。プレヴィンはパウエルの肌の温もりでバップのエッセンスを会得したのかもしれない。

 白輪氏の著書「動物の値段」によるとシャチは1億円で、今話題の夢をかなえるゾウは3000万円だという。ライオン同様、飼育は半端な金では追いつかないというから個人で飼うのは止めたほうがよさそうだ。勿論プレヴィンの「キングサイズ」には値段が付けられない。
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