デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ベティ・コムデンとアドルフ・グリーンの明るいコンビ

2017-02-26 09:15:10 | Weblog
 「ジュールがまた素晴らしいメロディを書いてくれたんです。それは第二幕の途中で歌うデュエットで、あまりに受けてショウが止まってしまったほどですから。本当ですよ、そんなところでショウを止めてしまうバラードなんて滅多にあるものじゃありませんからね。」と作詞家のベティ・コムデンが絶賛している。村尾陸男著「ジャズ詩大全」(中央アート出版社」から引いた。

 ジュールとはジュール・スタインで、曲は「Make Someone Happy」だ。詞は先のコムデンとアドルフ・グリーンの共作による。1960年のミュージカル「Do Re Mi」のなかの曲というからスタンダード・ナンバーとしては比較的新しいほうになる。「B. Comden-A. Green」のクレジットはよく見るものの咄嗟に曲が出てこない。同書によると53年の「Wonderful Town」、68年「Hallelujah, Baby」、そして70年「Applause」でトニー賞を三度取っているという。また、レナード・バーンスタインと組んだ「On the Town」、 「Do Re Mi」同様スタインと組んだものでは「Peter Pan」というヒット作もある。

 その名コンビの「Make Someone Happy」は、タイトル通り少し落ち込んでいるときに聴くとたちまち幸せになる曲だ。明るい曲を歌うならドリス・デイに限る。ジャケット、アルバムタイトル、「I Want To Be Happy」や「Clap Yo' Hands」といった収録曲、アレンジと指揮はニール・ヘフティ、これだけ揃えば太陽に負けない。滅多に歌われないヴァースを朗読してから、やんわりとテーマに入っていく洒落た仕掛けに唸る。下手なシンガーがこれをやると野暮ったいばかりか曲を壊してしまうが、ドリスが歌うとただでさえ整った曲が一段と格調高くなる。一流シンガーの粋を技をみた。

 作曲家と作詞家のコンビはよくあるが、コムデンとグリーンのような作詞家のコンビは珍しい。それも同級生の女性と男性である。二人の作品を調べてみると作詞の他に、「Singin' in the Rain」や「The Band Wagon」というヒット作の台本も手掛けている。詞も台本も前向きで明るいものばかりだ。気心の知れた男女のコンビだからこそネガティブにならないのだろう。
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ジャック・ウィルソンは線路を歩いてどこに向かう

2017-02-19 09:27:50 | Weblog
 ネットを開くとニュース画面が出るように設定してある。プロ野球シーズン中はまず前日の全試合を隈なくチェックするのだが、オフは政治経済社会面から目についた記事をランダムに開く。見出しを眺めていると芸能欄にアイドル音痴でも知っている名前があった。松本伊代と早見優だ。この二人がJR山陰線の線路内に無許可で立ち入り書類送検されたという。

 線路といえばジャック・ウィルソンだが、こちらは正当な理由がある。列車が故障したので已む無く次の駅まで歩いている、ということにしておこう。ブルーノート盤に隠れて目立たないアルバムだ。それもそのはず、LAのマイナーレーベル「Vault」なので入荷も少なければ国内盤など出るわけもない。「Evening Trane」でモードに挑戦したハンプトン・ホーズの「High in the Sky」や、ラリー・バンカーの唯一のリーダー作で、ゲイリー・バートンがフューチャーされている「Live At Shelly's Manne-Hole」が、10枚ほどリリースして消えたレーベルの傑作として知られる。

 「Vault」には3枚あるが、この「Ramblin'」が一番いい。まず、アトランティック時代から付き合いのあるロイ・エアーズとの阿吽の呼吸が聴きどころだ。そして選曲も意欲的で、オーネット・コールマンのアルバムタイトル曲に、オリヴァー・ネルソンの「Stolen Moments」、コルトレーンの「Impressions」、そしてラテン系ではないのにボサノヴァ・アレンジで映える曲を書くクレア・フィッシャーの「Pensativa」がなかなかに面白い。曲名は「物思いに耽る女性」を意味するそうだが、物思いよりも行動あるのみでガンガンいく。線路の先にあるのはブルーノートという大きな駅である。

 お騒がせの元アイドルの二人は、「花の82年組」と呼ばれているそうだ。クリックしたついでに見てみるとジャズアレンジのアルバム「姫ダブル・ディケイド」で名前を覚えた中森明菜に堀ちえみ、三田寛子、小泉今日子、石川秀美、原田知世、斉藤慶子等々、多くのアイドルが1982年にデビューしている。当時16歳だとしても50を超えている。「恥の82年組」ではちと情けない。
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西直樹に北北西のいい風が吹いた1980年

2017-02-12 09:23:01 | Weblog
 過ぎた雑節の話で恐縮だが、節分といえば「鬼は外、福は内」の豆まきと相場は決まっている。ところがここ数年恵方巻なるものが流行のようで我が家の食卓にものぼった。福を呼ぶ方角を向いて太巻きを食べる関西の風習がコンビニの商業ベースに乗って全国に広がったようだ。今年の恵方は「北北西」とか。これを「きたきたにし」と読み間違えた女子アナウンサーがいたという。

 北北西といえば「北北西に進路を取れ」というヒッチコック監督の名作を思い出すが、ここは間違ったついでに「来た来た西」でレコードを探した。西直樹がライブ録音するイイノ・ホールに到着が遅れたので、共演する山口和与と猪俣猛が言ったと仮定しよう(初リーダー作なのでおそらく一番乗りしたと思われる、誤解なきよう)。録音は1980年で、その年のSJ誌国内最優秀録音賞を受賞している。フュージョンが跋扈する時代ならではのヒップなジャケットだが、内容はストレートなピアノトリオだ。当時、まだ日本のジャズは大丈夫だなと思ったのを覚えている。

 猪俣のバンド、ザ・フォース時代から注目されたピアニストのデビュー作は期待通りの素晴らしい内容だ。ダイナミック且つ繊細なタッチでグイグイ気持ちよく引っ張る。アルバムタイトル曲をはじめ「Doxy」、「A Train」という王道を行く選曲に加え、「Billy Boy」があった。曲名を聞くだけでマイルス・バンドを去るガーランドの胸中を察したくなるが、西は初めて鍵盤に触れた少年のような驚きで音を重ねていく。手塩に掛けて育てたピアニストの背中を優しく押す猪俣のサポートも見逃せない。ベテランの仕事で最も大事なのは若手の育成である。

 久しぶりの日本人ジャズマンの登場だが、日本人といえば1976年に渡米中の菊地雅章と日野皓正が結成したバンドに「東風」がある。デイヴ・リーブマンやスティーヴ・グロスマンも参加した意欲的なグループだったが、「Wishes」というアルバム1枚で消滅した。実験的なジャズはいつも逆風が吹く。このバンド名で「こち」という読み方を20歳を過ぎて初めて知った。件の女子アナを嗤えない。
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荒野の七人でガンさばきを覚えた

2017-02-05 09:25:21 | Weblog
 「荒野の七人」というタイトルを見るだけで今もワクワクする。最初に観たのは封切間もない小学4年生のときだ。モーリン・オハラが好きだった父に連れられてよく映画館に行った。おやつを食べ終わると眠くなりストーリーは怪しいが、ユル・ブリンナーの左手でハンマーを起こして連射するファニングショットや、スティーブ・マックイーンの早撃ちは目に焼き付いている。

 その後テレビで放映されたときに「The Magnificent Seven」という原題を知った。「Magnificent」といえば鳩のサド・ジョーンズにプレスティッジ盤のバリー・ハリス、70年代後半に復活したプログレッシヴ・レーベルのトミー・フラナガン・・・まだあるのだろうが思い出せないので飛ばして本題のカーティス・フラーにいこう。好きなレコードなので既に話題にしていそうなものだが、おおよそ9年前にbassclef さんが「夢見るレコード」で取り上げていたので見送った経緯がある。「フラーが見た5分間の夢」という素晴らしいタイトルでメトロノームのカウントを例に挙げて分析されていた。

 深く夢を探りたい方はそちらをご覧いただくとして、これから聴こうとする方のために簡単に触れておこう。Dream・・・ジョニー・マーサーが1944年に書いた曲でパイド・パイパーズのコーラスで大ヒットしている。タイトル通り夢見るようなうっとりするバラードだ。それをフラーはレコードプレイヤーの回転数を間違って16回転にセットしたかと思うほどの遅いテンポで演奏している。競走馬の如く速く吹くのもテクニックがいるが、牛の歩みのようなテンポで吹くのも容易ではない。終わったとき体には白昼夢から目覚めた脱力感が残り、脳は夢を一つ叶えた満足感が走る。

 今、原題そのままのタイトルの「マグニフィセント・セブン」が公開されている。72年の「荒野の七人・真昼の決闘」以来のリメイク版だ。現代版らしくガトリング銃で派手にぶっ放すバトルシーンもあるが西部劇の伝統を受け継いでいるし、個性的なメンバーによる人間ドラマとしての側面は本家の「七人の侍」譲りだ。エンディングに「荒野の七人」のテーマソングが流れた。高揚するメロディーだ。映画館を出て父より先を歩いた小学4年生に戻った。
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