デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

全身にジャズの血が走る映画「真夏の夜のジャズ」再び

2020-09-27 08:40:42 | Weblog
 映画「真夏の夜のジャズ」を観た。1958年に開催された「ニューポート・ジャズ・フェスティバル」を捉えたドキュメンタリーで、ジャズファンのバイブルといっていい。監督はマリリン・モンローが亡くなる6週間前に彼女の写真を撮ったことで知られるバート・スターンである。1960年に日本で公開されてから幾度もリバイバル公開されているが、今回はフィルムを修復した「4K版」なので映像が鮮明だ。

 初めて観たのは高校1年生の時だった。田舎ゆえ中央でかかってから8年後のことだ。それも2本立て同時上映のオマケの方である。当時の小さな町の映画館は2本立て興行が主流だった。A級作品と一緒にB級映画を上映するように配給したいわゆる抱き合わせ商法だったのだろう。時にはB級ばかり3本立てというのもあった。おまけに当時は今のシネコンでは考えられない入れ替えなしである。上映中でも途中から入場できたし、煙草も吸えた。朝から夜まで居眠りしながら映画館で過ごせた古き良き昭和の時代である。

 日曜日に母親におにぎりを握ってもらい、颯爽と自転車をこぐ。まず早朝から「真夏~」だ。次にタイトルは忘れてしまったがメインの映画、そして「真夏~」、またメイン、最終上映の「真夏~」と1日に3回観た。ジャズの聴きはじめなので知っていたのはモンクにスティット、アニタ、マリガン、ドルフィー、サッチモぐらいだったが、この時全身にジャズの血が走ったのは間違いない。今回数十年ぶりに観てもあの時の興奮が想い起される。当時は名前すら知らなかったヘンリー・グライムスにエミール・リチャーズ、ピーナッツ・ハッコー、ビル・クロウの姿も眩しい。

 「4K版」では上半身裸でリハーサルするチコ・ハミルトンの汗の飛沫や、アニタの香水の匂い、ネイサン・ガーシュマンの煙草の香ばしい霧が伝わってこなかった。技術の向上に伴いフィルムを修復することで未来に遺すのは喜ばしいことだが、ざらつき感がなくなりジャズ特有の悪魔的な魅力が少しばかり薄れたのは寂しい。だが、超一級のジャズ映画としての価値は変わらない。まだ上映中だ。明日も行こう。
コメント (5)
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