デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ビル・ホルマンの名アレンジとジャイヴ・テナーを聴いてみよう

2024-12-22 08:39:46 | Weblog
 今年も多くの愛すべきジャズミュージシャン達が旅立った。拙稿で追悼したのはミシェル・サルダビーにアルバート・ヒース 、デヴィッド・サンボーン、ベニー・ゴルソン 、クインシー・ジョーンズ、ルー・ドナルドソン、そしてロイ・ヘインズとビッグネームばかりだが、ジャズ誌の片隅にしか掲載されないジャズマンや、日本で報じられない人もいる。

 5月6日に96歳で亡くなったビル・ホルマンは、「Band Live」で2006年のグラミー賞ジャズ・アンサンブル部門にノミネートされたアレンジャーだ。スタン・ケントン楽団時代に素晴らしいスコアを残しているが、なかでも55年録音の「Contemporary Concepts」は70年経った今でも色褪せることがない。「What's New」に「Stella By Starlight」、「Cherokee」という大スタンダードの編曲の見事さよ。こんなにもこのメロディは美しかったのかと驚愕する。チャーリー・マリアーノやビル・パーキンスのソロも一段と映える仕掛けだ。

 テナー奏者としても一流で多くのアルバムをリリースしている。訃報を聞いてまず浮かんだのは「Jive for Five」だ。ジャケットをよくご覧になって欲しい。先頭のホルマンの後ろはメル・ルイスなのだが、このイラスト誰かに似ていませんか?ザ・ドリフターズの仲本工事にそっくりです。訃報記事でこれを出すと「ふてほど」と怒られるので見送った。さて、そのテナー。トップの「Out of This World」を聴いてみよう。スマートなアドリブライン、激しく熱いフレーズに漂うそこはかとない気品、「JIVE」のときめき、この世のものとは思えない。

 訃報を受けて小生同様、レコード棚を探した人もいるだろう。時が経つと持っているはずなのに見つからないとか、買ったことさえ忘れているものもあるが、なかには入手した時期、店名、価格、初めて聴いた印象、当時の情景までをも想い出させてくれる。青春の1ページが1枚のレコードからよみがえるのだ。これがジャズの魅力なのだろう。
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ロイ・ヘインズは霜月の晴れた午後、安らかに眠りについた

2024-12-08 08:33:33 | Weblog
 田舎のジャズ喫茶もどきにもあった「We Three」に「Misterios」、今も邦題の印象が強い「惑星」で、11月12日に亡くなったロイ・ヘインズを聴いた。55年以上も前になる。聴き初めなのでニューボーンやモンク、グリフィン、ドルフィーに集中して、ドラムに耳を傾ける余裕などない。ジャケットのクレジットで名前を知った程度で、ベースとドラムの役割も知らなかった。

 ようやくジャズのコンボ編成やリズム・セクションの重要性が解りかけた頃出会ったのは「Selflessness」だ。「My Favorite Thing」が終わる絶妙なタイミングで入るアナウンス「John Coltrane・・・Roy Haynes」。「Blue Train」や「Ballads」とは違うソプラノサックスのめくるめくソロに驚いたのは勿論のこと、延々と18分全力で叩くスネアに圧倒された。ジャズのライブとはこんなにも激しくて熱いものかと全身で感じたものだ。ナイアガラ瀑布のブレイキーや歌うローチ、ヘヴィー級のエルヴィンとは一味違うジャズドラムの世界を知った。

 数あるリーダー作から1枚選ぶなら62年の「Out of the Afternoon」だ。脂が乗った37歳。オープニングから派手に飛ばすロイは気持ちいい。「Moon Ray」のローランド・カークはおどろおどろしさもなく歌心あふれるフレーズで唸らせる。「Fly Me To The Moon」のトミー・フラナガンはスウィンギーで勢いがある。ロイの代表曲であり、歯切れの良いスネアの音からアル・マッキボンが名付けた「Snap Crackle」は、ロイに呼応するヘンリー・グライムスの端正なビートが力強い。グライムスがアイラーと共演する前なので貴重な録音だ。

 ロイが参加したアルバムは600枚を超えるだろう。レスターやパーカーと共演したのは今となっては伝説だが、パウエルにマイルス、ロリンズ、サラ、マクリーン、シェップ、バートン、チック、メセニー・・・多くの名盤に「Roy Haynes (ds)」のクレジットがある。ロイのディスコグラフィーを紐解くと1949年から2011年までのジャズシーンが見える。享年99歳。合掌。
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