デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

間奏曲は The Good Life で

2015-04-26 09:11:24 | Weblog
 話題の映画「セッション」が封切られた翌日の午後に出かけた。注目作とはいえマニアックなジャズ映画なのでさほど混まないだろうと高を括って上映時間ギリギリに入ってみると、何とフロアは足の踏み場もない。チケット売り場のオネーさんに、恐る恐る聞いてみると前の座席しか空いていないという。そんなセッションな、いや殺生な。2時間も首を上げて観たら、この作品の原題「Whiplash」ではないがムチ打ちなりそうだ。

 諦めて次の回の座席を取った。さて、ここで問題だ。空いた2時間をどう過ごそうか。野球中継の観戦をと思ったが、この時刻ではススキノのスポーツバーも開いていない。上映スケジュールを見ると丁度空いた時間に1本あった。フランス映画「間奏曲はパリで」。イザベル・ユペール主演の大人の恋愛物のようだ。もし外れでもシニア料金の1000円なので損もないし、ランチのとき飲んだビールの酔いも回ってきたので寝てもいい。これがなかなかのストーリーで、何より音楽が洒落ている。サッシャ・ディステルが作曲した「The Good Life」が手を替え品を替え流れる。 

 まずドリフターズ、そしてジュリー・ロンドン、更にフレンチ・カンカンで有名な老舗キャバレー「La Nouvelle Eve」のステージでは女性のテナー奏者がこの曲を演奏する。しみじみと人生の味わいを綴った歌詞はこの歳になると身に沁みてくるが、メロディもこの上なく美しい。あまり多くはないインスト物だが、ベストはハンク・モブレイだ。「The Turnaround!」というレコードは2つのセッションをカップリングしているので統一性に欠くが個々のトラックはどれも平均点を上回っている。ハンコックの叙情的なイントロからやんわりと吹きだすモブレイの深い音は絶品といっていい。

 山も谷も乗り越えた熟年夫婦の愛情を描いた作品に、「The Good Life」は良く似合う。終盤ユペールの旦那が口笛でこの曲を吹いたときは、つられてこちらも口ずさみそうになった。余談ながら劇中、PCでモニカ・ゼタールンドの曲を流して「Zetterlund」の発音を確認するシーンもある。ジャズファンをニヤリとさせる映画は、ちょっぴり涙腺を緩ませ、微笑んだ。ところで目的の映画は?それは次のセッションで。
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クラブジャズ御用達 To Iskol' Hof

2015-04-19 09:26:09 | Weblog
 「To Iskol' Hof」という曲をご存知だろうか。ああ、知っているよ、という方はクラブジャズ・シーンに詳しいか、須永辰緒氏監修の「夜ジャズ」をお聴きのことと思われる。また、その曲が収録されているデンマーク「DEBUT」レーベルのオリジナル盤を持っているよ、というコレクターとはお友達になりたいものだ。このレコード、状態が良ければ優に20万円は超える。

 そのアルバムとは、「Let's Keep the Message」で、ベント・アクセンとベント・イェディクの双頭リーダー作だ。所有はJazzhus Diskから再発されたCDです。念のため。ともにデンマークを代表するピアニストでありテナーサックス奏者である。アクセンは61年にエリック・ドルフィーと共演しており、バップを基本にドルフィーのアブストラクトな展開に物怖じしないピアノは「イン・ヨーロッパ」で聴ける。また、イェディクは60年代ヨーロッパ・ジャズの最高峰と謳われるサヒブ・シハブの「The Danish Radio Jazz Orchestra」や、マイルスの「Aura」にも参加しているテクニシャンだ。

 アクセンのオリジナル曲を中心に、「Star Eyes」や「Lady Bird」というバップナンバーに加え、エリントンの「Things Ain't What They Used To Be」が選曲されている。どこの国であってもジャズを演奏する以上、エリントン・ナンバーは欠かせない。息子のマーサーが思いついたメロディを父のデュークが形にしたと言われている曲だ。アクセンのイントロはエリントン風の優雅なタッチで格調が高い。そのピアノに呼応するように入ってくるイェディクは気持ちが良いほど豪快だ。1960年の録音当時、二人は脂が乗っているときで、完成度の高さはジャケット写真の余裕の笑顔からも見て取れる。

 クラブジャズの定義は曖昧だが、要は躍れるジャズということらしい。この場合の「club」は、大人の社交場であるナイトクラブではなく、ディスクジョッキーがかける音楽に合わせて踊ったりするディスコ形態のクラブで、「club」のアクセントが微妙に違う。下着とズボンの「pants」の発音の違いがわからない小生はクラブジャズの「club」が上手く言えない。
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Joy Spring で気温が上がるかもしれない

2015-04-12 08:21:15 | Weblog
 関東地方でも雪が降ったという先週初めは、ここ札幌も雪が舞い、寒い日が続いている。桜前線が近づいているとはいえ平年より気温が5度も低いと気分も晴れない。せめて音楽だけでも春らしくと「Spring Is Here」や「It Might As Well Be Spring」 、「Spring Can Really Hang You Up the Most」、「Spring Will Be a Little Late This Year」と聴いてみたが、まだ温度は十分に上がらない。

 ならばジャズマン・オリジナルのホットな曲をかけてみよう。マイルスの「Swing Spring」はどうだ。「Modern Jazz Giants」の1曲で、「The Man I Love」ほどインパクトはないもののメロディは軽やかである。次にフレディ・ハバードの「Backlash」から「Up Jumped Spring」。ジェームス・スポールディングのフルートが小鳥のさえずりを思わせ気温もかなり上がってきた。そして極めつけはクリフォード・ブラウンの「Joy Spring」だ。いくつか録音を残しているがやはりマックス・ローチとのクインテット盤がベストだろう。ブラウンの温もりのある一音だけで5度上がる。

 美しいメロディに惹かれてカヴァーも多いこの曲を、アルバムトップに持ってきたのはゲイリー・バートンで、しかも初リーダー作だ。音板を担ぎマレットを持った後姿は「New Vibe Man In Town」のタイトルよろしくジャズヴァイヴシーンに殴り込みをかける威勢の良さがある。その後の変貌はともかく、1961年の録音時はオーソドックスなスタイルで好感が持てるし、このとき若干18歳というから驚く。ジーン・チェリコのベースとジョー・モレロのドラムからなるトリオだが、先輩のリズムに引っ張られながらもグイグイ先に進んでいくのは何とも頼もしい。

 ブラウンは1954年の春の海辺で妻となるラルー・アンダーソンに「Joy Spring」を吹いてプロポーズしたという。1956年6月に交通事故死するブラウンにとって1954年の春は人生最高の季節だったことだろう。この曲を聴くだけで温度が上がるのはこの微笑ましいエピソードがあったからかもしれない。コートを脱いで外に出てみよう。きっと春の柔らかい風が吹いている。
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ドイツのサラ、インゲ・ブランデンブルグを聴く

2015-04-05 09:18:28 | Weblog
 中古レコード店のエサ箱、と言ってもCDなので棚だが、漁っていて「オッ!」と声を上げた。インゲ・ブランデンブルグの「It's All Right with Me」だ。ディスク・ガイドでジャケットは知っていたものの、CDサイズとはいえ見るのは初めてである。ドイツCBSのオリジナル盤は軽く10万円を超える激レア・レコードで、ドイツ盤のヴォーカル・アルバムではSABAのエルジー・ビアンキ「The Sweetest Sound」と並んでマニア垂涎の的だ。

このアルバムはインゲの代表作だが、ギュンター・ハンペルの初録音も記録されていることで価値を上げている。選曲は「Round Midnight」、「Summertime」、「Falling In Love With Love」という定番からジョニー・グリーンの「Out Of Nowhere」、映画「ショー・ボート」のナンバー「Lonesome Road」という地味ながら味わい深いものまで幅広い。意表を突くのはトップで、ロリンズ作の「Valse Hot 」をスキャットで歌い始め「C'est La Vie」をはさんで、元のメロディで終わる仕掛けだ。やや太い声が、スウィング、ドライブ、グルーブの全てを迫力あるものにしている。

 圧巻はアルバムタイトルの「It's All Right with Me」で、オランダのドラマー、ピエール・クルボワとのデュオだ。クルボワといえば1970年のJ.R.モンテローズ「Body And Soul」や、1972年のマル・ウォルドロン「A Little Bit of Miles」で変幻自在なドラミングをみせていたが、ここでもインゲの高速ヴォーカルに丁々発止と渡り合う。録音は1965年で、この時点で早くもフリーに傾倒していたのだろう。僅か1分52秒の演奏だが、ジャズヴォーカルの面白さ、インプロビゼーションの醍醐味を味わえる。インゲが、「ドイツのサラ・ヴォーン」と謳われたのをこの耳で確認した。

 ドイツに限らずヨーロッパのジャズレコードはその文化の違いからプレス枚数が少ないうえ、日本では売れないことから輸入数も限られていた。近年は欧州ジャズのブームで広く聴かれるようになったが、黒人ジャズ至上主義の60~70年代のジャズ喫茶ではかかる以前に持っている店もない。このインゲのようなヨーロッパジャズの名盤はまだ眠ったままのものある。
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