デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

豪華メンバーのサマータイムは限定盤だった

2007-07-29 06:57:32 | Weblog
 テレビに映し出される長蛇の列。そんな風景はそう珍しくないが、次に店内の怒号と混乱、そして列の最後尾で飛び交う罵声、アニヤ・ハインドマーチのエコバッグが発売されたときのようすだ。ブランド品だけに限定発売ともなればプレミアも付くとことから殺到する。限定数が明確でないから列の後ろで何時間も並んで買えない人が店員と揉みあいになっても仕方がない。

 レコードにも限定盤が数多くあるが、写真の「The Jazz Soul Of Porgy & Bess」はプレス枚数がよくわからない限定盤だ。小生が所有しているものは「B-」の2000番台後半で、この「B-」というプレフィックスが気になっていた。最近 bassclef さんのブログ「夢見るレコード」で、「A-」が存在することを知った。どうやらモノラル盤が「A-」で、ステレオ盤は「B-」のようだ。ということは両方合わせておそらく6000枚はプレスされていることになろうか。さほどセールの見込めないジャズアルバムがシリアルナンバー入りで6000枚とは驚きの1枚である。

 ジョージ・ガーシュウィンが作曲したジャズの手法によるオペラ「ポギーとベス」集で、スタン・ケントンやウディ・ハーマンの編曲を手がけていたビル・ポッツの元に集まったメンバーが凄い。アート・ファーマー、ハリー・エディソン、ボブ・ブルックマイヤー、ズート・シムズ、フィル・ウッズ・・・そしてビル・エヴァンス、錚々たる顔が並んでいる。子守唄として知られる「サマータイム」はバラードで演奏されることが多いが、このアルバムでは暑さを吹き飛ばす気持ちのいいアップテンポの展開で、管楽器奏者たちのソロを上手く生かした編曲は見事なものだ。

 エコバッグはレジ袋の消費抑制を目的として発売されたという。プラスティック袋の消費は環境破壊の要因のひとつになっていることから繰り返し使えるエコバッグは地球に優しいが、そのバッグを使うであろう店内は、過剰ともいえる冷房が効いている。冷房温度を1度緩めるだけでも温暖化の抑止効果がある。目に見えないエコも必要であろう。
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「なんくるないさぁ」とペトルチアーニは笑った

2007-07-22 07:45:09 | Weblog
 書店で「なんくるないさぁ」という聞きなれないタイトルを目にした。10歳のときに小児ガンを宣告された吉野やよいさんが書いた本で、闘病記録を綴っている。「なんくるない」とは沖縄の方言で、「なんとかなる」の意らしく北海道では聞くことがない。少しばかり時間があったので読み出したところ目頭が熱くなってきたので購入した。黄昏時に大の大人が書店で涙するのは絵にならない。

 難病を乗り越えたピアニストにミシェル・ペトルチアーニがいる。ガラスの骨病と呼ばれる奇病のため身長は1メートルほどしかなかったが、フランス最高のジャズピアニストといっても過言ではない。フランス人としては初めて名門ジャズレーベルのブルーノート・レコードと契約したことで広く知られ、その生命力溢れた演奏は素晴らしいの一語に尽きる。魂が指先に宿っているとでもいうのだろうか、鍵盤に命を吹き込み、ピアノ全体がペトルチアーニになるような錯覚さえ覚える。

 「プロムナード・ウィズ・デューク」と題されたアルバムはタイトルからもわかるようにデューク・エリントンに捧げたもので、ブルーノートに残した最後の作品だ。クラシックからジャズに転向するきっかけになったエリントンに取り組むだけに凄まじい気魄でピアノに向かっている。冒頭の「キャラヴァン」から「Cジャム・ブルース」までエリントンの代表作と、自作曲を鏤めた構成はソロピアノながら絢爛豪華な絵巻物をみるようだ。ソロピアノの名演というとビル・エヴァンスやセロニアス・モンクがあるが、それに匹敵するピアノ美学といえよう。

 98年のライブ映像の最後で、スティ-ヴ・ガッドとアンソニー・ジャクソンの中央にペトルチアーニが立つ姿が見られる。体は大きくないが障害を克服したその顔は自信に溢れ、一際大きくみえた。小児ガンに打ち克った吉野やよいさんは今、早稲田大学に通っている。「なんくるないさぁ」と目標を持ったふたりの笑顔が眩しい。
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石原裕次郎のラブ・レター

2007-07-15 07:47:22 | Weblog
 ビリー・ホリデイとジョン・コルトレーンの命日である7月17日は、ファンにとっては感慨深い日である。ジャズの両巨星を聴いたことがなくても、日本人のほとんどの方が知っている石原裕次郎もまたこの日に亡くなっている。「太陽の季節」でキラ星の如くデビューし、52年という短い生涯を終えるまで日本を代表するトップスターであった。数多くの映画や歌は今も語り継がれ、歌い続けられている。

 終生、酒と煙草を愛した裕次郎らしいジャケットは、「ノスタルジア」という74年のアルバムで、ジャズファンには見逃せない内容だ。70年代のトップ・プロデューサー、オリヴァー・ネルソンが監修にあたり、マックス・ローチやJ.J.ジョンソンを育てたベニー・カーターが編曲と指揮をとっている。集められたメンバーもシェリー・マンをはじめ、ジェローム・リチャードソン、バディ・コレットといった名手が顔を揃える豪華なもので裕次郎ファンならずとも手にしたい作品であろう。

 映画の主題歌を集めたもので、曲と曲の間に映画の思い出を裕次郎が優しく語るかける心憎い趣向で、裕次郎の魅力をあますところなく満喫できる構成だ。曲のはじめにはメンバーの声も収録しており、スタジオの和やかな雰囲気は日米のビッグネイムの顔合わせとは思えないほどリラックスしている。トップのビクター・ヤングの名作「ラブ・レター」は、語りかけるようなバラードで、あの「夜霧よ今夜も有難う」を思わせる大人の世界だ。ジャケットのように煙草を手にとりブランデー・グラスを傾けたくなる。

 小樽にある石原裕次郎記念館には、映画「黒部の太陽」のセットを再現し、愛車のベンツ300SLや愛用のマリングッズが展示されている。数々のヒット曲のジャケットも並べられており、その一角に愛聴盤も並んでいた。チェット・ベイカーだ。粋な男が愛したのは、また粋な男であった。
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頭角を現したロイ・ヘインズ

2007-07-08 07:43:59 | Weblog
 先週の読売新聞、時事川柳に鈴木十四茶さんの句が選ばれている。「豚肉もミンチになれば角が生え」食肉製造加工会社の牛肉偽装を詠んだもので、うまいことを言うものだ。次々に出る不正は呆れるばかりだが、北海道の会社だけに小生もまた知らず知らずのうちに食べていたことになる。食の安全が大きく問われる今、この報道を目にすると角も生えようというものだ。

 角の生えた牛というと闘牛で、ロイ・ヘインズに同名のアルバムがあり、闘牛以上に怖いヘインズのイラストがコミカルに描かれている。ニューヨーク在住の中村照夫さんがプロデュースした73年の録音で、ケニー・バロンとリチャード・デイヴィスを加えたトリオ編成だ。「ティン・ティン・デオ」、「ディア・オールド・ストックホルム」等のスタンダード中心で、得意のハイ・ハット半開きもたっぷり堪能できる。ドラマーのリーダー・アルバムは闘牛を操るマタドールの如く華麗な千変万化のドラミングを楽しむことにあろう。

 ヘインズは26年生まれで、10代にしてプロとしてスタートした時はスウィング時代である。スウィングからバップへ大きくジャズの流れが変わろうとしたとき、多くのプレイヤーは戸惑い、新しい感覚を否定さえするものまで現れた。そんな中いち早くバップの波に乗りチャーリー・パーカーと共演したのがヘインズだ。その後サラ・ヴォーンの伴奏コンボ、ジョン・コルトレーンとの共演等、活動は幅広く柔軟性に富んでおり、ヘインズは移り変わりの激しいジャズシーンで、いつも角ならぬ頭角を現していた。

 件の食肉製造加工会社の社長は、肉の職人と呼ばれた人だそうだ。肉を熟知しているだけにその芸で消費者の舌を誤魔化すのは容易だったようが、どうやら食と職の誇りも失った人らしい。職人気質とは自分の技術を探求し、自信を持ち、金銭のために自分の意志を曲げない人をいう。ヘインズは伴奏のうまさに定評がある。職人芸を見習いたいものだ。
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ヴァイオリンでラウンド・ミッドナイトを聴いてみよう

2007-07-01 07:40:55 | Weblog
 江戸川柳に「忍ぶ夜の蚊はたたかれてそっと死に」とある。情景が見える艶っぽい句で、今も昔もこれからの時期、蚊に悩まされるのは同じようだ。テレビで金鳥蚊取り線香のCMが流れ始めた。今年のCMにはジャズ・ヴァイオリニストの寺井尚子さんが起用されていて、弦楽器特有の豊かな響きのある音色は初夏の訪れにふさわしい。

 ジャズ・ヴァイオリニストというと古くはエディ・サウス、ジョー・ヴェヌーティ、ステファン・グラッペリの3名手がいたが、モダンジャズ期では殆ど聴かれない。管楽器が主役になりバップのリズムにヴァイオリンが適さないのだろうか。そんな中50年代に吹き込まれたハリー・ルーコフスキーの「Stringsville」は珍しい作品だ。クラシックの分野で活躍している人でジャズ・アルバムは少ないものの、この作品はボブ・ブルックマイヤー、ハンク・ジョーンズ、ポール・チェンバース、エルヴィン・ジョーンズ等のサイドメンが加わり一級のセッションを聴ける。

 オープニングはセロニアス・モンクの名曲「ラウンド・ミッドナイト」でジャズ・ファンを唸らせる好スタートだ。ラテンを思わせるリズムから滑らかに溶け込むメロディラインはこの曲が持つ美しさを際立たせている。ヴァイオリンを弾く上で重要なボウイングも見事なもので一気に起伏のあるアドリブに移り、後半にはピチカートでアクセントを付けるという展開であまりジャズ・ヴァイオリンを聴く機会がないだけに新鮮だ。4分足らずの短い演奏ながら楽器の特性をちりばめた快作であろう。

 今では蚊取り線香やエアコンの普及により蚊帳は滅多に見られなくなったが、電気を使わない蚊帳が防蚊手段としてエコロジーの観点から見直されているという。蚊帳は細い網目で中が見え難い。中を隠し、国民を蚊帳の外に置くのはどこかの国の国民年金をみるようだ。
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