デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

小宅珠実のトゥー・ベース・ヒット

2014-03-30 09:23:49 | Weblog
 先週28日にプロ野球セ・パ両リーグが同時開幕したので早速応援に駆け付けた。球場が揺れるほどの大歓声、応援団の鳴り物、ビールの匂い、売り子さんの笑顔、グローブをはめてファウルボールを追いかける子どもの声・・・野球場の空気はいい。贔屓のチームは昨年クライマックスに進むこともなく、早々とシーズンを終えたので、いつもの年より待ち遠しかった。

 ジャズメンも野球ファンが多く、ジョン・ルイスは1947年のディジー・ガレスピー楽団時代に「Two Bass Hit」という曲を書いている。楽器の「Bass」と、塁の「Base」をかけたものだ。前年に発表されたガレスピーと同バンドのベーシスト、レイ・ブラウン、アレンジャーのギル・フラーの共作による「One Bass Hit」に呼応する曲でもある。こちらもガレスピーが共作者としてクレジットされているが、おそらくルイスが骨格を作り、親分がビッグバンドに映えるように手を加えたのだろう。のちに「静」のMJQを担うルイスとは思えないほど躍動感があるナンバーで、ルイスのハードな一面がうかがえる。

 バッププレイヤーに人気がある曲をフルートで演奏しているのは小宅珠実で、1980年に「Tamami First」でデビューしたときは、男性的な骨太な音でありながら女性ならではの繊細なフレーズに関心したものだ。女性の年齢を記すのは甚だ失礼なので伏せておくが、デビュー時から完成されていたほどのキャリアを持つ。「Two Bass Hit」と題されたアルバムは2007年の作品で、一段と磨きがかかったジャズフルートを味わえる。タイトル曲のイントロに「Take Me Out To The Ball Game」を入れたり、ジャケットに写る影がバッターだったりと、ひょとしたら小宅珠実も野球ファンなのかもしれない。

 シーズン中は、「あの場面でピッチャー交代はないだろう」、「あそこは代打を出すべきだった」、「あの球がボールとは審判の目はどこについているんだ」、「明日は打順を変えよう」等々、にわか監督と評論家もどきの野球仲間との話も弾む。たとえ負け試合でも、シングルヒットが二塁打になるような全力疾走する熱気あふれるプレイをみたい。
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フリーダム・ジャズ・ダンスで踊ったマイルス

2014-03-23 08:17:37 | Weblog
 いつの間にかベーシスト御用達になった曲に「フリーダム・ジャズ・ダンス」がある。躍動的なタイトルで、語感から受ける響きもいい。きっかけはチェコスロバキア生まれで、チック・コリアの「Now He Sings, Now He Sobs」で頭角を現したベーシスト、ミロスラフ・ビトウスが1969年の初リーダーアルバム「Infinite Search」で取り上げたことによる。上下動が激しく、ギクシャクしたメカニックな旋律はベースで弾きにくいことから超絶技巧を披露するにはもってこいの曲なのだろう。

 作者はこの曲で一躍有名になったテナー奏者のエディ・ハリスだ。「栄光への脱出」や、69年にモントルー・ジャズ・フェスティヴァルで、レス・マッキャンと共演した「スイス・ムーブメント」でその名は一部で知られていたものの、正統派のジャズファンから軽視されていた存在だ。前者はジャズメンとして初のゴールド・ディスクを獲得したほどの大ヒットで、後者もまた1970年の初め数箇月に亘りジャズ・レコード・ベストセラーのトップを独占するほどの売れ行きだった。ポピュラーなものを否定して、よりアヴァンギャルドなものを追いかけるのが格好いいとされていた時代だ。

 自身のオリジナル演奏は、65年録音の「The In Sound」 に収められているが、これを当時から聴いている人は少ない。国内盤が出なかったことによるものだが、仮に輸入盤で見かけても知名度の低さで手に取ることもない。もし手にしてもジャケット裏の「いそしぎ」や「ス・ワンダフル」という曲目で戻す人もいる。一歩進んで、シダー・ウォルトンやロン・カーターというメンバーで聴いたとしてもサンバ風の甘い演奏で、B面の「フリーダム・ジャズ・ダンス」まで届かない。甘い音色ながらよく歌うハリスが評価されなかったのは、このような悪条件が重なったためと思われる。

 この曲を1966年に「Miles Smiles」で逸早く取り上げたのはマイルスだった。電化マイルスに転向する前の最後の作品のひとつだ。管楽器の電化といえばエディ・ハリスがマイルスより先に取り入れている。曲といいエレクトリックの導入といい、ダイヤモンドの原石を見逃さないマイルスの慧眼は凄い。マイルスが原石を磨かなかったらビトウスの名演もウェザーリポートもなかったろう。
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マリリン・スコット、パリを歌う

2014-03-16 08:40:48 | Weblog
札幌のススキノにオールディーズのリクエストに応えてくれる「ザ・キッパーズ」という同名のバンドが入っているライブスポットがあり、連夜賑わっている。団塊世代の紳士淑女がひととき青春時代に戻れる場所だ。先日、居合わせた小生より一回り年上の方と、バンドが「ラヴ・ミー・テンダー」を歌ったことから、プレスリーの話題になった。「G.I.ブルース」にイカす女が出ていてね、なんて名前だったかなぁ・・・確かジュリエット・プラウズのはずだ、と言う。

 知らない名前だったが、イカす女となれば気になる。他にどんな映画に出ていたのかと聞くと、シナトラとも共演していたそうだ。調べてみると1953年のミュージカルを1960年に映画化した「カンカン」に出演していた。音楽を担当したのはコール・ポーターで、このミュージカルからは「It's Alright with Me」や「C'est Magnifique」が生まれているが、主題歌として書かれた「I Love Paris」はパリを訪れたことがないシンガーでも取り上げるほどの名曲だ。ポーターがパリの屋根を描いたセットの素晴らしさに驚嘆し、僅か30分で作詞作曲したという。その目で見た美をそのまま音符に書き換えたメロディは実に美しい。

 最近はあまり歌われなくなったが、2007年にAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)の歌姫と呼ばれたマリリン・スコットが録音している。ソウルフルで垢抜けた声は気持ちがいい。「Every Time We Say Goodbye」と題されたアルバムはタイトル曲をはじめ、「ニューヨークの秋」、「クライ・ミー・ア・リバー」といったスタンダード中心の選曲で、バックもサイラス・チェスナットやケン・ペプロウスキーらのジャズ陣がかためている。違うフィールドで歌っていたシンガーがバックにジャズプレイヤーを配するだけでジャズヴォーカルにはならないが、このアルバムが一級品に仕上がったのは天性のジャズセンスのなせる技なのだろう。

 ジュリエット・プラウズの映画は観ていないが、シナトラが一目惚れして婚約までしたというから間違いなくイカす女だ。婚約後、プラウズが芸能界引退を拒否したため婚約破棄になったが、もし引退していたらプレスリーとの共演もなかった。「I Love Movie」といったとこか。そういえば、一回り年上のプレスリー・ファンの記憶にあった名前もイカす女も当たっていた。今度お会いしたら「ぴったしカンカン」と言おう。
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山本邦山とデヴィッド・フリーゼン

2014-03-09 10:29:54 | Weblog
 先月10日に亡くなった尺八奏者で人間国宝の山本邦山は、菊地雅章をはじめ佐藤允彦、富樫雅彦等との共演でジャズファンにも広く知られている。なかでも1970年に、菊地、ゲイリー・ピーコック、村上寛のトリオをバックに和のメロディを奏でた「銀界」は、日本ジャズアルバムの傑作として後世に残るものだ。続編としてピーコックとデュオで吹き込まれた「夢幻界」もスリリングな作品として印象に残る。

 そしてもう一人、邦山と共演したベーシストがいる。デヴィッド・フリーゼンだ。77年のモンタレー・ジャズ・フェスティヴァルで聴衆が度肝を抜かれたという超絶技巧の持ち主で、その名が日本に知れ渡ったのは、76年に録音された「スター・ダンス」というアルバムだった。これが凄い。ベースを弾かない人でも、「これは違うぞ」とわかる斬新なベース音だ。ベーシストの解説によると、両手で同時に別のメロディを弾くという。さらに、弓で弦を叩きながら別の弦をピチカートで演奏しているそうだ。これらのテクニックは勿論だが、このような奏法を考え付くこと自体、並外れているし、ベースという楽器を知り尽くしたうえでの可能性の探求なのだろう。

 「The Name of a Woman」は、タイトル通り、サム・リヴァースの「Beatrice」をはじめ、ショーターの「Delores」、リー・モーガンの「Ceora」等々、女性の名前を冠した曲を中心に取り上げた2000年の作品だ。どの曲も女性をイメージしているので響きは美しい。ランディ・ポーターのピアノと、アラン・ジョーンズのドラムという典型的なトリオ編成で、スタンダードも選曲もされているので昨今流行のBGMジャズと間違われそうだが、こちらは火花が飛び散るセッションだ。バラードにおける三者の調和も見事なもので、「In the Wee Small Hours」は、夜も深まって静まりかえった情景をにおわせる。

 日本の伝統的な木管楽器である尺八といえば虚無僧を思いつくぐらいで、「銀界」の企画を聞いたときは驚いたが、実際にレコードを聴いてみるとピアノやベースとマッチして何ら違和感はない。それは「首振り三年ころ八年」で磨かれた尺八の音色は勿論だが、邦山が稀代のインプロヴァイザーだったということだ。「粋」や「風流」には無縁だが、尺八の音色で安らぐのは日本人だからかもしれない。
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ドヤ顔のエリントン

2014-03-02 09:35:55 | Weblog
 先週に続き映画とエリントンの話題になるが、今年はエリントン没後40周年記念でジャズ界では色々と企画されているので、こちらも便乗というわけだ。レオナルド・ディカプリオ主演の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」を観たが、これが面白い。予告編やチラシで「ドヤ顔でアカデミー賞最有力」という謳い文句をご覧になったかたもあろう。26歳で証券会社を設立し、年収49億円を稼ぎ出したのだからドヤ顔になるもの無理はない。

 ジャズアルバムでドヤ顔といえば「ザ・ポピュラー」のエリントンだ。人望が厚く、決して偉ぶらないエリントンにしては珍しい表情だが、これには理由がある。油井正一著「ジャズの歴史物語」(スイング・ジャーナル社刊)によると、フランスの批評家アンドレ・オデールが、その頃のエリントンの姿勢を「過去の安直な焼き直し」、さらに「焼き直しどころか改悪すらしている」と批判したことに端を発する。エリントンは雑誌で一度反論した後、しばし沈黙を守り、音楽家らしく演奏をもってオデールに再反論したのがこの「ザ・ポピュラー」で、一見ヒット曲のコンピに思えるが全て新録音だ。

 「A列車で行こう」にはじまりに、「I Got It Bad」、「Mood Indigo」、「Solitude」、「Sophisticated Lady」、「Do Nothin' Till You Hear from Me」等々、敢えて批判の対象になった曲、いわば毎晩ステージで演奏する有名ナンバーばかりを選んでいる。批評家に反論となると今まで一度も演奏したことがなく、さらにスケールの大きな組曲を答えとして出すところだが、何度も演奏した曲に新しい息吹を与えるという形で指摘された「過去の安直な焼き直し」を払拭している。そしてアレンジもアルバムタイトル通りポピュラーなもので、誰でもが親しめる演奏だ。ジャケット写真撮影のときに無意識にドヤ顔になる。

 エリントンが作った曲は1000を超えるし、LP時代になってからのアルバム数も100枚は超える。先週話題にしたライブ名盤もあれば難解な組曲もあるのがエリントンの世界だ。ジャズを聴き始めの方に、エリントンはどの曲、どのアルバムから聴けばいいのか、と聞かれたなら、迷わずこの「ザ・ポピュラー」を挙げる。間違いなく、「よかった」という感想が返ってくるだろう。それを聞く小生はドヤ顔になる。
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