デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

クリント・イーストウッドのピアノは枝垂柳から零れ落ちる涙のようだった

2017-10-29 09:25:37 | Weblog
 日曜日の午後といえば札幌ドームかテレビで野球観戦と決まっているのだが、贔屓のチームは早々とシーズンを終えたので手持ち無沙汰だ。何気なくテレビのチャンネルをひねるとクリント・イーストウッドがピアノを弾いているではないか。小生がジャズを呼ぶのか、ジャズが小生を呼んでいるのか、グッドタイミングだ。慌てて番組表を見る。1993年の映画「ザ・シークレット・サービス」だ。映画館でもテレビでも観たことがない。

 イーストウッドが大統領の警護官を演じているのだが、自宅でCDをかけるとマイルスの「All Blues」が流れたり、レコード棚も見えるので、まるでイーストウッド本人の物語にみえる。弾いているその曲は「Willow Weep for Me」で、枝垂柳から零れ落ちる涙の風情とでもいえばいいか。ピアニストなら一度は録音する曲だが、不思議と主役になれない。パウエルの「Piano Interpretations」、ケリーの「Kelly Blue」、ガーランドの「Groovy」、ブライアントの「Little Susie」、トップ収録とはいえB面だ。フラナガンの12吋盤「Overseas」は申し訳なさそうにラストに収録されている。ジャズアルバム全体を眺めてもアルバムタイトルになっているものはない。

 アル・ヘイグの「Today! 」もB面ラス前で印象は薄いが、じっくり聴くとこれがなかなかに味がある。パーカーやガレスピーと共演歴があるバップピアニストのモダンな一面を捉えた傑作と言っていい。60年代に残した唯一のリーダー作という点でも貴重だ。今でこそ簡単にCDで聴けるが、かつては幻の名盤と騒がれ入手困難な1枚だった。マイナーレーベルの「Del Moral Records」が原盤で、ラベルにミントの葉がデザインされていることから「ミントのヘイグ」と呼ばれているレコードだ。そのラベルもグリーンミントとブラックミントの2種があり、どちらがオリジナルかとコレクターと悩ました経緯もある。

 劇中、上司がイーストウッドに引退をすすめるシーンがある。「ジャズのレコードを買うだけだから年金で生活できるだろう」と。イーストウッドさんなら年金生活でも好きなだけ買えるかもしれないが、庶民はそうはいかない。数万円のオリジナル盤を買うために昼飯を抜いたり、バーゲンセールときけば早朝から並んだり、家が建つほどレコードにつぎ込んだ方もいるはずだ。コレクターにとってジャズレコード係数が高いのは誇りである。
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チャールス・マクファーソンは遅れるどころか先を行っていた

2017-10-22 09:28:38 | Weblog
 先週、過小評価されている一人としてチャールス・マクファーソンを挙げた。600稿近くアップしているので、とうの昔に話題にしたと思っていたが、何とまだ一度も名前すら出たことがない。正当な評価を下すのはジャズを愛する者の務めである、と大見得切ったので反省しきりだ。遅れてきたビ・バッパーという三文形容詞を覆す如く、遅れての紹介で魅力をお伝えしよう。

 60年にミンガス・グループに参加したことで名前が知られたマクファーソンだが、あの灰汁の強い稀代のベーシストと共演していたのが不思議なくらい王道を行くアルト奏者だ。このバンドや師匠であるバリー・ハリスと共演してキャリアを積み上げ、プレスティッジから初リーダー作を録音する運びになる。その名も「Bebop Revisited! 」である。このタイトルと、バップの代表曲「Hot House」にファッツ・ナヴァロの「Nostalgia」、パウエルの「Wail」、パーカーの名演で知られる「Embraceable You」というガチガチの選曲、ハリスにカーメル・ジョーンズ、ネルソン・ボイド、アルバート・ヒースという人選、間違いなくビ・バップだ。

 録音された64年に戻って検証しよう。東京オリンピックが開催された年である。ミンガス・グループで共演したエリック・ドルフィーが亡くなっている。マイルスが初来日した。コルトレーンが「至上の愛」、ピーターソンが「We Get Requests」を録音。ニュージャズの動きが活発化する。いわゆる「ジャズの10月革命」だ。銀座に「ジャズ・ギャラリー8」が開店したのもこの年だ。モダンとフリーが混然とするシーンにビ・バップとなれば、仮にリアルタイムで聴いていたとしたら間違いなく違和感を覚えるだろう。もしジャズ喫茶で今月の新譜と紹介されたら、小生だって今頃バップかい?と言ったかもしれない。

 日本と本国の評価の違いは先の稿でも触れたが、本国では人気がありプレスティッジを皮切りにMainstream、XANADU、Timeless、Arabesque、Enja等のレーベルから順調にリリースされている。勿論スタイルは大きく変わらない。「Bebop Revisited! 」から半世紀経った今、フリージャズやフュージョンに走った連中もスタンダード回帰でバップ・ナンバーを取り上げている。マクファーソンは先を行ったビ・バッパーかも知れない。
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プリンストン大学教授ベニー・カーターのセミナーを聴いてみよう

2017-10-15 09:37:45 | Weblog
 過小評価されているミュージシャンは数多くいる。例えばウディ・ショウ。ハード・バップからアバンギャルドまで幅広い音楽性を持ちながら、複雑で難解なフレーズのため大きな脚光を浴びることはなかった。パーカーを彷彿させる閃きで知られるチャールス・マクファーソンは、遅れてきたビ・バッパーと揶揄された。アーマッド・ジャマルのようにビッグネイムとの共演がないばかりに知名度が低く、日本でレコードが出なかったケースもある。

 そして、ベニー・カーター。ジョニー・ホッジス、ウィリー・スミスと並びスウィング期の三大アルト奏者と呼ばれながらも日本での評価は芳しいものではない。かなりジャズを聴き込んでいる方でもリーダー作を10枚挙げるのは難しいだろう。ホッジスはエリントン楽団の看板スターで、スミスはハンプトン楽団のスターダストの名ソロでつとに有名だが、カーターの場合、何度か率いた楽団は商業的に失敗で決定的なヒット曲もない。また、高い音楽性から「King」と称されながらも、1940年代半ばに映画音楽の世界に身を移し、ジャズシーンから遠ざかったことも低評価につながったのだろう。

 本国での評価は正当なもので、プリンストン大学で客員教授として数年間に亘り講義を受け持ち、セミナーの一環として演奏会を開いている。以前、ブルーベックのキャンパスコンサートでも触れたがアメリカ人が皆ジャズを聴いているわけではないので、学生にジャズを聴く機会を与えるのは大切なことだ。「All That Jazz」は、クラーク・テリーをはじめケニー・バロン、ルーファス・リード、ケニー・ワシントンと共演したセミナーのライブを記録したもので、ジャズのエッセンス全てが詰まっている。「Hackensack」、「Misty」、「Now's The Time」、「All Of Me」、楽しいのがジャズという選曲もさすがだ。

 録音数が少ないからといって実力がないわけではない。機会に恵まれなかっただけだ。リーダー作がないからといって人気がないわけではない。縁の下の力持ちも必要なのだ。過小評価もあれば過大評価もある。ジャズ誌で大きく取り上げているからといって評価されているわけではない。広告を出す見返りだ。アルバム数が多いからといって人気があるわけではない。CDとジャケットを入れ替えても気づかない金太郎飴だ。本物を聴き分ける耳を養い、正当な評価を下すのはジャズを愛する者の務めである。
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Jアラートが鳴ったとき、Lou Takes Off のジャケットが浮かんだ

2017-10-08 09:36:16 | Weblog
 「テポドン」や「ノドン」、「北極星」といった将軍様の玩具ではない。Jアラートが鳴る昨今、何かとニュースで目にするものだから、ついこのジャケットもミサイルに結びつくが、1957年に打ち上げに成功した人工衛星スプートニクである。宇宙開発、即ちミサイル研究のリーダーと信じていたアメリカが、ソ連に先を越された衝撃と危機感から「スプートニク・ショック」という言葉も生まれた程の歴史的快挙だった。

 ルー・ドナルドソンの「Lou Takes Off」は、この人類初の人工衛星からヒントを得たアルバムだ。ルーといえばアーゴ盤や「Alligator Bogaloo」、「Midnight Creeper」のポップス・ヒットで硬派のジャズファンからはB級扱いされている。また、60年代中期のソウル・ジャズへの路線変更後のレコードは一切置かないというジャズ喫茶も珍しくなかった。だが、54年にバードランドでクリフォード・ブラウンと繰り広げた「ハード・バップの幕開け」と呼ばれるパーカー直系の熱いソロは一級品と誰しも認めるところだ。このアルバムはそのスタイルに磨きをかけアルトサックス界を牽引していた57年の作品である。

 ドナルド・バードとカーティス・フラーをフロントに据えたブルーノートお得意の3管編成で、ゴリゴリ感を前面に出した好作品だ。ルーの自作曲「Sputnik」と「Strollin' In」に加え「Dewey Square」と「Groovin' High」というパーカー・ナンバーを入れていることからも「パーカーより他に神はなし」という姿勢がみえる。圧巻は急速調のバップナンバー「Groovin' High」で、お馴染みのテーマから抜け出すルーのソロの美しいことこの上ない。続くバードとフラー、そしてソニー・クラークのソロも何気ない中に閃きがあるし、ジョージ・ジョイナーとアート・テイラーのメリハリあるバックキングも気持ちがいい。

 暗殺を恐れ同じ形の寝室を複数作ったスターリンをはじめ、地下壕で自殺したヒトラー、毒殺された後、古タイヤと一緒に焼かれたポル・ポト、絞首刑になったフセイン、殺害後、生存説を払拭するために遺体が一般公開されたカダフィー大佐、何の影響力も効力のない命令書を書き続けたアントニオ・サラザール、葬列は群衆のブーイングを浴び、棺に唾を吐きかけられたレオポルド2世等々、独裁者の末路はみえている。
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情熱の赤が似合う女、アビ・レーン  

2017-10-01 09:00:00 | Weblog
 ジャズ誌でエロティックなジャケットを特集するとき必ず登場するレコードを、ここ数回話題にしてきた。インストばかりだったので、ここらでヴォーカルといこう。シンガーとなると声やテクニックは勿論のこと、容姿も重要視されるだけにジャケットも色気を前面を押し出したものが多い。数枚並べるだけで雑誌をめくりながら今宵はどのプレイメイトと過ごそうか、と妄想逞しくした若いころを思い出す。

 ホット・リップス・ペイジのヒット曲に「The Lady In Bed」というそのものズバリのタイトルがあったが、こちらは「The Lady In Red」だ。まだ国内盤が出ていないころ、レコード店で初めて見たときはアビ・レーンを知らなかったので、艶めかしい写真はモデルで喘ぎ声入りのムードミュージックにみえた。裏ジャケットを見ると背中が大きく開いたドレスを着た彼女が髪をかき上げながらこちらを振り返っている。すれ違いざまに思わず振り返るという最高のシチュエーションだ。「Abbe Lane With Sid Ramin's Orchestra」というクレジットでシンガーと分かったが、それにしても魅力的なグラマーである。

 「Ain't Misbehavin'」に「You're Driving Me Crazy」、「All of Me」、「It's Been a Long, Long Time」とスタンダードが並ぶ。全体にまったりとしたバラードで耳元でささやくような歌唱はこのテンポがいい。なかでもコール・ポーターの「I Get a Kick out of You」はメリハリもありドラマチックな仕上がりだ。歌詞に「cocaine」が出てくる曲として有名だが、ここでは「perfume from Spain」に変えて歌っている。スペインには王室御用達の伝統あるブランドがあるそうだが、なるほどこの女性ならそんな香水より刺激的だ。「Get a Kick out of」は、「快感を得る」という意味だが、この美しい脚で文字道り「Kick」されたいと願うのは小生だけだろうか。

 アビ・レーンはルンバの王様ザビア・クガート夫人だ。正確に言うと5回の結婚歴があるクガートなので、「だった」が正しい。バンド・リーダーがシンガーを口説くのが当たり前の時代だった。美人でグラマー、歌も上手い、テレビにも引っ張りだこという人気者、これだけで十分なのだが、何と語学も堪能でその母国語で歌うそうだ。クガートと演奏旅行で各国回るうち覚えたというから大したものである。才色兼備とはアビ・レーンをいうのだろう。
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