Zooey's Diary

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「ムッソリーニ 愛の勝利を」

2011年06月17日 | 映画

この映画、批評家が軒並み絶賛していたのです。
日経、朝日新聞ともに星5ツ、日経に至っては本年度No.1の傑作だと。
全米批評家協会賞主演女優賞を獲得したほか、世界中の映画祭で絶賛されたとも。
そこまで言うなら、と観に行ったのですが…

独裁者ムッソリーニに尽くした愛人イーダの悲惨な生涯。
妻子ある身のムッソリーニはイーダと恋に落ち、イーダは全財産を投げ打って彼を支え、
一人息子も授かる。
しかし国家統帥となったムッソリーニは、彼女の存在を消そうと書類を改ざんし、
精神病院に送り込む。
彼女は愛の真実を訴え、一人立ち向かうが…

この映画、とことん不親切にできています。
歴史背景、状況についての説明はまったくなく、時間系列も錯綜する。
不安を覚える観客を置き去りにしたまま、これでもかと緊張と慟哭のシーンの数々。
情欲の赴くまま、といった感じの恋愛が始まったかと思うと
あっという間にイーダは精神病院に入れられ、血みどろの孤独な闘いが始まる。
画面の美しさには所々息を呑みます。
真っ赤な血、暗い石畳の道、白い粉雪、白黒の歴史的実写映像。
精神病院の高い鉄格子を深夜イーダが登り、降りしきる粉雪の中を息子への手紙をばら撒く
シーンは圧巻としか言いようがない。
母親に教え込まれた息子は、自分はムソリーニの嫡子であるという主張を曲げず、
最後には母親と同じように悲惨な末路を辿ります。

事実に基づいた物語ということですが
これが真実だとしたら、なんという痛ましいことなのか。
人間を不当に拘束し、自由を奪うことで狂気に追い込む精神病院の恐ろしさ。
現代のイタリアの精神病院は非常にオープンで人間性が尊重されているということを
何かで読んだことがあるのですが
まだ近代まで、こんな恐ろしい歴史があったのですね。
ファシズムの光と影、人間の愛と憎、欲と業。
ムッソリーニという男は、独裁者として国家を破滅に追い込もうとしただけでなく、
自分の身内(愛人)をも、その手で葬ろうとしたのか。
自分の息子にも、あんなにもむごいことをしたのか。
この映画のタイトルは「ムッソリーニ 愛の勝利を」というのです。
だから私は、最後には愛が打ち勝ったようなヒューマン・ドラマを期待していたのですが
「愛の勝利を求めたが叶わなかった」という意味だったのですね…

「救いのない映画」の救いは、現実の世界がどんなにひどくてもその映画の世界よりまし、
ということを気付かせてくれることなのでしょうが
あの監督の力量はあまりにも凄くて(そういう意味では確かに凄い作品だった)
なんだか打ちのめされてしまいました。
映画館から出たら平和な日本で、明るい初夏の日であることが
信じられないような気持でした。


「ムッソリーニ 愛の勝利を」http://www.ainoshouri.com/
コメント
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