「火花」
2015年08月08日 | 本

父が生きていた頃は、毎月とっていた文藝春秋。
昔は、たまに実家に帰る度にまとめ読みするのを楽しみにしていました。
「あほが書いた小説です。あほなりに人間を見つめて書きました。」
という又吉氏の言葉に釣られて、本日発売の9月号を思わず購入。
売れない芸人の「僕」は、熱海の花火大会で先輩芸人の神谷と出会う。
師弟関係を結んだ二人の交流、芸へのもがき、空回りする人生。
笑いの真髄について、あるいは実にどうでもよいことについて
議論しながら生きて行く二人。
自分たちの芸や人生の、微細なことに拘る不器用な男たちの、不器用な生き様。
「僕」は神谷を敬愛し、彼から嫌われたり、芸人としての能力のなさを軽蔑されることを恐れている。
神谷は「僕」を弟子として目をかけ、気を配っている。
そんな二人の、何処まで本気なんだか分からない、漫才のような会話が全編を彩っている。
”神谷さんが相手にしているのは世間ではない。
いつか世間を振り向かせるかもしれない何かだ。
その世間は孤独かもしれないけれど、その寂寥は自分を鼓舞もしてくれるだろう。
僕は、結局、世間というものを剥がせなかった。
本当の地獄というのは、孤独の中ではなく、世間の中にこそある。
神谷さんは、それを知らないのだ。
僕の眼に世間が映る限り、そこから逃げる訳にはいかない。
自分の理想を崩さず、世間の観念とも闘う。”
とても「あほ」とは思えない人生観が淡々と語られます。
テンポのいい関西弁のやり取りが、愉しくてそして悲しい。
年月が経ち、「僕」は少しずつ売れて行くが、神谷は少しづつ壊れて行く。
終盤の神谷の行動はしかし、私には納得できるものではありませんでした。
あまりにもシュール過ぎるし、それに対する「僕」の反応はあまりにも
現実的過ぎる気がします。
どう着地するのかと期待しながら読んだのですが…
ちょっと残念。
「火花」 http://tinyurl.com/pr74t6f