Zooey's Diary

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「スクラップ・アンド・ビルド」

2015年08月10日 | 


文藝春秋今月号に載っていたもうひとつの芥川賞作品。
それにしても純文学の感想を書くというのは難しい。
話題作であるだけに、あまりネタバレする訳にもいかないし。
前回の「火花」といいこちらといい、こういった作品を読んだという
あくまでも備忘録です、自分のための。

87歳の寝たきりに近い祖父を、28歳のその孫、健斗が在宅看護する。
「死にたい」を口癖とする老人を健斗は冷たく見つめ、
そんなに死にたいのなら協力してやろうじゃないかと考える。
手厚い介護をするように見せかけて祖父の活動を阻止し、
祖父の体を弱体化して緩慢な死への導入としようとする。
なんとも薄ら寒くなるような話です。

”今朝の新聞やチラシの束が手つかずでローテーブル上に置かれている。
することがないなら、せめて新聞の見出しを眺めるくらいのことはしたらどうだ。
まるで居候の身をわきまえていると主張しているかのように、
ここにずっと住んでいる母や健斗から許可されるまで何にも手をつけない
祖父のハリボテの奥ゆかしさに鼻白む。”

”「もう、毎日身体中が痛くて痛くて……どうもようならんし、悪くなるばぁっか。
よかことなんかひとつもなか」
背を丸め眉根を寄せ、両手を顔の前で合わせながら祖父がつぶやく。
佳境にさしかかった、と健斗は感じる。
「早う迎えにきてほしか」
高麗屋っ。中学三年の課外学習で見た歌舞伎で、友人たちと面白がり口に
しまくった屋号を思いだす。祖父の口から何百回も発された台詞を耳にしながら、
健斗は相づちをうちもせずただその姿を正視する。”

健斗には恋人もいるのですが、これがまた性欲の処理係でしかない。
日に日に弱って行く、老いさらばえた体の祖父。
眼の前で衰弱する肉体を見ながら、筋トレや自慰に励んで身体を鍛え、
体力を強化しようとする孫。
しかし、ある事件をきっかけに二人の立場は微妙なことに…
作者の、登場人物を描く目の冷やかさには驚かされるばかりです。
自虐的なユーモアも、そこには見受けられるのですが。

老人と若者の双方の立場からの、生への執着をこんなにも後味の悪いものに
描き上げるとは。
お見事、と言うべきなのでしょうか。

「スクラップ・アンド・ビルド」 http://tinyurl.com/qxuebww
コメント (8)
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