Zooey's Diary

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イスラエルの闇の断面「運命は踊る」

2018年10月11日 | 映画


疲れる映画です。
最初から最後まで、緊張感が尋常じゃない。
手に汗握る思いをして観て、最後にカタルシスがある訳でもない。
それでも一言書きとめておきたい、書かなきゃいられないと思わせる、そんな映画です。
昨年のヴェネチア国際映画祭審査員グランプリ受賞。

成功した建築家夫妻のスタイリッシュなマンションの部屋に、
イスラエル軍兵士である息子の戦死の知らせが届く。
母親ダフナは倒れ、父親ミハエルも動揺を隠し切れない。
ところがそれは誤報であったことが分かり、
ミハエルは激怒し、すぐに息子を呼び戻すように軍部に詰め寄る。



第二幕は、荒涼とした国境地帯に舞台が移る。
遥かに険しい山並み、見渡す限り続く岩肌と砂漠。
息子ヨナタンはそこで、若い兵士3人と共に検問をしていた。
日に何台も通らない車、何も起こらない戦場での退屈極まりない日々。
汚いコンテナで寝泊まりし、不味そうな缶詰肉を食べる日の繰り返し。
たまに通るパレスチナ人には、傲慢な態度で接する。
ある夜、若いパレスチナ人の男女4人が検問を通ろうとして
ヨナタンが検問に当たるが、魅力的な女性が車のドアを開けた瞬間・・・



第三幕、都心の建築家の部屋に舞台は戻るが、最初に比べて部屋は妙に荒れている。
夫妻の会話から、息子は亡くなり、二人は別れていることが分かる。
戦死しなかった筈の息子に何が起きたのか?
観ている側は知りたくてイライラするが、答えは最後のシーンにまで持ち越される。

音楽というものが殆どない、静かな映画。
日常の何気ない音が、意味あり気に響き渡る。
観客は緊張の果てに、イスラエルという国の闇の一断面を見ることになる。
戦場の残酷なシーンはひとつもないのに、戦争の残酷さ不条理さが染み渡る。



ミハエルに訳もなく蹴りつけられる、飼い犬マックスの瞳が悲しかった。
それでもミハエルに寄り添って来るところを見ると、可愛がられてもいたのでしょう。
愛する者を痛めつけないではいられない、ミハエルの屈折ぶりを表していたのか。

脚本・演出も手掛けたサミュエル・マオズ監督は1962年イスラエル・テルアビブ生まれ、
1982年のイスラエル軍によるレバノン侵攻では、戦車部隊の砲手として従軍したといいます。
そしてこの映画は、イスラエルの政治家に激しく非難されたといいます。
原題は「Foxtrot」、ソシアルダンスの基本ステップのひとつだそうで
映画の中にも、それを踊るシーンが何度か出てきます。
ステップは始点に戻ってくる、結末は元に戻るということを言いたかったのか。
どうあがいても同じ所へと帰ってしまう運命を呪いたかったのか。
あるいは、戦争が日常にあるイスラエルの不条理さを暴きたかったのか。
観客にいくつもの疑問符を投げかけたまま、映画は唐突に終わります。

公式HP http://www.bitters.co.jp/foxtrot/

#welovegoo


コメント
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