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今年のアカデミー賞最優秀作品賞有力候補のひとつと言われている作品。
18世紀、フランスとの戦争下にあるイングランドの王室が舞台。
肥満で通風持ち、無知で孤独で情緒不安定なアン女王(オリヴィア・コールマン)。
その女王の寵愛を巡っての、女官長レディ・サラ(レイチェル・ワイズ)と
没落した貴族の娘のアビゲイル(エマ・ストーン)との熾烈な争い。
映画の冒頭、アビゲイルが乗った狭い6人乗りの箱型馬車の中で
男がいきなり自慰を始めて驚かされます。
この映画は一体何処へ向かうのだ?という不安を
神経を逆撫でするような一音のみの音楽が、更に掻き立てます。
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当時の宮廷模様を忠実に再現したという美術そして衣装は、本当にすばらしい。
しかし、そこに描かれる人間模様は…
下品で滑稽で、醜悪なこと甚だしい。
女王のお気に入りになろうとする二人の女は、手練手管を使って女王をたぶらかそうとする。
(とにかく「舌技」まで使うのです!)
ライバルをどんな汚い手を使っても蹴落とそうとする。
そしてその女たちに関わる男たちは、保身に走る小心者ばかりで、更に情けない。
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無知で高慢な女王の癇癪癖に辟易しますが
かつて17人もの子を流産死産したと知って驚きます。
その代わりに彼女の部屋にいる17羽のウサギを溺愛する、孤独な女王。
幼なじみのレディ・サラに全幅の信頼を寄せるものの、その高圧ぶりが鼻についてきた女王は
初々しい新入りのアビゲイルに心を寄せ、彼女との交流によって少し癒やされたかのように見えますが
ラストに唖然とさせられます。
レディ・サラを蹴落とし、権力を手に入れたつもりであったアビゲイルは
自分も踏みつけられたウサギにすぎないと思い知ったのか。
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善人が一人も登場しないという映画です。
女三人のいびつな「王様の椅子取りゲーム」と見れば面白いのかもしれませんが
私は、こうした人間の暗部を抉り取ったような作品は好きでないということが
つくづく分かりました。
女優3人の鬼気迫る競演は見事なものですが、評価が分かれる作品だと思います。
ヨルゴス・ランティモス監督、原題は「Favorite」。
公式HP http://www.foxmovies-jp.com/Joouheika/