題名から、草原が広がるチベットを舞台にした牧歌的な作品かと思いましたが、とんでもありませんでした。
2020年東京フィルメックスで最優秀作品賞受賞作。
チベットのペマ・ツェテン監督が、大草原に生きる羊飼い家族の日常と葛藤を描いた作品です。
粗末な小屋のような家で牧畜をしながら暮らす祖父、若夫婦、3人の息子の三世代の家族。
昔ながらの素朴で穏やかな生活をしていたが、近代化は進み、中国の一人っ子政策の下にあった。
そんなある日、妻ドルカルの妊娠が発覚する。
産めば経済的な逼迫は免れず、罰金も払わなくてはいけない。
ドルカルは堕胎を望むが、敬虔な仏教徒の夫はそれを許さない。
折しも義父が亡くなり、その生まれ変わりと信じる息子たちも出産を望んでいる。
ドルカルは散々悩んだ末に…
こんなマイナーなチベット映画を観る人がそうそういるとは思えないのでネタバレしますが、ドルカルは結局堕胎し、しかし罪の意識に耐え切れず、出家してしまうのです。
それしか道はなかったのか?
色々と腹が立つ点も多い。
大体、夫婦は何故避妊をしなかったのか?
コンドームを子供たちが風船代わりに遊んで使ってしまったといえ、中学生じゃあるまいし、少しくらい我慢できないのか?
性欲旺盛な夫が強制的にという訳でもなく、妻も性生活を楽しんでいたようでもあるのに。
夫は「高僧がそう言うのだから間違いない」と転生を信じて出産を望むが、単に迷信を妄信しているようにも見える。
追い詰められた妻は出家してしまい、結局夫は妻を、子供たちは母親を失ってしまうのです。
おそらく中国政府の検閲に晒されるのでしょう、反政府的な声高なメッセージはありませんが、静かなメッセージは伝わります。
宗教と政策、伝統的風習と近代化、無知と近代医療。
それらの衝突に揺れるチベットの牧畜家族の苦悩が、重く心に残ります。
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