金毘羅宮で知った「こんぴら狗」のことが頭から離れなくて
それについて書いた本を探してみました。
犬好きな中野孝次あたりが書いていないかと期待したのですが
見つかったのは、その名も「こんぴら狗」今井恭子著。
近年出版されたくもん出版の児童向け書物なのですが
45冊の参考文献、3年に渡る取材を元に書き上げたというだけあって、中々面白い。
日本児童文学者協会賞を受賞しています。
江戸の線香問屋の娘、弥生は、死にかけていた捨て犬を拾って
ムツキと名付け、大事に育て上げる。
しかし、やがて弥生は問屋の惣領である兄を病気で亡くし、自分も病に倒れてしまう。
案じた両親は、ムツキを可愛がってくれる近所のご隠居に頼み、
こんぴら狗として、治癒祈願参りの旅に出すことにする。
ムツキは、飼主の名前、初穂料、道中の食費などが入った「こんぴら参り」と
記した袋を首にかけられて出発するのです。
しかしご隠居は、鈴鹿峠の辺りで病に倒れ、客死してしまう。
ムツキは峠の山道に一人ぼっちで取り残され…
往復340里(1340㎞)にもおよぶ旅路と、道中での出会いや別れ。
脚の悪い寺男、若い托鉢の僧、にせ薬の行商人、船の見習い小僧、
優しい芸者見習いの少女、金毘羅船の船頭、若い大工、百姓、犬嫌いの名主。
そして帰り道で出逢ったのが、盲目の幼い息子宗朗を連れた母親澄江と下男の三人連れ。
澄江は江戸の油問屋の女将で、息子の目を案じての伊勢参りの帰りだったのです。
ムツキは沢山の人の情けでそこまでの旅をなんとか果たすのですが
無論、全部が良い人ばかりという訳ではないので、その3人に出逢ったことに
読者は胸を撫でおろします。
楽しいだけではない旅の道中、宗朗はムツキを可愛がり、ムツキは宗朗を助け、
澄江は息子の成長ぶりを見て心から喜ぶからです。
ムツキが出逢ったのは、悪い人もいましたが、多くは貧しくも善き人たち。
ご隠居が亡くなり、山道を何日も彷徨って死にかけていたムツキを救った百姓家の老婆の言葉。
「こんぴら狗と一緒やと、なんではよう言わんかった?
犬がここで死んでみい。金毘羅さんのバチが当たるやろ。
死なせるわけにゃいかん。なんとしても、死なせるわけにゃいかん。」
この本によれば、そうしたところが当時の人々の一般的な考え方だったようです。
終章。
”澄江が宗朗の手を引いて郁香堂を訪ね当てたころ、お店の周りには幾重にも人垣ができていた。
「ここの犬が金毘羅さんから帰って来たってな」
「おお、こんぴら狗よ」
「話半分じゃねぇのか」
「いや、日本橋を走って帰ってくるのを見た奴もいる」
「そいつがよ、突っ走って来て、そこの角で炭屋をすっころがしたってぇじゃねえか。
お蔭で、ここで炭を全部買い上げて貰ってよ、お祝儀まではずんでもらったってよ」
「あたしゃ昔からムツキを知っていたがね、ほんにええ犬じゃったよ。
じゃが、ここまで利口とは思わなんだ」”
久しぶりに児童文学の醍醐味を味わいました。
「こんぴら狗」
http://tinyurl.com/y4gc28v8