ビジョン明示の鳩山発言が共感を呼ぶ党首討論
5月27日午後3時から3時50分にかけて、民主党代表鳩山由紀夫氏と麻生太郎首相とによる初めての党首討論が行われた。鳩山氏が民主党を中心とする野党による政権交代実現によって目指す社会、政治の展望を示し、首相の見解を質したのに対し、麻生首相は明確なビジョンを示さず、西松事件をネタにした迫力のない民主党攻撃に終始した印象が強い。
党首討論の結果、次期首相に鳩山氏を望む国民の声がさらに拡大すると予想される。
鳩山代表は政権交代を実現して目指す社会の方向、政治の方針について、五つの視点を提示した。内容は本ブログ5月25日付記事
「政権交代への胎動が響くさいたま市長選」
に記述した「政権交代が必要である五つの理由」に、ほぼ重なるものである。鳩山氏が指摘した五つの視点は以下の通りだ。
第一は、企業団体献金を3年以内に全面禁止し、「政治とカネ」の問題に対する国民の声に全面的に応えること。また、政党支部を通じる迂回献金については直ちに全面禁止に移行することも明言した。
第二は、「官僚天下り天国」を終焉させることである。麻生首相は3年以内に「天下り」、「渡り」を禁止するかのような発言を示したが、これは国民を欺(あざむ)く発言である。
麻生首相の言う「天下り、渡りの禁止」は当該機関が「天下り」と定義するものを規制するだけで、天下り機関が自発的に動いて行なう官僚OBを迎え入れる人事を含まない。結果的には、現存する天下りがそのまま全面的に容認されるもので、「天下り」、「渡り」の禁止ではなく、「容認」、「温存」である。鳩山代表はこの点を指摘すべきだったが、時間の制約が強く、指摘できなかった。
鳩山代表は「天下り」と補正予算での「官僚利権拡大」の実態を、数値をあげて説得力をもって説明した。
鳩山代表は民主党が調べて明らかにした「天下り」の実態として、4500の天下り機関に25000人が天下りし、12.1兆円もの国費が投入されていることを指摘した。4500の天下り機関の半分が政府と随意契約を結んでいるとのことだ。
本予算で6490億円しか予算が計上されない公的部門の施設整備費に補正予算で2.8兆円もの国費が投入されること、役所の公用車購入1万5000台=588億円、地デジ対応テレビ7万1000台=71億円が補正予算に計上されたことが厳しく指摘された。
補正予算では58の基金に4.6兆円の国費が投入され、これも官僚利権拡大の「バラマキ」政策と批判されているが、質問のなかったこの点について麻生首相が弁解じみた説明をした一方で、鳩山代表が質問した点については答弁がなかった。巨額の国費投入について「バラマキ」との自覚があるのだろう。
第三に、このような「バラマキ」予算を組みながら2年後に消費税大増税をすることなど許されないことを鳩山代表が指摘した。この点についても麻生首相の説明はなかった。
第四に、鳩山代表は、世襲批判に対応して、三親等以内の親族が同一選挙区から世襲立候補することを禁じる提案を示したが、麻生首相は、各党が定めることだとして同意しなかった。
自民党は世襲候補者に公認を与えないことで、この問題を乗り切ろうとしているが、選挙後に追加公認する可能性が高い。小泉元首相の次男の世襲立候補が批判されているが、自民党は抜本的な規制を実行する考えを持たないのだと思われる。
第五に、鳩山代表は「友愛」の思想を政治の世界で実現する具体的な考え方を示した。三鷹(みたか)第四小学校の事例を示し、生徒、学校、ボランティアの指導者、がタイアップして学校運営に取り組み、成果を上げていることを説明した。
市場原理主義でもなく、借金漬けの官僚丸投げの政策でもなく、第三の道を模索する重要性を指摘した。
日本の社会から「温(ぬく)もり」が消え、人と人との「絆」が消えたことを憂慮(ゆうりょ)し、この「絆」を回復し、すべての人に居場所が与えられる社会を創出することの重要性についての鳩山氏の主張には、恐らく多くの国民が共感を覚えると考えられる。
麻生首相は、鳩山代表が提示した五つの提言に対して、言及しなかった消費税以外の四点について、基本的に後ろ向きの考え方を示した。「絆」の回復に関して反対の意見表明はなかったが、具体的提案は示されなかった。
企業献金については、企業も社会の一員であることを根拠に、正当化する主張を示した。麻生首相は企業献金を合法とした最高裁判決を企業献金を肯定する論拠とするが、「政治とカネ」の問題が長期にわたって解消しない背景に、企業献金を容認している現行制度があることを踏まえる必要がある。
こうした現実を踏まえて民主党は「企業団体献金の全面禁止」に踏み込み、その法制化を提案しているのである。
麻生首相は小沢氏の秘書が逮捕されたことだけを頼りに、民主党攻撃の同じ話を繰り返したが、鳩山代表が指摘したように、逮捕=有罪ではない。
鳩山氏は、むしろ同じ行動が存在しながら、自民党議員に対して捜査がまったく波及せず、小沢氏秘書だけが逮捕されたことが問題であると指摘した。正鵠を射た指摘である。不正な政治謀略に対して毅然とした姿勢を示した鳩山氏の行動が高く評価される。
小沢氏の問題についての説明責任については、第三者委員会がすでに小沢氏に対する意見聴取を終えて、近く詳細を報告することが明示された。当事者である小沢氏秘書は昨日26日に保釈され、「政治資金規正法に則って適正に処理してきた」との見解を公表している。3月25日午前零時のNHK定時ニュースでの「大久保氏が容疑事実を大筋認める供述を始めた」との大誤報の真相が明らかにされなければならない。
そもそもこの問題には、当初から「国策捜査」、あるいは「政治謀略」の批判が付随している。疑惑当事者の麻生首相が「国策捜査批判はおかしい」と訴えても、まったく説得力を持たない。
この問題について麻生首相は、「逮捕されたから違反があったのだろう」との趣旨の発言を繰り返したが、攻撃とはいえ、いかにも迫力を欠いていた。
国民の多くが今回の検察捜査に強い不信感を抱いている。麻生首相は世論調査での「小沢氏の説明責任が足りない」との声を頼りにしているようだが、自身に対する「高不支持率」、次期首相にふさわしい人物で鳩山代表の後塵(こうじん)を拝していること、次期総選挙での投票先で民主党が自民党を大幅に上回っていること、などについてどのように考えているのか。見解を示すべきだった。
総選挙が目前に迫る。鳩山代表が、
①企業団体献金の全面禁止
②「天下り」、「渡り」の全面禁止
③消費税大増税阻止
④世襲立候補制限
⑤「絆」を取り戻す政治
の五つの方針を明示したのに対し、
麻生首相率いる自公政権は
①企業団体献金温存、
②「天下り」、「渡り」温存、
③2011年度以降の消費税大増税
④抜け穴付き世襲立候補制限
⑤「市場原理主義」容認
が基本方針であると、理解されて構わないのか。次回党首討論では、明確な方針提示が強く求められる。
御用メディアが党首討論をどのように伝えるのかが注目されるが、党首討論を直接視聴した国民は政権交代の必要性をさらに強く実感したと思う。鳩山代表の発言が強い共感を呼ぶ意義ある党首討論であった。