睡蓮の水面に浮かぶ白き華 小夜更けきみは褥に浮つ
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Gorgōn
一つ松 幾代か経ぬる吹く風の 声の清きは年深みかも 市原王
ところで、人間の起源について古代ギリシア人は神々が
存在した往古より人間の祖先は存在していたとする考え
を持っていたとされる。他方、『仕事と日々』は構成的
には雑多な詩作品を蒐集したといい、当時の農民が抱い
ていた世界観や人間観が印象的な喩え話のなかで語られ
ていた。ギリシア人は「人は土より生まれた」との考え
を持っていて、元々はすべて「大地(ガイア)の子」で
あり、人間はガイアを母とする。異なるのは、神々は不
死にして人間に比べ卓越した力を持ち、神々は貴族であ
り人間は庶民とする。
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新しく勃興したキリスト教は、神話を否定したプラトー
ンの思想の延長上にあり、千年以上にわたって続く西欧
精神のなかで、ギリシア神話はもはや宗教ではなく、こ
の神話に登場する逸話や神々を、自然現象の寓意とも娯
楽のための造話とも見なされた。
Sir James George Frazer
ジェームズ・フレイザーはフイードリヒ・ミューラーと
同じく自然神話学を唱えたが、彼は『金枝篇』で王の死
と再生の神話を研究し、神話は天上の自然現象の解釈で
なく、地上の現象と社会制度の反映であるとし、神話は
呪術的儀礼を説明するために生み出されたと主張した。
ミューラーの解釈では、ゼウスは太陽の象徴で神々の物
語も、太陽を中心とする自然現象の擬人的解釈であるが、
フレイザーでは、「死して蘇る神」の意味解明が中心主
題だとする。エレウシースの秘儀がこのような神話であ
り、ディオニューソスもまた死して後、ザグレウスとし
て復活する。
エレウシースの秘儀
彼らは多様な神話の比較神話学で、何が神話の神髄要素
を抽出する作業とも言えるが、20世紀には、ジークム
ント・フロイトが代表者とも言える無意識の発見と、深
層心理学の諸理論であり、いま一つは、ソーシュールの
共時的言語学、すなわち構造主義言語学である。19世
紀の比較神話学派と20世紀の構造的な神話解釈派の間
に立つのが、ジョルジュ・デュメジルで「三機能論」を
唱えたとされる。
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ソーシュールの構造の概念を適用したレヴィ=ストロー
スは、例えばオイディプースの悲劇を「神話的思考」(
野生の思考)の存在を提唱した。神話の目的は、現実の
矛盾を説明し解明するための構造的な論理モデルの提
供にあるとした。オイディプースの神話の背後には様々
な矛盾対立項があり、例えば、人は男女の結婚によって
生じるという認識の一方で、人は土から生まれたという
古代ギリシャの伝承の真理は、この矛盾を解決する構造
把握を神話であるとした。
Ferdinand de Saussure
フロイトの深層心理学の理論は、歴史的に現れる現象と
別に時間を超えて普遍的に存在する構造の存在を教える
とし、カール・ユングは、普遍的・無時間的な構造の作
用として元型概念を提唱する。ケレーニイとの共著『神
話学入門』においては、童子神の深層心理学分析は、コ
レーや永遠の少年としてのエーロスが太母(地母神)の
デーメーテールなどとの関係で出現する元型であり、「
再生の神話」と呼ばれるものが、無意識の構造より起源
する自我の成立基盤であり、自我の完全性への志向を補
完する普遍的な動的機構であるとした。
ユングの心理学(分析心理学)や元型概念に強く影響さ
れたミルチア・エリアーデは歴史に対し否定的な態度か
らその理論を出発させる。エリアーデは前近代社会と近
代社会を対比させ、後者は歴史的・世俗的な現実のあり
ようを重視し、人間の立ち位置を社会の歴史的位置付け
把握する。他方、前者の古代社会は、歴史とは無縁な社
会であり、寧ろ歴史を意図的に軽視する社会で、人間は
近代社会の歴史性にある限り、存在根拠が定かでなく、
絶え間ない不安にある存在とする。
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しかし古代社会では、世界と人間の起源が神話によって
説明され、人間の存在意味や社会の安定は、起源神話へ
の依拠、起源神話の作用として実現しているとした。起
源神話は、この20世紀でも、世俗的な歴史的社会と異
なる次元で並列して存在し、神話は人の実存的な存在に
根拠を与える。西欧はキリスト教の神話で覆われながら、
異教的要素が存在し、ギリシアの古代の神話は非歴史的
にキリスト教の進歩主義・歴史主義を乗り越えるとされ
るとまとめ、今日はこの辺で。
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スイレン属(学名:Nymphaea)は、水生多年草。単にス
イレン(睡蓮)と呼ぶことが多い。日本ではヒツジグサ
(未草)の1種類のみ自生。日本全国の池や沼に広く分
布している。白い花を午後、未の刻ごろに咲かせる事か
らその名が付いた。長く添ってきたものの、時として、
心静かで深く、愛おしい夜もあったよと幻想的に歌う。
水面に白、赤、紫の花咲かす「スイレン」。花言葉は「
信仰」。
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