昨年末偶然に巻上公一の知己を得た。ヒカシューを率いる一方でヴォイス・パフォーマーとしても世界的に活動する巻上は、「Jazz Artせんがわ」の音楽監督を務めるオーガナイザーでもある。世界中の音楽シーンに精通した巻上に、昨年YouTubeで「発見」したクリス・ピッツイオコスなどのニューヨーク即興シーンについて尋ねてみた。ピッツイオコスのことは知らないが、NYのミュージシャンとは数多く交歓していて、トランペットのピーター・エヴァンスとは、昨年10月NYのライヴハウスThe Stoneのレジデンシーで滞在した折にデュオをして「とんでもないバカテクの奴」(巻上談)だったという。昨年末から「NYハードコア・ジャズ・シーン」の活況ぶりについては何度も書いてきたが、実際に体験した巻上の話により筆者だけの思い込みではないことが確認できた。
⇒【DiscReview】Chris Pitsiokos, Weasel Walter, Ron Anderson/MAXIMALISM 「活性化するニューヨーク即興シーンから登場したハードコア・ジャズ遊星群」
⇒【入門ガイド】現代ニューヨーク・ハードコア・ジャズ・シーンを知る為の4枚のアルバム
そんな折、Facebookのタイムラインから『JAZZ RIGHT NOW』というサイトの存在を知った。キャッチフレーズは「21st Century Improvised Music on the New York Scene(ニューヨーク・シーンの21世紀即興音楽)」。現在のNYシーンの詳細な情報を掲載したサイトである。VIDEO集にはNYのライヴハウスで開催された最新動画が多数ラインナップされている。
Tom Rainey, Ingrid Laubrock, Mary Halvorson [1st set] @ Cornelia Street Café, 12-30-14
Chris Pitsiokos, Brandon Lopez, Tyshawn Sorey Live at the Manhattan Inn 2014-11-10
Ken Vandermark, Nate Wooley 2015-01-14 Conundrum Music Hall
名前も知らないミュージシャンも多いが、どれも驚くほど充実した演奏を展開している。またその殆どが固定カメラながらフルセット収録した映像なので、ヴィヴィッドに現地の状況を伝えてくれる。アーティスト/バンド・リストを見れば、いかに多くの才能が現在のNYシーンを形成しているのか俯瞰できる。
Chris Pitsiokos, Ron Anderson, Brian Chase, Freddy's Bar and Backroom, August 26, 2014/2014 © Peter Gannushkin
前置き(ABOUT)には、NYシーンの今、およびサイトの方針が綴られている:
現代ニューヨークの創造的即興音楽シーンの論評サイト『ジャズ・ライト・ナウ』へようこそ。シーンの最新ニュースと共にミュージシャン、レコーディング、インタビュー、コンサート、レビュー、その他の情報を掲載する。このサイトは、特に若い新進気鋭のアーティストに重点をおいて、ニューヨークで現在進行中の音楽ルネッサンスに大きな光を当てたいという願望から生れた。ニューヨークは、多くの創造的なミュージシャンの歴史的業績の上に築かれた、世界中の最もエキサイティングな音楽シーンの拠点のひとつである。
しかしコンテンポラリーな即興音楽は、得てしてオーネット・コールマン、ジョン・コルトレーン、エリック・ドルフィー、チャールズ・ミンガス、セシル・テイラーなど偉大な先達の偉業の影になりがちである。しかしポスト・コルトレーン時代の創造的音楽家たちが不当に無視されていることを思えば、現代シーンの動向を今まで以上にクロースアップする必要性が高まっていることは間違いない。今日のミュージシャンは、前の世代の偉大な創造者に劣らぬ創造性、エネルギー、革新性、そして信念をもって活動しているのだから。
またこのウェブサイトの目的は、前の世代が陥った「ジャズ戦争」「ジャンル戦争」を乗り越えることでもある。「純血性」を望んでジャズだけ分離して、「ジャズとは何ぞや」の定義に終始するのは全く実のない試みである。実際に現代NYのミュージシャンたちはジャンルを越えて活動し素晴らしい成果を生んでいる。ここで「ジャズ」という言葉を用いるのは、スタートの基準点を意味するだけであり、定義や分離のための限定用語ではない。音楽は簡単に分類してしまうにはあまりに面白すぎる。今の時代のミュージシャンは、ジャンルやサブ・ジャンルに囚われず、我々の両親や祖父母の世代が定義する「ジャズ」の境界を遥かに超越して行動している。「ジャズ」とは可鍛性(柔軟)と過渡性(変化)に富んだ言葉であり、新しい意味を加えたり古い意味を洗い流したりして、過去の分類に関係なく、我々が実体験している「今ここにある」ものなら何にでもなり得るのである。
シスコ・ブラッドリー(NYブルックリン・プラット・インスティテュート社会科学・文化研究科助教授)
Chris Pitsiokos/2014 © Peter Gannushkin
ジャズ落ちこぼれの筆者がYouTubeと音源だけで妄想したハードコア・ジャズ説と、根底では相通じる「ジャズ」の捉え方は、手前味噌ながら、21世紀の「ジャズ来るべきもの」への啓示と言えるだろう。
⇒JAZZ RIGHT NOW website
いずれにせよ、『JAZZ RIGHT NOW』で知ることのできる情報は間違いなく「今ここにある」音楽のリアリティに間違いない。NYハードコアジャズの真実にアクセスすることこそ音楽愛好家の最大の悦びである。
ハードコア・ジャズは
コア・ジャズとは
ちと違う
<クリス・ピッツイオコス情報>
Chris Pitsiokos @ Tiasci - Ecole de musique indienne, Paris
●ヨーロッパ公演敢行
2015年
1月6日フランス・パリ w/ Fred Marty(b)
1月7・8日ドイツ・ライプチヒ w/Noah Punktt(b)& Philipp Scholz(ds)
●助成金を受領
活躍が期待される芸術家に贈られるRobert D Bielecki財団の助成金の受領者に選定された。2015年春にNew Atlantis Recordsからリリース予定のクリス・ピッツイオコス・トリオ(クリス・ピッツイオコスas、ケヴィン・シェアds、マックス・ジョンソンb)のデビュー・アルバム『Gordian Twine』に対して。
●新作2作のアートワークが完成
Weasel Walter/Chris Pitsiokos duo - Drawn and Quartered (One Hand Records): February 1st
Chris Pitsiokos/Philip White duo - PAROXYSM (Carrier Records): March 1st