A Challenge To Fate

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【Disc Review】Han-earl Park, Dominic Lash, Mark Sanders and Caroline Pugh / Sirene 1009

2016年12月24日 01時07分11秒 | 素晴らしき変態音楽


Han-earl Park, Dominic Lash, Mark Sanders and Caroline Pugh/Sirene 1009
パク・ハンアル、ドミニク・ラッシュ、マーク・サンダース、キャロライン・プア/ジレーネ

BAF000
Release date: January 31, 2017

Han-earl Park (guitar)
Dominic Lash (double bass),
Mark Sanders (drums)
Caroline Pugh (voice and tape recorder)

1. Psychohistory III (≥9:47)
2. Cliodynamics I (10:44)
3. Cliodynamics II (12:22)
4. Cliodynamics III (5:11)
5. Hopeful Monsters (9:41)
6. Psychohistory V (≥10:40)
Total duration ≥58:25

Music by Han-earl Park, Dominic Lash, Mark Sanders and Caroline Pugh.
Tracks 2–5 recorded live December 3, 2015, Cafe OTO, London. Recorded by Alex Fiennes.
Tracks 1 and 6 recorded June 16, 2016, Flood Studio, Birmingham. Recorded by Luke Morrish-Thomas.
Mixed and mastered by Han-earl Park.
Design and artwork by Han-earl Park.

NYからロンドンへ移植された即興音楽の鉱物図鑑(ミネラリズム)。

2012〜13年の2年間ニューヨークに滞在し、即興シーンの様々なミュージシャンと交歓し13年末に故国アイルランドに帰国したミュージシャン、パク・ハンアル。2013年にNYでレコーディングされた二つの異なるユニットEris 136199とMETIS 9の演奏を収めたアルバム『Anomic Aphasia』を2015年にリリースした。旋律や和声の呪縛から解き放たれると同時に、難解さや独善性の罠に陥らない開かれた創造空間は、碁石を削ったようなピックでギターから音を削り出すこのギタリストの柔軟な感性がNYにて開花したことを物語っていた。
『Han-earl Park, Catherine Sikora, Nick Didkovsky, Josh Sinton/Anomic Aphasia』名称が失われる即興音楽の極致を求めたドキュメント

帰国後2014年にイギリスをベースに活動するミュージシャンと結成したユニット「Serine 1009」の2015年12月にロンドンCafe OTOでのライヴを収めたアルバムが登場した。ここでも音楽の概念を拡張する創造性が遺憾なく発揮されている。ギター、ベース、ドラムというオーソドックスな編成で繰り出されるアンサンブルは、彼らしくそれぞれの楽器の「気配」を過剰に抽出した物音狂想曲を奏でる。演者の感情がまったく伺えない硬質な世界はハンアルの使うピック同様に鉱物的な響きを供するが、合同演奏の向こうに垣間見える風景は人間の営みを動物に例えた鳥獣戯画の如きカリカチュアに他ならない。それはすなわち、岩石絵具で彩色筆された水墨画である。

Han-earl Park, Dominic Lash and Mark Sanders (London, 10-30-14)


ひと際耳に眩しいのは、三種の楽器のオブジェ感を破壊し拡張するキャロライン・ピューのヴォーカリゼーションである。人声は否応なしに感情の発露装置として機能するが、会話と呻きと叫びと溜息と歌唱と言葉を自在に操る彼女の口腔は、それ自体が独立したオブジェと化し、Emotion(感情)からMIneral(鉱物)へのAufheben(止揚)に成功している。声を楽器にする、という表現はよくあるが、キャロラインの場合は声を物質にしている、と言い表すのが相応しい。

Han-earl Park/Dominic Lash/Mark Sanders/Caroline Pugh (Birmingham/Bristol/London Dec 2015)


「Psychohistory/精神史」「Cliodynamics/クレイオー(歴史の女神)の力学」という曲名には時間と共に変貌するアンサンブルの動力性が表されている。そこから生まれたのが「Hopeful Monsters/希望に満ちた怪物」だったというオチは、彼ら一流の皮肉だと解釈するのは些か早計だろう。なぜならユニット名の「Sirene 1009/ジレーネ」は火星を横断する小惑星であり、その語源はギリシア神話の上半身が人間の女性で下半身が鳥の姿をした海の怪物セイレーンである。つまり4者の精神の歴史を紐解きながらオブジェ化した音粒を浴びることから生まれた即興の極意は、歪な肉体に歓喜の雄叫びを上げるモンスターに他ならないからである。

Caroline Pugh, Han Earl Park, Dominc Lash, Mark Sanders Quartet at Cafe Oto, 3/12/15

公式サイト

2016/12/24 08:24追記
ハンアルの不思議なユニット名の多くは小惑星や無名の惑星の名前だとの説明が本人から寄せられた。天文学に興味を持つ発明家の側面はconstructor(建設者、構築者)という肩書きに伺える。音楽表現の革新をソフト/ハード両面から追求するハンの活動は「Improvised Music Right Now(今ここにある即興音楽)」と呼ぶに相応しい。
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ノイズとは
ふた味違う
ミネラリズム

鉱物図鑑Playlist


*初出時に間違った情報を掲載したことをお詫びします。
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