A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

灰野敬二 生誕記念公演 不失者@高円寺ShowBoat 2018.5.3(thu)

2018年05月09日 02時41分20秒 | 灰野敬二さんのこと


5月3日(木祝)東京 高円寺ShowBoat
灰野敬二 生誕記念公演 不失者

開場 18:00/開演 19:00
前売¥4,300/当日¥4,800(税別・ 別途ドリンク代¥ 600)
【出演】不失者 Fushitsusha



1978年に灰野敬二と白石民夫のデュオとして始動したとされるバンド「不失者」について灰野は以下のように語っている。

灰野:不失者は77年くらいでしょう。自分の中での不失者はその前から始まっているから。ただメンバーがいない。ソロ名義でやったときも不失者というマークは入れていないけど、俺の中では「不失者」だったんじゃないかな、ひとりであっても。だからそれをはじめにやっていたから、後にソロで「不失者」をやってたんだよ。だって「不失者たち」じゃないでしょ、「不失者S」でもなく。
JazzToykoインタビュー 灰野敬二:デビュー・アルバム『わたしだけ?』を語るより

つまり「不失者」とはメンバーがいるいないに関わらず灰野の中に存在しているのである。2012年の映画『ドキュメント灰野敬二』で描かれたように、不失者のメンバーは灰野により独自の音楽理論(「不失者理論」と呼ばれることもある)をみっちりと体得させられる。具体的な演奏法もあるだろうが、むしろ「音」「間」「リズム」への意識の仕方が重視されるのではないかと想像される。



主にトリオ、ときには4人組または2人組さらにソロとして、実体としては40年目となる不失者の現在進行形のライヴ・コンサートが灰野の66歳の誕生日に開催された。あえて固有名詞で記せば、灰野敬二(vo,g)、ナスノミツル(b)、Ryusuke Kiyasu(ds)。バンドは生き物だから当然毎日変化する。構成する個人の内面の変化、一対一の二人称の関係性の変化、トライアングルの三つ巴のバランスの変化、または一人が入れ替わったときにも変化する。しかしその中で関係性の形が変わっても最もブレが少なく、中心に確固たる意志を注ぎ込むのが灰野の存在であることは間違いない。過去のエピソードで「俺、不失者」と語ったと言われる灰野の言葉に嘘はない。入場前から仄かに漂う香の芳りと、ヴァイオリンの調べは会場の隅々まで不失者=灰野の世界に溺れさせ、聴き手の魂のトロけ方を促す溶液の役割を果たしている。



開演予定時刻を30分程過ぎて数個のキャンドルが灯された暗いステージに現れた不失者の演奏は、重厚なギターのストロークが完全に消失し、心のさざ波が聞こえそうなほどゆっくりとした間のとり方で次のストロークへ移行する超スローテンポの楽曲で幕を開けた。テンポ感とは特定の長さの連続した鼓動に支配されるものではない。その意味で不整脈より無呼吸症候群に近いかもしれない。脳や身体の一部が麻痺するような感覚に時間が巻き込まれて、音という空気のさざ波が生まれてから消失するまでの波形を靄のかかった聴覚と触覚で感じ取る人間の知覚の神秘に初めて触れた30分であった。そのまま感情の起伏と、逆に凍結するような冷静さを貫く2時間強の演奏にため息をつく暇もない。



20分の休憩のあと始まった2nd setは神に対する灰野からの存在証明請求に始まり、世に溢れる言葉の砲弾からの避難場所を求めても虚しいことはわかっていても尚更求めて止まない俗世の欲望愛好家にとって、「音」と「間」と「リズム」の奔流は浄化の行に他ならない。言葉と音楽の切っても切れない問題意識にのめり込みそうになりながら、催眠的なベースの伴奏で、歌に聴こえない歌を囁く灰野の魂まで、まだまだ遠くに在りて思ふばかりである。

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なりやまぬ




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